「開業したばかりで、パソコンやデスク、プリンターなど一気に買い揃えたけれど、これって全部経費にできるの?」「減価償却って何年もかけて経費にしなきゃいけないの?」──創業期の経営者から、こうしたご質問をいただくことは本当に多いです。
実は、中小企業者等であれば取得価額30万円未満の資産を購入した年に全額経費にできる「少額減価償却資産の特例」という制度があります。設備投資が集中する創業期にこそフル活用したい制度ですが、年間上限額や適用要件を正しく理解していないと、思わぬ落とし穴にはまることも。
この記事では、通常の減価償却や一括償却資産(20万円未満)との違いも含め、創業期に最も有利な資産の経費処理方法を具体例つきで解説します。
少額減価償却資産の特例とは?基本のしくみを確認
少額減価償却資産の特例(租税特別措置法第28条の2/第67条の5)は、青色申告をしている中小企業者等が、取得価額30万円未満の減価償却資産を取得した場合に、その全額をその事業年度(個人の場合はその年)の経費として一括で損金算入(必要経費算入)できる制度です。
適用を受けるための主な要件
- 青色申告をしていること(白色申告では適用不可)
- 資本金または出資金の額が1億円以下の法人、または常時使用する従業員数が500人以下の個人事業主であること
- 取得価額が1個(1組)あたり30万円未満(税込経理の場合は税込金額、税抜経理の場合は税抜金額で判定)
- 事業年度内に取得し、事業の用に供した(実際に使い始めた)こと
- 確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書(別表十六(七)等)を添付すること
年間合計300万円の上限に注意
この特例で一括経費にできる金額には、事業年度あたり合計300万円という上限があります。設立初年度で事業年度が12か月に満たない場合は、月数按分(300万円×その事業年度の月数÷12)となる点にも要注意です。
たとえば、7月1日に設立し、最初の事業年度が7月~12月の6か月間だった場合、上限は300万円×6÷12=150万円となります。
3つの経費処理方法を比較|どう使い分ける?
30万円未満の資産を購入した場合の経費処理方法は、主に以下の3パターンがあります。
①通常の減価償却(すべての資産に適用可)
法定耐用年数に応じて、定額法や定率法で毎年少しずつ経費にする方法です。たとえばパソコン(耐用年数4年)を25万円で購入した場合、定額法なら毎年約6.25万円ずつ4年間で経費化します。
②一括償却資産(取得価額20万円未満)
取得価額が20万円未満の資産は、法定耐用年数に関係なく3年間で均等に経費化(毎年1/3ずつ)できます。青色・白色を問わず適用可能で、年間の合計金額に上限がないのがメリットです。さらに、償却資産税(固定資産税)の課税対象外になる点も見逃せません。
③少額減価償却資産の特例(取得価額30万円未満)
前述のとおり、全額をその年に一括経費にできます。ただし年間300万円の上限があり、償却資産税の申告対象になる点は要注意です。
比較表で整理
以下の表で3つの方法を比較してみましょう。
- 通常の減価償却:上限なし/耐用年数で経費化/償却資産税あり
- 一括償却資産:20万円未満/3年均等で経費化/上限なし/償却資産税なし
- 少額減価償却資産の特例:30万円未満/全額即時経費/年間300万円上限/償却資産税あり
【具体例】創業初年度にPC・家具・ソフトを購入したケース
以下のような購入をした創業1年目(12か月間)の法人で考えてみましょう。
- ノートPC 3台:1台25万円(税抜)×3台=75万円
- オフィスデスク&チェアセット 5組:1組8万円×5組=40万円
- 業務用ソフトウェア 1本:18万円
- 複合機 1台:28万円
合計:161万円
最も有利な処理方法の組み合わせ
すべてを少額減価償却資産の特例で処理すると、161万円全額が初年度の経費になります。しかし、ここでひと工夫するのがポイントです。
- デスク&チェア(8万円×5組)とソフトウェア(18万円)→ 一括償却資産で処理
いずれも20万円未満なので、一括償却資産として処理すれば償却資産税の課税対象外にできます。初年度は1/3の約19.3万円が経費になります。 - ノートPC(25万円×3台)と複合機(28万円)→ 少額減価償却資産の特例で処理
20万円以上30万円未満の資産は特例を使い、合計103万円を初年度に全額経費化します。
この組み合わせなら、初年度の経費額は約122.3万円となり全額即時ではないものの、償却資産税の負担を抑えながら大部分を早期に経費化できます。どちらを優先するかは利益の状況によって判断しましょう。
よくある失敗・注意点
1. 白色申告では使えない
少額減価償却資産の特例は青色申告が必須です。創業時に青色申告承認申請書を出し忘れると適用できません。法人は設立後3か月以内、個人は開業後2か月以内(1月1日~1月15日開業の場合は3月15日まで)に提出が必要です。
2. 30万円の判定は税込?税抜?
消費税の経理処理方法によります。税込経理なら税込金額、税抜経理なら税抜金額で判定します。たとえば税抜28万円(税込30.8万円)の資産は、税抜経理なら特例適用OK、税込経理だと30万円以上で適用NGとなります。
3. 「10万円未満」はそもそも減価償却不要
取得価額が10万円未満の資産(または使用可能期間が1年未満のもの)は、特例を使うまでもなく全額を消耗品費等として経費処理できます。これは青色・白色を問いません。
4. 明細書の添付を忘れない
特例を適用する場合、確定申告書に明細書の添付が必要です。添付がなければ適用が認められないリスクがありますので、忘れずに提出しましょう。
2026年度(令和8年度)の適用期限について
少額減価償却資産の特例は租税特別措置法に基づく時限措置です。これまで複数回延長されており、令和8年(2026年)3月31日までに取得し事業の用に供した資産が現行の適用対象となっています。今後の税制改正で再延長される可能性はありますが、適用期限は必ず最新情報を確認してください。
まとめ:創業期は「使い分け」で最大限の節税効果を
- 30万円未満の資産は少額減価償却資産の特例で即時経費化が可能(年間300万円上限)
- 20万円未満の資産は一括償却資産(3年均等償却)も選択肢に。償却資産税がかからないメリットあり
- 10万円未満の資産はそもそも全額経費処理可能
- 青色申告の届出と明細書の添付を忘れずに
- 利益の見込みや償却資産税の負担を考慮して、最適な処理方法を組み合わせることが大切
創業期は設備投資が集中する一方で、利益が出にくい時期でもあります。「今年は赤字だから来年以降に経費を回したい」というケースでは、あえて通常の減価償却を選んだほうが有利になることもあります。
「自分のケースではどの方法がベストなの?」と迷ったら、ぜひ専門家にご相談ください。平川文菜税理士事務所では、創業期の経営者の方に向けた税務サポートを行っています。資産の経費処理から青色申告の届出まで、トータルでサポートいたします。
