「売上は伸びているはずなのに、なぜか手元にお金が残らない」「融資の面談で貸借対照表について聞かれたが、うまく答えられなかった」――創業期の経営者から、こうしたご相談をいただくことが少なくありません。損益計算書(PL)は毎月チェックしているのに、貸借対照表(BS)はほとんど見たことがない。実はこの「片方だけ見る習慣」が、資金ショートや融資審査の失敗といった深刻な問題につながることがあります。本記事では、創業期のステージ別にPLとBSのどちらを優先して確認すべきかを整理し、月次5分でできるセルフチェック法を解説します。

01PLばかり見てしまう理由と、その落とし穴

経営者がPLに偏る3つの理由

スタートアップ経営者がPL(損益計算書)に意識を集中させるのには、もっともな理由があります。

  • 売上・利益という「わかりやすい成績表」であること
  • 投資家や周囲への報告でも売上高や営業利益を求められる場面が多いこと
  • 会計ソフトのダッシュボードでも、PLの数字が目立つ位置に表示されること

しかし、PLだけを見ていると「黒字倒産」のリスクに気づけません。実際に、2025年の東京商工リサーチの調査では、倒産企業のうち約半数が直前期に経常黒字だったというデータもあります。利益が出ていても、売掛金の回収遅延や過剰な在庫投資でキャッシュが枯渇すれば、会社は立ち行かなくなります。

BSが教えてくれる「会社の体力」

貸借対照表(BS)は、ある時点での会社の財産と負債のバランスを示すものです。PLが「一定期間の成績」であるのに対し、BSは「今この瞬間の健康状態」を映し出します。銀行の融資審査では、自己資本比率や流動比率といったBS由来の指標が重視されるため、BSの健全性を把握しておくことは資金調達の成否に直結します。

ポイント:PLは「どれだけ稼いだか」、BSは「どれだけ体力があるか」を示します。どちらか一方だけでは経営の全体像はつかめません。車の運転にたとえるなら、PLはスピードメーター、BSは燃料計のようなものです。

02創業ステージ別・PLとBSの優先順位

「どちらも大事」と言われても、忙しい創業期に両方を同じ熱量で読み込むのは現実的ではありません。そこで、経営ステージごとにどちらを優先して確認すべきかを整理しました。

ステージ1:創業直後(設立~6か月)

この時期はまだ売上が安定せず、PLの数字は赤字が続くことも珍しくありません。それよりも重要なのは、BSの「現預金残高」と「純資産の推移」です。

  • 優先して見るべき:BS(特に現預金・純資産)
  • 確認の目安:手元資金があと何か月分の固定費をまかなえるか(ランウェイ)

たとえば、月の固定費が80万円で手元現預金が400万円であれば、ランウェイは約5か月です。この数字が3か月を切ったら、早急に資金調達や支出の見直しを検討すべきタイミングです。

ステージ2:売上が立ち始めた時期(6か月~2年)

売上が発生し始めたら、PLの重要度が上がります。この時期に確認すべきは、売上高に対する粗利率(売上総利益率)と、固定費のバランスです。

  • 優先して見るべき:PL(粗利率・営業利益率)
  • 同時にチェック:BSの売掛金と買掛金のバランス

「売上が月商300万円に達したのに、入金は翌々月末」というケースでは、PLは好調に見えてもBSの現預金は増えていません。売掛金の回収サイトを必ずBSで確認しましょう。

ステージ3:黒字化・安定成長期(2年~)

事業が軌道に乗った段階では、PLとBSをバランスよく読むことが求められます。特に融資を活用した設備投資や人材採用を検討する際には、BSの自己資本比率や借入金の返済余力が判断材料になります。

  • 優先して見るべき:PLとBSを同等に
  • 追加で確認:キャッシュフローの動き(資金繰り表との突合)

03月次5分でできるセルフチェック法

「財務諸表を読む時間がない」という方のために、毎月5分で完了するチェック手順をご紹介します。会計ソフトの月次試算表が出たら、以下の順番で確認してください。

ステップ1:BSの現預金残高を確認(1分)

まず貸借対照表の左上、「現金及び預金」の金額を確認します。先月と比べて増えているか減っているか、月の固定費の何か月分あるかを計算します。

ステップ2:PLの売上高と粗利率を確認(2分)

損益計算書の売上高を確認し、前月比・前年同月比で変動がないかチェックします。次に売上総利益を売上高で割り、粗利率を算出します。創業期の目安として、サービス業なら60~80%、小売業なら30~50%が一般的です。大きく下がっている月があれば、原価の見直しが必要です。

ステップ3:BSの売掛金・借入金を確認(2分)

売掛金が異常に膨らんでいないか(売上は伸びていないのに売掛金だけ増えていれば回収遅延の兆候)、借入金の残高が計画通りに減っているかを確認します。

注意:売掛金の残高が月商の2倍を超えている場合は要注意です。回収サイトの長期化や、最悪の場合は貸倒れの兆候かもしれません。早めに取引先への確認や、税理士への相談をおすすめします。

04融資審査で銀行が見ているBSのポイント

創業期に日本政策金融公庫や信用金庫から融資を受ける際、金融機関の担当者がBSで特に注目するのは以下の3点です。

  1. 自己資本比率:純資産÷総資産で算出。創業期でも最低10%以上、できれば20%以上を維持したいところです。
  2. 流動比率:流動資産÷流動負債で算出。100%以上あれば短期的な支払能力に問題がないと判断されます。200%以上あると安心材料になります。
  3. 現預金の水準:月商の1~2か月分が手元にあるかどうか。これが極端に少ないと「返済能力に不安がある」と見なされます。

PLで黒字を出していても、BSの自己資本がマイナス(債務超過)であれば融資のハードルは格段に上がります。2026年度の新規融資を検討している方は、今のうちからBSの改善に取り組んでおくことをおすすめします。

05数字が苦手でも大丈夫。「見る順番」を決めるだけで変わる

財務諸表に苦手意識がある方にお伝えしたいのは、「すべての数字を理解する必要はない」ということです。大切なのは、自社の経営ステージに合わせて「何を・どの順番で見るか」を決めておくことです。

たとえば、創業直後であれば「BSの現預金残高だけを毎月確認する」という習慣をつけるだけでも、資金ショートのリスクを大幅に下げられます。売上が安定してきたら「PLの粗利率を加える」、融資を考え始めたら「BSの自己資本比率を加える」と、段階的にチェック項目を増やしていけば無理がありません。

月次の試算表を税理士と一緒に確認する習慣を持てば、数字の読み方は自然と身についていきます。「数字はプロに丸投げ」ではなく、「プロと一緒に読む」というスタンスが、経営者としての判断力を高める最短ルートです。

この記事のまとめ
  • PLは「期間の成績」、BSは「今の体力」。両方見ることで経営の全体像がつかめる
  • 創業直後はBSの現預金残高を最優先で確認し、ランウェイ(資金の持続月数)を把握する
  • 売上が立ち始めたらPLの粗利率を重視しつつ、BSの売掛金にも目を配る
  • 融資審査では自己資本比率・流動比率・現預金水準がBSから評価される
  • 月次5分のセルフチェック(現預金→売上・粗利率→売掛金・借入金)を習慣化する
  • 経営ステージに応じて「見る順番」を決めておくだけで、数字への苦手意識は和らぐ