「来期の売上目標は○○万円!」——そう掲げたものの、その数字がどんな根拠に基づいているか、すぐに説明できるでしょうか。
3月決算の法人や、新年度を迎える個人事業主にとって、まさに今が来期の計画を立てる絶好のタイミングです。ところが、多くのスタートアップや小規模法人の経営者とお話ししていると、「経営計画はあるけれど数字の裏付けがない」「数字は追っているけれど経営のビジョンとつながっていない」というケースが非常に多いと感じます。
経営計画と数字がバラバラのままでは、気づいたときには資金ショート寸前……という事態にもなりかねません。本記事では、売上目標・原価・固定費を整理して簡易予算を作る具体的な手順と、月次で予実管理を行い早期に軌道修正できる仕組みづくりのコツを紹介します。
なぜ「経営計画」と「数字」は離れてしまうのか
スタートアップ経営者の多くは、事業への情熱やビジョンは十分にお持ちです。しかし、いざ予算を作ろうとすると「何から手をつけていいかわからない」「会計ソフトに入力するだけで精一杯」という声が少なくありません。
経営計画と数字が離れてしまう原因は、主に次の3つです。
- 売上目標が「願望」で止まっている——「前年比120%」など根拠なく設定し、そこに至るプロセスが数字化されていない
- コスト構造が見えていない——原価と固定費の区分があいまいで、いくら売れば黒字になるかが不明
- 作りっぱなしで振り返りがない——年初に計画を立てても、月次で確認する仕組みがないため計画が形骸化する
これらを解消するのが、本記事でお伝えする「簡易予算 → 月次予実管理」のフレームワークです。
ステップ1:売上目標を「分解」する
まずは売上目標を、実際の事業活動に紐づく単位に分解しましょう。たとえば以下のようなイメージです。
サービス業の場合
- 月間の見込み顧客数 × 客単価 × 成約率 = 月間売上
- 例:月間問い合わせ 50件 × 平均単価 10万円 × 成約率 20% = 月間売上 100万円
物販・ECの場合
- 月間サイト訪問者数 × 購入率 × 平均購入単価 = 月間売上
- 例:月間訪問 10,000人 × 購入率 2% × 平均単価 5,000円 = 月間売上 100万円
このように分解すると、「売上を上げるには何を増やせばよいか」が明確になります。問い合わせ数を増やすのか、単価を上げるのか、成約率を改善するのか——打ち手が具体的になるほど、経営計画と数字がつながっていきます。
年間売上目標を12か月に割り振る際は、季節変動も考慮しましょう。繁忙期と閑散期がある業種では、均等割りではなく実態に合わせた月別配分にすることが重要です。
ステップ2:原価と固定費を整理して「損益分岐点」を把握する
次に、コスト面を整理します。ここでは大きく変動費(原価)と固定費に分けて考えます。
変動費(原価)の例
- 仕入原価、材料費
- 外注加工費
- 販売手数料、決済手数料
固定費の例
- 家賃・オフィス維持費
- 人件費(役員報酬含む)
- 通信費、ソフトウェア利用料
- 保険料、顧問料など
この2つを分けると、損益分岐点売上高が計算できます。
計算式はシンプルです。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
たとえば、月間固定費が80万円、変動費率が40%(売上の40%が変動費)の場合は次のとおりです。
80万円 ÷(1 − 0.4)= 80万円 ÷ 0.6 = 約133万円
つまり、毎月133万円以上の売上があれば黒字になるということです。この数字を知っているかどうかで、日々の経営判断のスピードと精度がまったく変わります。
ステップ3:12か月の「簡易予算表」を作る
ステップ1の売上計画とステップ2のコスト構造を組み合わせて、12か月分の簡易予算表を作成しましょう。最初から完璧を目指す必要はありません。Excelやスプレッドシートで十分です。
項目は最低限、以下があれば機能します。
- 売上高(月別)
- 変動費(売上高 × 変動費率で算出)
- 粗利(売上総利益)= 売上高 − 変動費
- 固定費(月別。大きな変動がなければ一定額でOK)
- 営業利益= 粗利 − 固定費
- 累計キャッシュフロー概算(利益の累計に近似。借入返済がある場合はその分を差し引く)
実際に数字を並べてみると、「この月は赤字だな」「このままだと8月に資金が底をつくかも」といった気づきが得られます。年初にこれがわかるだけで、対策を打てるタイミングがまったく違います。
ステップ4:月次「予実管理」で軌道修正する仕組みをつくる
予算は作っただけでは意味がありません。毎月、実績と比較する「予実管理」を習慣にすることが最も大切です。
予実管理を回す3つのポイント
- 毎月10日までに前月の数字を確定させる——クラウド会計を活用すれば、リアルタイムに近い数字が取得できます。遅くとも翌月10日には前月分を締めましょう。
- 差異が売上の10%以上なら原因を特定する——予算と実績に大きなズレがあった場合は、「売上が未達なのか」「コストが膨らんだのか」をすぐに分析します。10%はあくまで目安ですが、スタートアップのような変化の激しいフェーズでは、これくらいの感度で見ておくと安心です。
- 四半期ごとに予算自体を見直す——環境変化が速いスタートアップでは、年初の前提が3か月で変わることも珍しくありません。四半期ごとにローリングフォーキャスト(予算の修正・更新)を行いましょう。
この予実管理の仕組みがあるだけで、「気づいたら赤字だった」「資金繰りが急に苦しくなった」といった事態を大幅に減らすことができます。
予算管理を「経営の武器」にするために
ここまでの4ステップをまとめると、次のとおりです。
- ステップ1:売上目標を分解して根拠ある数字にする
- ステップ2:原価・固定費を整理し、損益分岐点を把握する
- ステップ3:12か月の簡易予算表に落とし込む
- ステップ4:月次の予実管理で毎月振り返り、四半期で見直す
大切なのは、最初から100点の予算を目指さないことです。精度は運用しながら上がっていきます。まずは「ざっくりでもいいから数字を見える化する」ことが第一歩です。
一方で、「自社の変動費率がわからない」「損益分岐点の計算に自信がない」「月次で振り返る時間がとれない」という方も多いのではないでしょうか。そんなときこそ、税理士を上手に活用していただきたいと思います。
まとめ——数字に強い経営者になるための第一歩を
経営計画と数字がつながった瞬間、経営者の視界は驚くほどクリアになります。「なんとなく不安」から「根拠をもって判断できる」へ——その転換点をつくるのが、予算と予実管理の仕組みです。
年度末の今こそ、来期の数字と向き合う時間をつくってみませんか。
平川文菜税理士事務所では、スタートアップ・小規模法人の経営者向けに、経営計画の策定サポートや月次予実管理の仕組みづくりをお手伝いしています。「何から始めればいいかわからない」という段階からでもお気軽にご相談ください。
事務所の詳細やその他のサービスについては、平川文菜税理士事務所 公式サイトをご覧ください。
