「決算のときだけ数字を見る」──その習慣、経営リスクになっていませんか?
「確定申告の直前にまとめて帳簿を整理する」「決算書は税理士に任せていて、自分ではあまり見ない」──創業期の経営者やフリーランスの方から、こうしたお話をよく伺います。
日々の業務に追われていると、数字の確認はどうしても後回しになりがちです。気持ちはよくわかります。しかし、年に1回しか経営数字を振り返らないのは、健康診断を年1回受けるだけで、日々の体調管理を一切しないのと同じです。異変に気づいたときには、すでに手遅れということも少なくありません。
本記事では、忙しい創業期の経営者でも無理なく続けられる「四半期ごとの経営指標チェック」と「振り返りの習慣づくり」について、具体的な方法をお伝えします。数字を「年1回のイベント」から「日常の経営判断ツール」に変えていきましょう。
なぜ「四半期」なのか?──月次でも年次でもない理由
「毎月やるべきでは?」と思われるかもしれません。もちろん月次で数字を確認できれば理想的です。しかし、創業期は経営者自身がプレイヤーとして現場に立つことが多く、毎月の振り返りを継続するのは現実的に難しいケースがほとんどです。
一方で、年1回の決算では変化に気づくのが遅すぎます。たとえば、4月に粗利率が急落していたのに、それに気づくのが翌年3月の決算時だったら──約1年分の損失が積み重なっていることになります。
四半期(3ヶ月ごと)の振り返りは、次のような理由で創業期にちょうど良いサイクルです。
- 季節変動を含めたトレンドが見えやすい
- 軌道修正に十分なスピード感がある
- 年4回なら忙しくても続けやすい
- 補助金・融資の申請時にも直近の数字をすぐ出せる
四半期ごとにチェックすべき5つの経営指標
「何を見ればいいのかわからない」という方のために、創業期に特に重要な5つの指標をご紹介します。すべてを完璧に分析する必要はありません。まずは数字を「見る習慣」をつけることが最優先です。
①売上高と売上構成比
売上の「総額」だけでなく、どの商品・サービス・顧客からいくら売上が立っているかを確認しましょう。
たとえば、売上の70%が特定の1社に依存している場合、その取引先を失った瞬間に経営が立ち行かなくなります。一般的に、1社への売上依存度が30%を超えたら要注意と言われています。四半期ごとに構成比を確認し、リスクの偏りがないかチェックしましょう。
②粗利率(売上総利益率)
粗利率は「売上からの原価を引いた利益の割合」で、ビジネスの収益力を測る最も基本的な指標です。
計算式:粗利率 =(売上高 − 売上原価)÷ 売上高 × 100
業種によって目安は異なりますが、サービス業なら50〜70%、小売業なら25〜35%、飲食業なら60〜70%程度が一般的な水準です。前四半期と比較して5ポイント以上の変動があれば、原因を調べることをおすすめします。仕入価格の上昇、値引きの増加、サービス単価の低下など、早めに原因を特定できれば対策も打てます。
③固定費と損益分岐点売上高
家賃、人件費、リース料など、売上の増減にかかわらず毎月発生する固定費の総額を把握しておくことは極めて重要です。
計算式:損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 粗利率
たとえば、月間固定費が80万円で粗利率が40%の場合、損益分岐点売上高は200万円です。つまり、月200万円を売り上げなければ赤字ということ。この数字を知っているかどうかで、値付けや投資の判断が大きく変わります。
④運転資金回転率(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)
創業期に最も多い経営危機は「黒字倒産」、つまり利益は出ているのに手元資金が尽きる状態です。
確認すべきポイントは以下の3つです。
- 売掛金回収サイト:請求してから入金されるまで何日かかっているか
- 買掛金支払サイト:仕入先への支払いまで何日の猶予があるか
- 在庫回転期間:仕入れた在庫が売れるまでに何日かかるか
「売掛金の回収は60日後なのに、仕入れの支払いは30日後」という状態なら、常に30日分の資金を自前で賄わなければなりません。四半期ごとにこのギャップを確認し、回収サイトの短縮や支払い条件の交渉を検討しましょう。
⑤預金残高の推移(手元資金の月数)
最もシンプルで、最も重要な指標です。今の預金残高で、売上がゼロになっても何ヶ月持つかを確認しましょう。
計算式:手元資金月数 = 預金残高 ÷ 月間固定費
創業期は最低でも3ヶ月分、できれば6ヶ月分の固定費に相当する預金残高を維持したいところです。この数字が2ヶ月を切ったら、早急に資金調達やコスト削減を検討する必要があります。
忙しくても続けられる「四半期振り返りフレームワーク」
指標の重要性はわかっても、「具体的に何をすればいいの?」という声も多くいただきます。以下の3ステップフレームワークを使えば、1回あたり60〜90分で振り返りが完了します。
ステップ1:数字を「見る」(15分)
上記5つの指標を、会計ソフトの帳票やExcelシートから確認します。前四半期・前年同期の数字と並べて、増減の「方向」だけを把握しましょう。この段階では分析は不要です。
ステップ2:「なぜ?」を3つ書き出す(30分)
数字が大きく動いた指標について、その原因と考えられることを3つ書き出します。正解でなくて構いません。「大口案件が入った」「外注費が想定より膨らんだ」「新規顧客の獲得ペースが落ちた」など、仮説を立てることが大切です。
ステップ3:次の四半期の「やること」を決める(30分)
仮説をもとに、次の3ヶ月で取り組むアクションを最大3つ決めます。多すぎると実行できないので、優先順位をつけて絞り込みましょう。
たとえば以下のようなイメージです。
- 粗利率が下がっている → 原価の内訳を精査し、外注先の見直しを検討する
- 売掛金の回収が遅れている → 請求書の発行タイミングを月末から納品時に変更する
- 手元資金が減少傾向 → 日本政策金融公庫の融資制度を調べ、来月中に相談に行く
このフレームワークを毎年1月・4月・7月・10月の初めに実施するようカレンダーに登録しておけば、習慣化しやすくなります。
数字の振り返りを「一人で抱え込まない」ことも大切
創業期の経営者は、営業・開発・経理・人事をすべて一人でこなしていることが珍しくありません。数字の振り返りも「自分一人でやらなければ」と思いがちですが、税理士や会計の専門家と一緒に確認することで、見落としに気づけたり、客観的なアドバイスを得られたりするメリットがあります。
特に以下のようなケースでは、早めに専門家を頼ることをおすすめします。
- 数字の読み方がそもそもわからない
- 売上は増えているのに手元のお金が増えない
- 融資や補助金の申請を考えているが、何から準備すればいいかわからない
- 法人化のタイミングを判断したい
まとめ:数字を味方につける経営を始めましょう
今回の記事のポイントをまとめます。
- 年1回の決算だけの数字確認では、経営の異変に気づくのが遅すぎる
- 四半期ごとに「売上構成比」「粗利率」「損益分岐点」「運転資金回転」「手元資金月数」の5つを確認する
- 「見る → なぜを考える → 次のアクションを決める」の3ステップで、60〜90分の振り返りを習慣化する
- 専門家と一緒に数字を見ることで、精度と継続性が高まる
数字は、経営者を縛るものではありません。正しく使えば、最も信頼できる経営判断の味方になります。まずは次の四半期から、ぜひ振り返りの時間を確保してみてください。
平川文菜税理士事務所では、創業期の経営者の方を対象に、四半期ごとの経営数字の振り返りサポートや、経営計画の策定支援を行っております。「一人で数字を見るのは不安」「何から手をつければいいかわからない」という方は、お気軽にご相談ください。
事務所の詳細は平川文菜税理士事務所ホームページをご覧ください。
