「妻(夫)に経理や事務を手伝ってもらっているけれど、給与を払っても経費にできるの?」――創業期のスタートアップ経営者や個人事業主から、こうしたご質問をよくいただきます。家族の手を借りること自体は自然なことですが、税務上の取り扱いを正しく理解していないと、せっかく支払った給与が経費として認められなかったり、扶養や社会保険で思わぬ負担が生じたりすることがあります。本記事では、2026年度の最新情報をもとに、個人事業主の青色事業専従者給与と、法人で家族を役員・従業員にする場合の違いをケース別に比較して解説します。

01家族への給与が「経費にならない」原則を知る

まず押さえておきたいのは、所得税法第56条の規定です。個人事業主が生計を一にする配偶者や親族に対して支払った対価は、原則として必要経費に算入できません。これは、家族間で自由に所得を分散させることを防ぐための規定です。

つまり「毎月10万円を妻に渡している」だけでは、税務上は経費として認められないのです。この原則に対する例外が、次に解説する「青色事業専従者給与」の制度です。

02個人事業主の場合:青色事業専従者給与の仕組み

青色事業専従者給与の要件

青色申告を行っている個人事業主は、一定の要件を満たした家族への給与を必要経費に算入できます。主な要件は以下のとおりです。

  • 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
  • その年の12月31日時点で15歳以上であること
  • 年間を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事していること
  • 「青色事業専従者給与に関する届出書」を所轄税務署に提出していること

届出書の提出期限に注意

届出書は、青色事業専従者給与を経費に算入しようとする年の3月15日まで(新規開業や新たに専従者がいることとなった場合は、その日から2か月以内)に提出する必要があります。たとえば2026年分の確定申告で経費計上するなら、2026年3月15日が期限です。届出を出し忘れたまま給与を支払っても、その年は経費にできません。

注意:青色事業専従者として届け出た家族は、配偶者控除や扶養控除の対象から外れます。たとえ給与が月額3万円であっても控除は受けられなくなるため、「専従者給与の金額」と「配偶者控除38万円(または配偶者特別控除)」のどちらが有利かを事前に試算することが大切です。

適正な給与額の考え方

届出書には支給額の上限を記載しますが、実際に支給する金額は「労務の対価として相当」と認められる範囲でなければなりません。税務調査で否認されないためのポイントは次のとおりです。

  1. 実際の勤務時間・業務内容を記録に残す
  2. 同業種・同規模の事業でパートや従業員を雇った場合の相場と比較する
  3. 事業の所得規模に対して過大でないこと

たとえば、年間売上500万円・所得200万円の事業で、事務を週3日手伝う配偶者に年間240万円の給与を支給するのは過大と判断される可能性が高いでしょう。実務上は月額8万円~15万円程度で設定するケースが多く見られます。

03法人の場合:家族を役員・従業員にする方法

法人なら所得税法56条の制限を受けない

法人を設立すれば、所得税法第56条の規定は適用されません。法人と個人は別の「人格」として扱われるため、配偶者や親族であっても正当な役員報酬や従業員給与として経費(損金)に算入できます。

家族を役員にする場合

配偶者を取締役などの役員にするケースでは、以下のルールに注意が必要です。

  • 役員報酬は原則「定期同額給与」とし、期首から3か月以内に決定、期中の変更は原則不可
  • 不相当に高額な部分は損金不算入となる(法人税法第34条第2項)
  • 実際に業務を行っている実態が求められる

たとえば配偶者が経理・総務を担当する場合、月額15万円~25万円程度の報酬であれば、一般的に「不相当に高額」と指摘されるリスクは低いと考えられます。ただし、勤務実態のない「名ばかり役員」に報酬を支払うのは税務調査で否認される典型的なパターンです。

家族を従業員にする場合

役員ではなく従業員として雇用する方法もあります。この場合は定期同額給与の縛りがなく、賞与も損金算入できるため柔軟な給与設計が可能です。ただし、経営者の配偶者が実質的に経営に関与している場合は「みなし役員」と認定されるリスクがある点に注意してください。

04個人と法人のケース別比較シミュレーション

ここでは、事業所得(法人の場合は役員報酬控除前の利益)が500万円のケースで、配偶者に月額10万円(年間120万円)を支給した場合の節税効果を概算で比較します。

ケースA:個人事業主+青色事業専従者給与

  • 事業主の課税所得:500万円 → 380万円に圧縮
  • 所得税・住民税の軽減効果:概算で約24万円~30万円程度
  • 配偶者控除38万円は使えなくなる
  • 配偶者側の所得税:給与所得控除55万円+基礎控除48万円で課税所得17万円、税額は約8,500円

ケースB:法人+配偶者を役員

  • 法人利益が120万円分圧縮され、法人税等の軽減効果あり
  • 配偶者側の税負担はケースAとほぼ同等
  • 社会保険の加入義務が生じる(後述)

節税額だけを見れば大きな差は出にくいものの、法人の場合は社会保険料の負担が加わるため、トータルコストでの比較が必要です。

ポイント:月額88,000円以上の給与を支給すると、法人の場合は社会保険(健康保険・厚生年金)の加入対象となり、会社負担分として給与の約15%前後のコストが上乗せされます。一方、個人事業主で従業員5人未満の場合は社会保険の強制適用とならないケースがあり、国民健康保険・国民年金での対応となります。目先の節税だけでなく、社会保険料を含めたシミュレーションを行いましょう。

05扶養・社会保険への影響を見落とさない

家族に給与を支給する際、税金以外で大きく影響するのが扶養と社会保険です。

所得税の扶養控除・配偶者控除

  • 青色事業専従者として届け出た場合:給与額にかかわらず配偶者控除・扶養控除の対象外
  • 法人から給与を受ける場合:年収103万円以下なら配偶者控除の対象、103万円超201.6万円未満なら配偶者特別控除の適用可能性あり

社会保険の扶養

  • 年収130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)であれば、社会保険の被扶養者として保険料負担なし
  • 法人の役員・従業員として一定以上の勤務がある場合は、自ら被保険者となる

「節税のために年間120万円支給したら、社会保険の扶養から外れて国保・年金の負担が増え、手取りが減った」という失敗は少なくありません。103万円・130万円・150万円のラインを意識した給与設計が重要です。

06実務で押さえるべきチェックリスト

最後に、家族に給与を支払う際に確認すべき事項をまとめます。

  1. 個人事業主の場合、青色事業専従者給与の届出書を期限内に提出しているか
  2. 届出書に記載した金額の範囲内で支給しているか
  3. 給与額は業務内容・勤務時間に対して適正か
  4. 勤務実態を証明できる記録(出勤簿・業務日報など)を残しているか
  5. 源泉徴収を正しく行い、納付しているか
  6. 配偶者控除・扶養控除との有利不利を比較したか
  7. 社会保険の扶養判定への影響を確認したか
  8. 法人の場合、定期同額給与のルールを守っているか
この記事のまとめ
  • 個人事業主が家族に給与を支払って経費にするには、青色事業専従者給与の届出が必須。届出なしでは所得税法56条により経費不算入となる
  • 法人であれば所得税法56条の制限を受けず、役員報酬・従業員給与として損金算入が可能。ただし定期同額給与のルールや「不相当に高額」の判定に注意
  • 青色事業専従者になると配偶者控除・扶養控除が使えなくなるため、トータルでの有利不利を事前に試算すること
  • 税金だけでなく、社会保険料(130万円の壁など)を含めた総合的なシミュレーションが不可欠
  • 勤務実態の記録を残し、適正な給与額を設定することが税務調査対策の基本