「法人設立の届出は出したから、もう手続きは完了」――そう思っていませんか?個人事業主から法人化(法人成り)した際、法人側の届出だけで安心してしまい、個人側の廃業届や予定納税の減額申請を忘れるケースは後を絶ちません。その結果、個人と法人の二重課税が発生したり、社会保険の空白期間ができたりと、思わぬ落とし穴にはまることがあります。本記事では、2026年3月時点の制度をもとに、法人成り前後で提出すべき届出を「法人側」「個人側」に分けて時系列で整理します。チェックリストとして活用し、漏れのない法人成りを実現しましょう。

01なぜ届出漏れが起きるのか?「二つの人格」を意識する

法人成りとは、個人事業を廃業し、新たに法人という「別の人格」で事業を開始することを意味します。税務上、個人事業主と法人はまったく別の納税者です。したがって、法人設立に伴う届出と、個人事業の廃止に伴う届出の両方が必要になります。

しかし実務では、法人設立の手続きに意識が向くあまり、個人側の廃業届や青色申告の取りやめ届出が後回しになりがちです。特に以下のようなトラブルが多く見られます。

  • 個人の廃業届を出さなかったため、翌年も個人事業税の申告が求められた
  • 予定納税の減額申請を忘れ、個人として多額の予定納税を納付してしまった
  • 社会保険の切り替えが遅れ、健康保険の空白期間が発生した
  • 法人側の青色申告承認申請を期限内に提出できず、初年度から青色申告が使えなかった

こうした事態を防ぐために、「法人の届出」と「個人の届出」を分けて管理することが重要です。

02【法人側】法人設立後に提出すべき届出一覧

法人を設立したら、まず法人としての届出を行います。設立日を基準に、それぞれの提出期限を確認しましょう。

税務署への届出

  1. 法人設立届出書:設立の日以後2か月以内に、納税地の所轄税務署へ提出します。定款の写しなどの添付が必要です。
  2. 青色申告の承認申請書:設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までに提出します。たとえば4月1日設立・3月決算の法人であれば、6月30日が期限です。
  3. 給与支払事務所等の開設届出書:給与の支払いを開始した日から1か月以内に提出します。役員報酬を支払う場合も対象です。
  4. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書:給与を支払う従業員が常時10人未満の場合に提出できます。提出すると、源泉所得税の納付が年2回(7月・1月)にまとめられます。
  5. 消費税に関する届出:資本金1,000万円以上で設立した場合は、設立初年度から課税事業者となります。また、インボイス発行事業者の登録申請が必要な場合は、適格請求書発行事業者の登録申請書も提出します。

都道府県税事務所・市区町村への届出

  • 法人設立届出書:都道府県税事務所および市区町村(東京23区は都税事務所のみ)に提出します。提出期限は自治体ごとに異なりますが、おおむね設立から15日~1か月以内です。

年金事務所への届出

  • 健康保険・厚生年金保険 新規適用届:法人は従業員の有無にかかわらず社会保険の強制適用事業所となります。事実発生から5日以内に届出が必要です。あわせて被保険者資格取得届も提出します。

ポイント:法人の青色申告承認申請書は、個人時代に青色申告をしていたとしても改めて法人として提出する必要があります。個人の青色申告の承認が法人に引き継がれることはありませんので、設立直後に提出を済ませましょう。

03【個人側】廃業時に提出すべき届出一覧

法人成りで見落としがちなのが、個人事業の「たたみ方」に関する届出です。以下を忘れずに提出しましょう。

税務署への届出

  1. 個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届):事業廃止の事実があった日から1か月以内に提出します。
  2. 所得税の青色申告の取りやめ届出書:青色申告を取りやめようとする年の翌年3月15日までに提出します。ただし廃業届と同時に提出するのが実務上安全です。
  3. 給与支払事務所等の廃止届出書:個人事業で従業員を雇用していた場合、廃止の日から1か月以内に提出します。
  4. 消費税の事業廃止届出書:個人として課税事業者であった場合に、速やかに提出します。
  5. 予定納税額の減額申請書:法人成りにより個人の所得が大幅に減少する場合、予定納税額の減額を申請できます。第1期分は7月15日まで、第2期分は11月15日までが申請期限です。年の途中で法人成りした場合には特に重要な手続きです。

都道府県税事務所への届出

  • 個人事業の廃業届:個人事業税の課税対象から外れるために提出します。自治体により名称・様式が異なりますので、所轄の都道府県税事務所に確認してください。

注意:予定納税の減額申請を忘れると、廃業後にもかかわらず前年の所得をベースにした高額な予定納税を求められます。たとえば前年の申告納税額が50万円であった場合、第1期・第2期あわせて約33万円の予定納税が発生します。確定申告で精算はできますが、キャッシュフローに大きな影響を与えるため、法人成り直後に減額申請を検討しましょう。

04時系列で見る法人成り届出チェックリスト

ここまでの内容を、法人設立日を基準とした時系列で整理します。たとえば2026年4月1日に法人を設立し、同日で個人事業を廃業するケースを想定します。

設立日~5日以内

  • 【法人】健康保険・厚生年金保険 新規適用届(年金事務所)
  • 【法人】被保険者資格取得届(年金事務所)

設立日~1か月以内

  • 【法人】給与支払事務所等の開設届出書(税務署)
  • 【法人】源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(税務署・該当する場合)
  • 【個人】個人事業の廃業届(税務署)
  • 【個人】給与支払事務所等の廃止届出書(税務署・該当する場合)
  • 【個人】消費税の事業廃止届出書(税務署・該当する場合)

設立日~2か月以内

  • 【法人】法人設立届出書(税務署)
  • 【法人】法人設立届出書(都道府県税事務所・市区町村)

設立日~3か月以内(または最初の事業年度終了日の前日)

  • 【法人】青色申告の承認申請書(税務署)

その他(期限に注意)

  • 【個人】所得税の青色申告の取りやめ届出書(翌年3月15日まで)
  • 【個人】予定納税額の減額申請書(第1期分は7月15日まで)
  • 【個人】廃業年分の確定申告(翌年2月16日~3月15日)
  • 【個人】個人事業の廃業届(都道府県税事務所)

05社会保険の空白期間を防ぐために

法人は社会保険(健康保険・厚生年金)の強制適用事業所です。代表取締役1人の法人であっても加入義務があります。個人事業主時代に国民健康保険・国民年金に加入していた方は、法人設立後すみやかに社会保険への切り替えを行いましょう。

手続きが遅れると、健康保険証が届くまでの間に医療費を全額自己負担するリスクがあります。また、従業員を雇用する場合は労働保険(労災保険・雇用保険)の手続きも必要です。労働基準監督署への「保険関係成立届」は保険関係が成立した日の翌日から10日以内、ハローワークへの「雇用保険適用事業所設置届」は設置の日の翌日から10日以内が期限となっています。

06法人成り後の確定申告を忘れずに

年の途中で法人成りした場合、その年の1月1日から廃業日までの所得について、個人として確定申告が必要です。法人の決算とは別に、翌年の2月16日~3月15日に所得税の確定申告を行います。

このとき、個人事業時代の売掛金の回収や在庫の引き継ぎなど、個人と法人の間の取引を適切に処理しておくことが重要です。処理を誤ると、個人側と法人側で二重に売上が計上されるなどの問題が生じます。

この記事のまとめ
  • 法人成りでは「法人設立の届出」と「個人廃業の届出」の両方が必要。どちらか一方だけでは不十分
  • 法人の青色申告承認申請書は個人時代の承認とは別物。設立後3か月以内(または初年度終了日の前日まで)に提出を
  • 予定納税の減額申請を忘れると、廃業後も高額な予定納税が発生しキャッシュフローを圧迫する
  • 社会保険の新規適用届は事実発生から5日以内。空白期間を作らないために設立直後に手続きを
  • 廃業年の確定申告(個人)と、法人の初年度決算は別々に行う必要がある
  • 届出の種類が多いため、本記事のチェックリストを活用して提出漏れを防ぐことが大切