「創業1期目から業績が好調で、自分や共同創業者にボーナスを出したい」——そんなうれしい悩みを抱えるスタートアップ経営者は少なくありません。しかし、法人における役員への賞与(ボーナス)は、個人事業や従業員給与とはまったく異なるルールが適用されます。手続きを一つ間違えるだけで「全額が損金不算入=経費にならない」という厳しい結果を招き、法人税の負担が大幅に増えてしまうことも。本記事では、事前確定届出給与の届出期限・記載のポイントから、実務で本当に多い失敗パターンまで、創業期の経営者向けにわかりやすく解説します。

01そもそも「役員賞与」はなぜ経費にならないのか

法人税法では、役員に対する給与のうち損金(経費)に算入できるものを限定的に定めています。具体的には次の3つの類型だけが損金算入を認められています(法人税法第34条)。

  1. 定期同額給与——毎月同じ額を支給する、いわゆる月額報酬
  2. 事前確定届出給与——あらかじめ届出をしたうえで、届出どおりの時期・金額で支給する給与(役員賞与はここに該当)
  3. 業績連動給与——有価証券報告書を提出する大企業向けの制度で、スタートアップにはほぼ関係ありません

つまり、届出をせずに「今期は利益が出たから役員に100万円ボーナスを出そう」と支給すると、その100万円は全額損金不算入になります。法人税の実効税率を約30%と仮定すると、届出なしで100万円支給した場合、約30万円の追加税負担が生じる計算です。さらに、受け取った役員個人側では所得税・住民税も課されるため、法人・個人の”二重課税”のような状態になってしまいます。

02事前確定届出給与の届出期限を正確に把握する

事前確定届出給与を損金に算入するためには、所轄税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出しなければなりません。届出期限は次のとおりです。

原則的な届出期限(既存法人の場合)

株主総会等の決議日(届出に係る定めをした日)から1か月を経過する日、または会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日が届出期限です。

たとえば3月決算法人が2026年6月25日の定時株主総会で役員賞与の支給を決議した場合、届出期限は以下のように判定します。

  • 決議日から1か月後:2026年7月25日
  • 事業年度開始日(2026年4月1日)から4か月後:2026年7月31日
  • いずれか早い日 → 2026年7月25日が届出期限

新設法人(創業期)の届出期限

設立事業年度の場合は、設立の日以後2か月を経過する日が届出期限となります。たとえば2026年4月1日に法人を設立した場合、届出期限は2026年5月31日です。創業直後のバタバタした時期にこの期限を見落とすケースが非常に多いため、特に注意してください。

ポイント:届出期限は「届出書が税務署に届いた日」ではなく「届出書を提出した日」で判定されますが、郵送の場合は通信日付印(消印)の日付が提出日となります。期限ギリギリの場合は、窓口持参またはe-Taxでの電子提出が確実です。

03届出書の記載で押さえるべきポイント

届出書には、次の事項を正確に記載する必要があります。

  • 支給対象の役員氏名・役職
  • 支給時期(具体的な年月日)——「12月頃」のような曖昧な記載はできません。「2026年12月25日」のように確定日を記載します。
  • 支給金額(確定額)——「100万円程度」ではなく「1,000,000円」と確定した金額を記載します。

届出は役員ごと・支給時期ごとに記載が必要です。年2回のボーナス(夏・冬)を予定する場合は、それぞれの支給日と金額を個別に記載します。

04届出後に金額・支給日を変更したらどうなる?

ここが最も失敗の多いポイントです。原則として、届出内容と実際の支給が1円でも、1日でも異なると全額が損金不算入となります。

ケース1:届出額より多く支給した場合

届出額100万円に対して120万円を支給した場合、差額の20万円だけでなく120万円全額が損金不算入です。

ケース2:届出額より少なく支給した場合

届出額100万円に対して80万円を支給した場合も、届出どおりの支給ではないため80万円全額が損金不算入と解されるリスクがあります。「減額なら大丈夫だろう」という思い込みは危険です。

ケース3:支給日を変更した場合

届出で「2026年12月25日」としていたのに、資金繰りの都合で12月28日に支給した場合も、届出どおりの支給時期ではないため損金不算入となるおそれがあります。

ケース4:業績悪化による変更

経営状況が著しく悪化した場合などのやむを得ない事情がある場合に限り、変更届出書を提出することで対応できる余地があります(法人税法施行令第69条第1項第1号)。ただし「当初の見込みより利益が少なかった」程度では認められず、ハードルは非常に高いと考えてください。

注意:「業績が思ったほど伸びなかったから減額したい」「資金繰りが少し厳しいから支給日をずらしたい」という理由は、税務上の「やむを得ない事情」には該当しないのが通常です。届出をする段階で、確実に支給できる金額・日程を慎重に設定することが重要です。

05創業期に多い失敗パターン3選

失敗パターン1:届出の存在自体を知らなかった

「従業員と同じ感覚でボーナスを出した」というケースです。顧問税理士がいない創業期に特に多く、決算時に損金不算入を指摘されて初めて制度を知るパターンです。

失敗パターン2:届出期限を1日過ぎてしまった

設立後2か月の届出期限を「月末まで大丈夫だろう」と思い込み、実際には月末が届出期限の翌日だったケースや、郵送が届出期限に間に合わなかったケースがあります。届出期限は1日たりとも延長されません。

失敗パターン3:届出どおりに支給しなかった

届出は正しく提出したものの、年末の支給時期になって「今期は思ったより利益が出なかったから半額にしよう」と減額支給した結果、支給額全額が損金不算入になってしまうパターンです。支給しないという選択をするか、届出どおりの金額を支給するか、どちらかを選ぶ必要があります。

06事前確定届出給与を活用するための実務上のコツ

  • 保守的な金額で届け出る——業績の上振れを期待して高額を届け出ると、支給できなくなったときのリスクが大きくなります。確実に支給できる範囲で設定しましょう。
  • 支給日は余裕を持って設定する——届出の支給日と実際の支給日が1日でもずれると全額損金不算入のリスクがあります。「月末最終営業日」ではなく、確実に対応できる日付を選びましょう。
  • 届出書の控えを必ず保管する——届出書は提出用と控えの2部を用意し、税務署の収受印を押した控えを保管しておきましょう。e-Taxの場合は受信通知を保存します。
  • 創業初期から税理士に相談する——届出期限の管理や金額設定の判断は、専門家のサポートがあると安心です。
この記事のまとめ
  • 役員賞与を損金算入するには「事前確定届出給与に関する届出書」の提出が必須。届出なしの支給は全額損金不算入となる。
  • 届出期限は、既存法人は「決議日から1か月」と「事業年度開始から4か月」のいずれか早い日。新設法人は「設立日から2か月」。
  • 届出と実際の支給が金額・日付ともに完全に一致しなければ、全額損金不算入となるリスクがある。
  • 「業績が想定より悪かったから減額」は原則として認められない。届出時に確実に支給できる金額を保守的に設定することが大切。
  • 創業期は届出制度の存在自体を知らないケースが多いため、早い段階で税理士に相談しておくと安心。