「従業員に夏の賞与を出してあげたいけれど、いくらが妥当なのか分からない」「賞与を払ったら資金繰りが一気に苦しくなりそうで怖い」——従業員を雇い始めたばかりの創業期の経営者から、6月に入るとこうしたご相談が急増します。賞与は従業員のモチベーションを高める有力な手段ですが、損金算入の要件や社会保険料の事業主負担など、給与とは異なるルールがあります。本記事では、少人数法人や創業間もない会社が「初めての夏の賞与」で失敗しないために、押さえておくべきポイントを整理します。

01従業員賞与の損金算入要件——届出は必要?不要?

まず最初に確認すべきは、「支給した賞与がきちんと会社の経費(損金)として認められるかどうか」です。結論から言えば、従業員に対する賞与は、原則として支給した事業年度の損金に算入できます。役員賞与のような事前届出は不要です。

損金算入が認められるための基本ルール

  • 支給日までに、各従業員に対する支給額が通知されていること
  • 通知した金額を実際に支給すること
  • 未払計上で期末をまたぐ場合は、通知日から1か月以内に支給すること(法人税法施行令72条の3)

たとえば2026年6月末決算の法人が、6月25日に従業員へ賞与を支給すれば、その期の損金に問題なく算入できます。一方、6月30日に「7月10日に支給する」と通知だけして期末を越える場合は、通知から1か月以内(7月30日まで)に実際に支給しなければ、その期の損金にはなりません。

ポイント:従業員賞与には「事前確定届出」は不要です。届出が必要なのは役員賞与(後述)だけですので、混同しないようにしましょう。

02役員賞与との決定的な違い——届出を忘れると全額損金不算入

創業期の法人では、経営者自身が役員であると同時に現場の中心人物であるケースがほとんどです。「自分にもボーナスを出そう」と考えるのは自然ですが、役員賞与には厳格なルールがあります。

事前確定届出給与の要件

  1. 株主総会等の決議で支給時期と支給額を確定させる
  2. 決議日から1か月以内、または事業年度開始の日から4か月以内のいずれか早い日までに、所轄税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する
  3. 届出どおりの金額を届出どおりの時期に支給する

届出を出していない、届出と1円でも金額が異なる、届出と支給日がずれた——いずれの場合も、支給した賞与の全額が損金不算入になります。つまり、賞与は出ていくのに税金は減らない、という最悪のパターンです。

2026年6月に役員賞与を出したいと今から考えている場合、届出期限はすでに過ぎている可能性があります。3月決算法人であれば、株主総会後1か月以内が通常の期限です。間に合わない場合は、今期の役員賞与は見送り、来期に向けて計画を立てるのが現実的です。

03社会保険料の事業主負担——賞与にかかる「見えないコスト」

賞与を支給すると、毎月の給与と同様に社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)と雇用保険料が発生します。見落としがちなのは、事業主負担分がそのまま会社のキャッシュアウトになる点です。

シミュレーション:従業員3人に各30万円の賞与を支給した場合

以下は東京都・協会けんぽ(2026年度料率の前提:健康保険料率10.00%、介護保険該当なし、厚生年金保険料率18.300%)で概算した例です。

  • 賞与総額:30万円 × 3人 = 90万円
  • 健康保険料(事業主負担):30万円 × 5.00% × 3人 = 4万5,000円
  • 厚生年金保険料(事業主負担):30万円 × 9.15% × 3人 = 8万2,350円
  • 雇用保険料(事業主負担、料率0.95%と仮定):30万円 × 0.95% × 3人 = 8,550円
  • 事業主負担の社会保険料等合計:約13万5,900円

つまり、賞与90万円を支給するために、会社は追加で約13.6万円の社会保険料等を負担することになります。実質的な支出総額は約103.6万円です。賞与額だけを見て資金繰りを考えると、この上乗せ分で計画が狂う可能性があります。

注意:賞与支給日から5日以内に「賞与支払届」を年金事務所(および健康保険組合)に提出する必要があります。届出を怠ると、後日まとめて保険料を請求されるだけでなく、従業員の年金記録にも影響が出ます。忘れずに対応しましょう。

04資金繰りを圧迫しない賞与額の決め方

創業期はキャッシュが命です。賞与を出すこと自体は良い判断でも、翌月の仕入代金や家賃が払えなくなっては本末転倒です。以下のステップで無理のない支給額を検討しましょう。

ステップ1:向こう3か月の資金繰り表を作る

賞与支給月(6〜7月)だけでなく、8月末までの入出金を一覧にします。売掛金の回収時期が遅れる可能性も織り込みましょう。

ステップ2:「賞与+社会保険料」の総額で考える

前章で見たとおり、賞与額の約15%が事業主負担の社会保険料等として上乗せされます。支給額ではなく総額でキャッシュアウトを把握してください。

ステップ3:手元資金の下限ラインを決める

一般的に、月商の1〜2か月分は手元に残しておきたいところです。賞与を支払った後でもこのラインを割らない金額に設定するのが安全です。

ステップ4:「出せる額」と「出したい額」を分けて考える

従業員のモチベーションを考えれば多く出したいのは当然ですが、会社が存続してこその賞与です。資金的に厳しければ、少額でも支給して「賞与を出す文化がある会社」という姿勢を示すことに意味があります。例えば月給の0.5か月分からスタートし、業績に応じて翌期以降に引き上げていくのも現実的な選択肢です。

05少人数法人が取れる現実的な選択肢

創業期の少人数法人では、以下のような柔軟な対応も検討に値します。

  • 決算賞与に切り替える:夏・冬の年2回ではなく、決算月に業績連動で1回だけ支給する方法です。利益が確定した段階で金額を決められるため、資金繰りの見通しが立てやすくなります。
  • 月次給与に上乗せする:賞与という形式を取らず、月額給与を引き上げる方法です。社会保険の標準報酬月額は変わりますが、賞与支払届の事務負担が減り、従業員にとっても毎月の手取りが安定します。ただし一度上げた給与は下げにくい点に注意が必要です。
  • 少額賞与+インセンティブの併用:基本の賞与は控えめに設定し、個人やチームの成果に応じたインセンティブを別途支給する方法です。人件費の変動費化につながります。

いずれの方法も、就業規則や雇用契約書との整合性を確認したうえで実施してください。「賞与は業績に応じて支給する場合がある」という規定にしておけば、業績が厳しい年に不支給としても労務トラブルを避けやすくなります。

この記事のまとめ
  • 従業員賞与は事前届出なしで損金算入できるが、未払計上する場合は通知から1か月以内の支給が条件
  • 役員賞与は「事前確定届出給与」の届出が必須。届出がなければ全額損金不算入になるため要注意
  • 賞与額の約15%が事業主負担の社会保険料等として上乗せされる。支給額ではなく総コストで資金繰りを考える
  • 手元資金の下限ラインを設定し、「出せる額」と「出したい額」を分けて判断する
  • 決算賞与への切り替えや月次給与への上乗せなど、少人数法人ならではの柔軟な設計も検討する