「自分の車を営業にも使っているけれど、ガソリン代はどこまで経費にできるの?」「自宅のネット回線代もいくらかは落とせる?」――創業期の経営者や個人事業主の方から、最もよくいただくご質問のひとつが、プライベートと事業で兼用している資産・費用の按分についてです。きちんとルールを押さえておかないと、税務調査で否認されてしまうリスクがあります。本記事では、車両を中心に、按分計算の考え方と「否認されないための記録の残し方」を具体的に解説します。

01事業共用資産の「按分」とは何か

按分の基本的な考え方

個人事業主の方が、プライベートでも事業でも使っている資産や費用がある場合、その全額を経費にすることはできません。所得税法第45条では、家事上の経費は必要経費に算入しないと定めています。一方、所得税法施行令第96条では「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額」については必要経費に算入できるとしています。

つまり、事業で使った割合を合理的に算出し、その割合に応じた金額だけを経費に計上する――これが「按分(あんぶん)」の考え方です。

法人の場合はどうなる?

法人の場合、社用車として会社名義で保有していれば、原則として関連費用は法人の経費となります。ただし、社長個人のプライベート利用割合が大きい場合、役員に対する経済的利益(役員給与)として否認されるケースがあります。法人でも按分の意識は必要です。

02車両にかかる費用の按分計算を具体例で理解する

按分対象となる主な費用

自家用車を事業にも使っている場合、按分の対象となる費用は多岐にわたります。

  • 減価償却費(車両の取得価額を耐用年数で配分)
  • ガソリン代・軽油代
  • 自動車保険料(任意保険・自賠責保険)
  • 駐車場代(月極・コインパーキング)
  • 車検費用・修理費
  • 自動車税(種別割)
  • 高速道路料金・有料道路代

按分割合の算出方法――走行距離が最も合理的

按分割合を算出する方法にはいくつかありますが、税務調査で最も認められやすいのは「走行距離」に基づく方法です。

たとえば、2025年分の年間総走行距離が12,000kmで、そのうち事業利用が7,200kmだった場合、事業使用割合は以下のようになります。

事業使用割合=7,200km ÷ 12,000km = 60%

年間のガソリン代が18万円であれば、経費計上額は18万円 × 60% = 10万8,000円です。減価償却費や保険料なども同じ60%で按分します。

ポイント:走行距離以外にも「利用日数」で按分する方法があります。たとえば週7日のうち5日を事業利用しているなら約71%とする計算です。ただし、1日に事業とプライベートの両方で使うケースでは精度が落ちるため、できるだけ走行距離ベースで記録するのがおすすめです。

減価償却費の按分で注意すべき点

車両を事業に使い始めた時点で、中古資産としての耐用年数を算出する必要があります。新車の普通自動車であれば法定耐用年数は6年ですが、たとえば3年落ちの中古車を事業転用した場合、簡便法では「(6年 − 3年)+ 3年 × 20% = 3.6年 → 3年」として計算します(1年未満切捨て)。事業使用割合を掛けた金額が経費となります。

03税務調査で否認されないための記録の残し方

走行距離記録は「リアルタイム」が鉄則

税務調査では「按分割合の根拠」を求められます。後から記憶を頼りに作成した記録は信頼性が低いとみなされるため、日々の記録が重要です。最低限、以下の情報を記録してください。

  1. 日付
  2. 行先・目的(例:○○株式会社への営業訪問)
  3. 出発時と帰着時のオドメーター(総走行距離計)の数値
  4. 走行距離(事業利用分)

記録はExcelやGoogleスプレッドシートでも構いませんし、スマートフォンの走行距離記録アプリを活用する方法も実務的です。月末に集計し、事業利用距離と総走行距離の比率を算出しておくとよいでしょう。

月初のオドメーター写真を撮っておく

さらに証拠力を高めるテクニックとして、毎月1日にオドメーターの写真をスマートフォンで撮影しておく方法があります。写真には自動的に日付データが記録されるため、走行距離記録との整合性を客観的に証明できます。

注意:「だいたい7割くらい仕事に使っているから」という感覚的な割合は、税務調査で否認される典型的なパターンです。2026年3月現在の実務でも、根拠資料がない按分は修正申告を求められるケースが多く見られます。必ず客観的な記録を残しましょう。

04車以外の共用資産・費用の按分も整理しよう

スマートフォン・インターネット回線

スマートフォンの通信料やインターネット回線費用も按分の対象です。通話明細やアプリの利用時間を根拠に事業使用割合を算出するのが理想ですが、実務上は「利用時間」や「利用日数」で按分するケースが多いです。事業利用割合として30~50%程度を計上している方が多い印象ですが、実態に合った割合であることが大前提です。

自宅家賃(家事按分)との違い

自宅兼事務所の家賃按分は、「面積比」で算出するのが最も一般的です。たとえば自宅の総面積が60平米で、事業専用スペースが12平米であれば、按分割合は20%となります。車両の走行距離とは按分の「基準」が異なる点に注意してください。

また、住宅ローンの元本返済部分は経費にはなりません。経費にできるのは、ローンの利息部分・固定資産税・火災保険料・減価償却費(建物部分のみ)などを面積按分した金額です。

05按分で失敗しないための3つの心がけ

最後に、創業期の経営者の方に心がけていただきたいポイントを3つにまとめます。

  1. 記録は「毎日」が難しければ「毎週」でも続ける:完璧を目指して挫折するより、週に一度まとめて記録する習慣をつけましょう。記録がゼロの状態とは雲泥の差があります。
  2. 按分割合は年に一度見直す:事業の状況は変わります。2025年度は事業利用60%だったものが、2026年度は取引先が増えて70%になることもあります。毎年の確定申告前に走行距離を集計し、実態に合った割合に更新してください。
  3. 迷ったら税理士に相談する:按分割合が「合理的」かどうかの判断には専門的な知見が必要です。とくに高額な車両を購入した場合や、法人成りのタイミングでは、事前に相談することで大きな節税につながることもあります。
この記事のまとめ
  • プライベートと事業で兼用する資産・費用は、合理的な基準で按分した事業利用分のみ経費にできる
  • 車両費用の按分は「走行距離」に基づく方法が税務調査で最も認められやすい
  • 日付・行先・目的・走行距離を日常的に記録し、月初のオドメーター写真も残しておくと証拠力が高まる
  • スマートフォンは利用時間、自宅家賃は面積比など、資産の種類によって按分基準が異なる
  • 按分割合は年に一度見直し、実態と乖離がないかチェックすることが重要