「会社のお金と自分のお金、ちゃんと分けていますか?」

創業したばかりの頃は、会社の経費を社長個人のクレジットカードで立て替えたり、逆に会社の口座から個人的な支払いをしてしまったり――こうした「公私混同」が起きやすいものです。日々の忙しさの中では仕方がない面もありますが、決算書を見ると「役員貸付金」や「役員借入金」という勘定科目が数百万円単位で計上されていた、というケースは珍しくありません。

問題は、これらの科目が金融機関の融資審査でマイナス評価につながり、さらに税務調査でも指摘を受けるリスクがあるということです。本記事では、創業期に役員貸付金・役員借入金が発生しやすい典型パターンと、次の決算までに解消・縮小するための実践的なステップを税理士の視点から解説します。

そもそも「役員貸付金」「役員借入金」とは?

役員貸付金とは

役員貸付金とは、会社が役員(社長など)に対してお金を貸し付けている状態を指します。決算書上は資産の部(流動資産)に計上されます。典型的には、社長が会社の口座から個人的な支出をした場合や、使途不明金が社長への貸付として処理されるケースで発生します。

役員借入金とは

役員借入金とは、逆に役員個人が会社にお金を貸し付けている状態です。決算書上は負債の部(流動負債)に計上されます。創業時に社長個人の資金を資本金ではなく貸付として会社に入れた場合や、経費の立替精算が未処理のまま残っているケースで発生します。

なぜ融資審査で不利になるのか?

役員貸付金が問題視される理由

  • 資金流出とみなされる:金融機関は「融資した資金が社長個人に流れるのではないか」と警戒します。実際、役員貸付金が500万円以上ある会社では融資の減額や否決につながるケースも少なくありません。
  • 資産の実質価値が疑われる:回収可能性が不透明なため、実質的な純資産を低く見積もられます。たとえば決算書上の純資産が1,000万円でも、役員貸付金が800万円あれば「実質純資産は200万円」と評価されることがあります。
  • 経営管理能力への疑問:公私の区別ができていない経営者という印象を与え、経営者としての信頼性が損なわれます。

役員借入金が問題視される理由

  • 返済リスクの懸念:金融機関から見ると、銀行融資よりも役員借入金の返済が優先されるのではないかという懸念が生じます。
  • 実質的な債務超過の可能性:役員借入金を「資本」とみなせるかどうかは金融機関の判断次第です。ただし、役員借入金については「返済を求めない」旨の意思表示があれば、実質的に自己資本と評価してもらえるケースもあります。

創業期に発生しやすい5つの典型パターン

以下は、平川文菜税理士事務所でも実際にご相談いただくことの多いパターンです。

パターン①:社長個人のカードで経費を立て替え続けている

法人カードを作る前に、個人カードで仕入れや交際費を支払い、精算処理をしないまま決算を迎えると役員借入金が膨らみます。月5万円の立て替えでも12か月で60万円になります。

パターン②:会社口座から社長の生活費を引き出している

役員報酬とは別に会社の口座から個人的な支払い(家賃、保険料、生活費など)を行うと役員貸付金として計上されます。毎月10万円の引き出しでも、年間で120万円の貸付金が発生します。

パターン③:創業資金を「貸付」として入金した

資本金を少額に抑え、残りの資金を社長個人から「貸付」として入金するケースです。たとえば資本金100万円、社長からの借入500万円でスタートすると、決算書に500万円の役員借入金が計上されます。

パターン④:使途不明金を社長貸付に振り替えている

現金出納帳と実際の残高が合わない場合、差額を「とりあえず社長への貸付」として処理してしまうパターンです。これは税務調査でも厳しく追及されます。

パターン⑤:仮払金・立替金の精算漏れ

出張旅費や経費の仮払金が長期間精算されないまま残ると、決算時に役員貸付金として整理されることがあります。

税務上のリスクも見逃せない

役員貸付金の税務リスク

  • 認定利息の問題:会社が役員に無利息または低利で貸付を行った場合、税務上は一定の利率(令和6年中の貸付であれば年0.9%、令和7年中は年0.6% ※特例基準割合に基づく)で利息を計上する必要があります。利息を計上していないと、会社側で益金に算入されるリスクがあります。
  • 給与認定のリスク:返済の実態がない場合、貸付金ではなく役員賞与と認定される可能性があります。この場合、法人側では損金不算入、役員個人には所得税・住民税が課され、二重課税の状態になります。

役員借入金の税務リスク

  • 相続税の問題:役員借入金は社長個人にとっては「会社に対する貸付金(債権)」です。社長に万が一のことがあった場合、その貸付金が相続財産として課税対象になります。会社の財務状態が悪く回収見込みがなくても、額面どおりに評価されるケースがあるため注意が必要です。

次の決算までに解消・縮小する具体的ステップ

【役員貸付金を解消する方法】

  • ① 役員報酬から毎月返済する:最も一般的な方法です。たとえば役員報酬が月50万円の場合、毎月10万円を天引きして返済に充てれば、年間120万円の貸付金を解消できます。手取りは減りますが、確実に残高が減少します。
  • ② 役員賞与として処理する:事前確定届出給与として届出を行い、賞与で精算する方法です。ただし届出の期限や金額を厳守する必要があるため、税理士への事前相談が不可欠です。
  • ③ 個人資産で一括返済する:社長個人に返済資金がある場合は、一括返済が最もシンプルです。不動産や保険の解約返戻金などが活用できるケースもあります。
  • ④ 会社から適正な利息を徴収する:すぐに解消できない場合は、最低限、特例基準割合に基づく利率で利息を収受し、認定利息リスクを回避しましょう。

【役員借入金を解消する方法】

  • ① 会社の利益から計画的に返済する:毎月の資金繰りに余裕がある範囲で、計画的に返済していきます。返済計画書を作成しておくと、金融機関への説明にも使えます。
  • ② 債務免除(DES)を活用する:役員借入金を資本金に振り替えるDES(デット・エクイティ・スワップ)という方法があります。負債が減り自己資本が増えるため、財務体質が改善します。ただし、債務免除益が発生し法人税の課税対象となる場合があるため、繰越欠損金の状況を確認した上で実行する必要があります。
  • ③ 役員借入金の一部を免除する:社長が会社に対する貸付金を放棄(債務免除)する方法です。会社側で債務免除益が計上されますが、繰越欠損金と相殺できれば実質的な税負担を抑えられます。
  • ④ 金銭消費貸借契約書を整備する:すぐに解消できない場合でも、契約書を締結し、返済条件を明確にしておくことで、金融機関や税務署への説明が容易になります。

再発を防ぐための日常管理のポイント

  • 法人口座と個人口座を完全に分ける:基本中の基本ですが、創業期は徹底できていないケースが多いです。法人カードも早めに作成しましょう。
  • 経費精算は月1回以上行う:立替経費は翌月末までに必ず精算するルールを設けましょう。クラウド会計ソフトの経費精算機能を活用するのも効果的です。
  • 月次で試算表を確認する:月次決算で「役員貸付金」「役員借入金」の残高を毎月チェックする習慣をつけましょう。異常な増減があれば早期に対処できます。
  • 税理士と定期的にコミュニケーションを取る:年に一度の決算時だけでなく、月次や四半期ごとに税理士と財務状況を確認することで、問題の芽を早期に摘むことができます。

まとめ

「役員貸付金」「役員借入金」は、創業期の経営者であれば誰でも発生しうる科目です。しかし、放置すると融資審査でのマイナス評価税務調査での指摘相続時の思わぬ課税など、さまざまなリスクにつながります。

大切なのは、「発生させない仕組みづくり」と「発生してしまった場合の計画的な解消」の両方に取り組むことです。次の決算までにできることは必ずあります。

平川文菜税理士事務所では、創業期の経営者さまを対象に、決算書の改善・融資対策・税務リスクの軽減を総合的にサポートしています。「うちの決算書、大丈夫かな?」と少しでも気になった方は、お気軽にご相談ください。

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