「自宅で仕事をしているけれど、家賃や光熱費ってどこまで経費にしていいんだろう?」──創業初期のスタートアップ経営者や個人事業主の方から、私たちの事務所にもっとも多く寄せられるご相談のひとつです。コストを抑えるために自宅を事務所として使うのは賢い選択ですが、プライベートと事業の線引きが曖昧なまま経費計上していると、税務調査で思わぬ指摘を受けるリスクがあります。
この記事では、家事按分の基本的な考え方から、合理的な按分割合の決め方、そして税務調査で「なぜこの割合なのか」と問われても堂々と説明できる記録の残し方まで、個人事業主・法人それぞれのパターンに分けて具体的に解説します。
そもそも「家事按分」とは?
家事按分(かじあんぶん)とは、自宅兼事務所のように事業用とプライベート用が混在する支出について、事業で使っている割合だけを経費として計上する考え方です。所得税法第45条では、家事上の経費は原則として必要経費に算入できないと定められていますが、所得税法施行令第96条により「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」については必要経費にできるとされています。
つまり、「なんとなく半分くらい」ではなく、合理的な根拠に基づいて按分割合を算出し、それを説明できる状態にしておくことが重要です。
按分できる主な費用項目
- 家賃(賃貸の場合):事業使用面積の割合で按分するのが一般的
- 住宅ローンの利息(持ち家の場合):元本部分は経費にできないが、利息部分は按分可能
- 電気代:使用時間やコンセント数などで按分
- ガス代・水道代:事業との関連性が薄い場合は認められにくい(飲食業等を除く)
- 通信費(インターネット・携帯電話):使用時間や使用割合で按分
- 固定資産税・火災保険料(持ち家の場合):面積按分が基本
合理的な按分割合の決め方【具体例付き】
1. 面積按分(もっとも基本的な方法)
自宅全体の床面積のうち、事業専用で使用しているスペースの割合で按分します。
【計算例】
自宅の総床面積:80㎡
事業専用スペース(書斎・作業部屋):20㎡
按分割合:20㎡ ÷ 80㎡ = 25%
家賃が月10万円の場合、月2万5,000円(年間30万円)が経費になります。
2. 時間按分(電気代・通信費に有効)
1日のうち事業に使っている時間の割合で按分する方法です。
【計算例】
1日の在宅時間:16時間(睡眠8時間を除く)
うち事業使用時間:8時間
按分割合:8時間 ÷ 16時間 = 50%
ただし、電気代の場合は「面積按分×時間按分」と組み合わせるとさらに合理的です。たとえば面積按分25%×時間按分50%=12.5%とする考え方もあります。
3. 面積按分と時間按分の使い分け
- 家賃・固定資産税・火災保険→ 面積按分が適切
- 電気代→ 面積按分または時間按分(併用も可)
- 通信費→ 時間按分または使用実態に基づく割合
- ガス代・水道代→ 事業との直接的な関連が説明できる場合のみ按分可能
個人事業主と法人で異なるポイント
個人事業主の場合
個人事業主は、上記の家事按分の考え方がそのまま適用されます。確定申告書の収支内訳書(または青色申告決算書)に按分後の金額を記載し、按分の根拠資料を保管しておきましょう。
注意点:青色申告の場合は「業務の遂行上直接必要な部分」を合理的に区分できればOKですが、白色申告の場合は「主たる部分が業務に必要であり、かつ明らかに区分できる場合」とやや厳しい基準が適用されます。節税の面からも、青色申告を選択しておくことをおすすめします。
法人の場合
法人が代表者の自宅を事務所として使用する場合、主に2つの方法があります。
- 法人が賃貸契約を結び、社宅として代表者に貸す方法:法人が家主に家賃を支払い、代表者から「賃貸料相当額」を徴収します。差額が法人の経費となります。
- 代表者個人が契約し、法人に転貸(又貸し)する方法:代表者が法人から事業使用分の家賃を受け取ります。法人側では支払家賃として経費計上し、代表者側では不動産所得(または雑所得)として申告が必要です。
法人の場合は、個人事業主のような「家事按分」という概念ではなく、法人と個人間の取引として適正な対価でやり取りするという形になります。契約書や取締役会議事録など、取引の根拠書類をしっかり整備しておくことが重要です。
税務調査で指摘されないための記録術
税務調査で家事按分が問題になるケースの多くは、「按分割合の根拠が説明できない」ことが原因です。以下の記録を日頃から残しておきましょう。
1. 間取り図に事業スペースを明示する
自宅の間取り図(不動産会社からもらったものでOK)に、事業専用スペースを色分けして明示し、各部屋の面積を記入しておきます。「この部屋は仕事専用です」と一目でわかる資料があると非常に強力です。
2. 按分計算の根拠メモを作成する
「総面積○㎡のうち事業用○㎡、按分割合○%」という計算過程を、Excelやメモでまとめておきます。開業時に一度作成し、引っ越しやレイアウト変更があれば都度更新しましょう。
3. 業務日報・作業ログを残す
時間按分を採用する場合は、日々の業務時間がわかる記録が必要です。Googleカレンダーやタスク管理ツールの記録でも構いません。「平日は平均8時間、土日は作業なし」など、実態に即したパターンを説明できるようにしておきましょう。
4. 事業専用スペースの写真を撮っておく
デスク・PC・書棚など、事業に使用している部屋の様子がわかる写真を年に1回程度撮影しておくと、実態を示す補強資料になります。スマートフォンで撮影すれば日付データも残るので手軽です。
5. 契約書・請求書を整理保管する
賃貸借契約書、電気・通信の契約書や毎月の請求書・領収書は、紙またはデータで最低7年間保管してください。法人の場合は10年間の保管が推奨されます。
よくある失敗パターンと対策
- 按分割合を高くしすぎる:リビングや寝室を「事業にも使っている」として80〜90%の按分にすると、ほぼ確実に税務調査で否認されます。事業専用でないスペースは、按分対象に含めないのが安全です。
- 毎年按分割合がコロコロ変わる:合理的な理由(引っ越し、部屋の使い方の変更など)がなく割合が変動すると、「都合のいい数字に調整しているのでは?」と疑われます。
- ガス代・水道代を安易に計上する:デスクワーク中心の業種で水道代やガス代を按分計上すると、「事業との関連性が不明」として否認されるリスクがあります。
まとめ
自宅兼事務所の経費按分は、「合理的な基準」と「説明できる記録」の2つが揃っていれば、正当に経費として認められます。ポイントを整理すると以下のとおりです。
- 面積按分・時間按分など、費用項目に応じた合理的な基準を採用する
- 個人事業主は家事按分として処理し、法人は法人・個人間の取引として整理する
- 間取り図、計算根拠メモ、業務日報、写真などの証拠資料を日頃から残しておく
- 按分割合は「控えめに、一貫性をもって」設定するのが税務調査対策の鉄則
「自分のケースではどのくらいの按分割合が妥当なのか」「法人成りした場合の自宅家賃の扱いを整理したい」など、個別のご事情に応じたアドバイスが必要な方は、ぜひお気軽にご相談ください。
平川文菜税理士事務所では、創業期の経費処理や税務調査対策について、丁寧にサポートいたします。
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