「法人を設立するなら、決算は3月でしょ?」——そう思い込んでいる方は少なくありません。確かに日本では3月決算の法人が最も多く、国税庁の統計でも全法人の約2割が3月決算を選んでいます。しかし、それはあくまで大企業や官公庁の会計年度に合わせた慣習であり、スタートアップや小規模法人にとってベストとは限りません。
事業年度の設定ひとつで、消費税の免税期間を最大限に活かせるか、繁忙期に決算作業が重ならないか、納税資金をスムーズに準備できるかが大きく変わります。本記事では、法人設立時に事業年度を決めるための判断軸を整理し、後から変更する場合の手続きと注意点もあわせて解説します。
そもそも事業年度とは?自由に決められるの?
事業年度とは、法人が会計上の区切りとする期間のことです。法人税法では1年以内であれば自由に設定できるとされており(法人税法第13条)、1月〜12月でも、7月〜翌6月でも構いません。極端な話、4月15日〜翌4月14日のような設定も法律上は可能です(実務上は月末締めが一般的です)。
つまり、3月決算にしなければならないルールは一切ありません。自社の経営状況に合った事業年度を選ぶことが重要です。
事業年度を決める5つの判断軸
①消費税の免税期間を最大化する
資本金1,000万円未満で法人を設立した場合、原則として設立から最大2事業年度は消費税が免税になります(消費税法第9条)。ここでポイントになるのが「第1期の長さ」です。
たとえば、7月1日に設立した法人が3月決算を選ぶと、第1期はわずか9か月。一方、6月決算にすれば第1期は丸々12か月になります。第1期+第2期で最大24か月の免税期間を確保するためには、設立日からできるだけ遠い月を決算月にするのがセオリーです。
※ただし、特定期間(前事業年度の開始から6か月間)の課税売上高と給与支払額がともに1,000万円を超える場合は、第2期から課税事業者になる可能性があります。また、インボイス登録を行う場合は設立初年度から課税事業者となるため、免税メリットが享受できない点にもご注意ください。
②繁忙期・売上のピークを避ける
決算月は、棚卸し・売掛金の確認・経費の精算など、通常業務に加えて多くの作業が発生します。売上のピーク時期や繁忙期と決算月が重なると、本業にも経理にも支障が出ます。
たとえば、小売業でクリスマス商戦がある12月が最繁忙期なら、12月決算は避けた方が無難です。繁忙期が終わって落ち着く1〜2月あたりを決算月にすれば、余裕を持って決算作業に取り組めます。
③利益予測を立てやすい時期にする
決算直前は節税対策を検討する大事な時期です。売上の見通しが立ちやすい時期に決算月を設定することで、役員報酬の見直しや設備投資のタイミングなど、戦略的な意思決定がしやすくなります。
逆に、売上の変動が大きい月を期末にしてしまうと、利益の着地が読めず、節税策も後手に回りがちです。
④納税資金の準備を考慮する
法人税・消費税・地方税の納付期限は、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。3月決算なら5月末が納付期限になります。
ここで注意したいのが、キャッシュが薄くなる時期との重なりです。たとえば、賞与支給が6月にある会社が3月決算にすると、5月に納税→6月に賞与と、短期間に大きな支出が集中します。資金繰りに余裕がある時期に納税期限が来るよう逆算して決算月を選ぶのも賢い方法です。
⑤税理士・会計事務所の繁忙期を避ける
3月決算法人の申告期限は5月末、個人の確定申告は3月15日です。つまり、2月〜5月は多くの税理士事務所にとって最繁忙期となります。この時期に決算が集中すると、税理士とのコミュニケーションが取りづらくなったり、じっくり節税相談をする時間が確保しにくくなる場合があります。
6月〜11月あたりを決算月にすると、税理士側にも余裕があるため、より丁寧なサポートを受けやすいというメリットがあります。
【具体例】設立日別・おすすめ決算月シミュレーション
消費税の免税期間を最大化する観点から、設立月ごとのおすすめ決算月の一例をご紹介します。
- 1月設立 → 12月決算(第1期:12か月)
- 4月設立 → 3月決算(第1期:12か月)
- 7月設立 → 6月決算(第1期:12か月)
- 10月設立 → 9月決算(第1期:12か月)
上記はあくまで消費税の免税期間だけに注目した場合の目安です。実際には、前述の5つの判断軸を総合的に考慮して決めることが大切です。
事業年度は後から変更できる?手続きと注意点
結論から言えば、事業年度は後からでも変更可能です。主な手続きは以下のとおりです。
- 株主総会の特別決議で定款の事業年度を変更する
- 異動届出書を所轄の税務署・都道府県税事務所・市区町村に提出する
- 変更後の最初の事業年度は、1年未満の「短縮事業年度」となる場合がある
注意点としては、短縮事業年度では減価償却費の計上限度額が月数按分になること、中小企業の年800万円以下の軽減税率の適用枠も月数按分になることが挙げられます。たとえば、6か月の短縮事業年度であれば、軽減税率が適用される所得の上限は400万円になります。
また、変更のタイミングによっては消費税の課税期間や届出にも影響が出る場合があるため、事前に税理士へ相談されることを強くおすすめします。
まとめ:事業年度は「経営判断」として戦略的に決めよう
事業年度の決め方ひとつで、免税期間・資金繰り・業務効率が変わります。改めて、決算月を決める際のポイントを整理します。
- 消費税の免税期間を最大化するなら、設立月から最も遠い月を決算月に
- 繁忙期や売上ピークと決算月を重ねない
- 利益予測が立てやすい時期を期末にする
- 納税資金の準備に余裕がある時期を逆算する
- 税理士の繁忙期(2〜5月)を避けると丁寧なサポートが受けやすい
「何となく3月」ではなく、自社にとってベストな事業年度を選ぶことが、設立初期の経営を安定させる第一歩です。
平川文菜税理士事務所では、法人設立時の事業年度のご相談から、設立届出書の作成、初年度の節税プランニングまでワンストップでサポートしています。「うちの場合、何月決算がいい?」というご質問だけでもお気軽にどうぞ。
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