「創業1年目は設備投資や広告費がかさんで赤字だった…。赤字だから確定申告はしなくてもいいよね?」——そんなふうに思っていませんか?

実は、赤字の年こそ確定申告をしておくべき大きな理由があります。それが「損失の繰越控除」という制度です。この仕組みを知らずに申告をスキップしてしまうと、将来黒字化したときに本来払わなくてよかった税金を何十万円も余計に納めてしまう可能性があります。

この記事では、個人事業主と法人それぞれの損失繰越控除の仕組みを、具体的な数字を使いながらわかりやすく解説します。創業期の今だからこそ押さえておきたいポイントを、ぜひ最後までご覧ください。

そもそも「損失の繰越控除」とは?

損失の繰越控除とは、ある年(事業年度)に生じた赤字(損失)を翌年以降に繰り越し、黒字が出た年の所得と相殺できる制度です。つまり、赤字の年に確定申告をしておけば、その赤字分を「貯金」のように将来使うことができるのです。

この制度を利用するには、赤字の年にきちんと確定申告を行うことが大前提です。「赤字=税金がかからない=申告不要」と考えてしまうと、この大きなメリットを逃してしまいます。

個人事業主の場合:青色申告で最大3年間の繰越が可能

制度の概要

個人事業主が青色申告をしている場合、純損失の繰越控除として最大3年間、赤字を繰り越すことができます(所得税法第70条)。白色申告では、変動所得や被災事業用資産の損失など限定的なケースしか認められないため、必ず青色申告を選択しましょう。

具体例で見る節税効果

  • 1年目(2024年):事業所得 ▲300万円(赤字)→ 確定申告で損失を申告
  • 2年目(2025年):事業所得 +100万円(黒字)→ 繰越損失300万円のうち100万円を相殺 → 課税所得0円
  • 3年目(2026年):事業所得 +350万円(黒字)→ 残りの繰越損失200万円を相殺 → 課税所得150万円

もし1年目に確定申告をしていなかった場合、2年目は100万円、3年目は350万円に対してそのまま課税されます。所得税・住民税を合わせると、3年間トータルで数十万円以上の差が出ることも珍しくありません。

上記の例では、繰越控除を使わなかった場合の2年目・3年目の課税所得合計は450万円ですが、活用すれば150万円に圧縮できます。所得税率や住民税を考慮すると、概算で約45万円以上の節税になるケースもあります。

青色申告に必要な手続き

  • 事前に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出(原則、開業日から2か月以内。1月1日〜1月15日に開業した場合は3月15日まで)
  • 赤字の年に確定申告書Bと損失申告用の第四表を提出
  • 翌年以降も連続して確定申告を行う(1年でも申告を飛ばすと繰越が途切れます)

法人の場合:最大10年間の繰越が可能

制度の概要

法人の場合は、青色申告を行っていれば欠損金を最大10年間繰り越すことができます(法人税法第57条)。個人事業主の3年と比較すると、大幅に長い期間にわたって赤字を活用できる点が法人化の大きなメリットの一つです。

具体例で見る節税効果

  • 設立1期目:欠損金(赤字) ▲500万円 → 青色申告で欠損金を計上
  • 設立2期目:欠損金 ▲200万円 → 累計欠損金700万円
  • 設立3期目:所得 +400万円 → 繰越欠損金700万円のうち400万円を控除 → 課税所得0円
  • 設立4期目:所得 +500万円 → 残りの繰越欠損金300万円を控除 → 課税所得200万円

資本金1億円以下の中小法人であれば、欠損金の控除額に上限はなく、その期の所得の全額と相殺可能です。この例では、繰越控除がなければ3期目・4期目で合計900万円に対して課税されるところ、200万円まで圧縮できています。法人税率を約23%とすると、約161万円の法人税を軽減できる計算です。

法人で押さえるべきポイント

  • 設立初年度から「青色申告の承認申請書」を提出しておく(設立日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了日のうち、いずれか早い日の前日まで)
  • 欠損金が生じた事業年度の帳簿書類を保存しておく(原則7年間、欠損金がある年度は10年間の保存が必要)
  • 毎期連続して確定申告書を提出する

赤字でも確定申告をすべき、その他のメリット

損失の繰越控除以外にも、赤字の年に確定申告をしておくメリットがあります。

  • 純損失の繰戻し還付(個人・法人):前年(前期)が黒字だった場合、赤字を繰り戻して前年の税金の一部を還付してもらえる制度もあります。
  • 融資・補助金申請時の信用力:金融機関や行政の補助金審査では、確定申告書の控えが求められるケースがほとんどです。申告実績がないと信用力の面でマイナスになります。
  • 住民税・国民健康保険料の軽減(個人事業主):住民税の非課税判定や国民健康保険料の減額判定は、確定申告の情報をもとに行われます。無申告だと軽減措置を受けられない場合があります。

よくある失敗パターンと注意点

  • 「赤字だから申告しなかった」 → 翌年黒字化しても繰越控除が使えず、税負担が重くなる
  • 「青色申告の届出を出し忘れた」 → 白色申告扱いになり、損失繰越控除の対象外に
  • 「翌年の申告をうっかり飛ばした」 → 繰越しが途切れ、残っていた損失が消滅してしまう
  • 「帳簿書類を保存していなかった」 → 税務調査時に欠損金が否認されるリスク

いずれも「知らなかった」「忘れていた」が原因で起こりやすい失敗です。創業期の忙しい時期だからこそ、税理士と一緒に計画的に進めることをおすすめします。

まとめ:赤字の年こそ確定申告で「将来の節税の種」をまこう

創業期の赤字は決してネガティブなだけではありません。正しく確定申告を行えば、個人事業主なら最大3年間、法人なら最大10年間にわたって、将来の黒字と相殺して税負担を減らすことができます。

ポイントをまとめると以下のとおりです。

  • 赤字でも確定申告をする(損失の繰越控除を使うため)
  • 必ず青色申告を選択する
  • 翌年以降も連続して申告する
  • 帳簿書類をしっかり保存する

「自分のケースではどれくらい節税できるのか?」「青色申告の届出はまだ間に合うのか?」など、少しでも気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

平川文菜税理士事務所では、創業期の個人事業主・スタートアップ法人の税務サポートを行っています。赤字の確定申告から将来の税務戦略まで、一緒に考えていきましょう。

👉 無料相談・お問い合わせはこちら

👉 平川文菜税理士事務所 公式サイトはこちら