「えっ、こんなに税金を払うんですか……?」——創業支援の現場で、3年目を迎えた経営者からこの言葉を聞くことは決して珍しくありません。創業から2年間は消費税が免税だったのに、3年目に突然、数十万円〜数百万円の消費税の納税が発生する。事前に準備していなければ、資金繰りに大きな打撃を受けてしまいます。
この記事では、消費税の免税期間が終了するタイミングの判定方法から、簡易課税制度の活用、そして日頃からできる納税資金の積立方法まで、創業期の経営者が知っておくべきポイントを具体的な事例とともに解説します。
なぜ創業3年目に「突然の税金」が発生するのか
消費税には「免税事業者」という制度があります。原則として、基準期間(法人の場合は前々事業年度、個人事業主の場合は前々年)の課税売上高が1,000万円以下であれば、消費税の納税義務が免除されます。
創業1年目・2年目は、そもそも基準期間(前々事業年度)が存在しないため、原則として消費税が免税となります。しかし、創業3年目になると、1年目の売上高が基準期間として判定対象になります。1年目の課税売上高が1,000万円を超えていれば、3年目から課税事業者となり、消費税の申告・納税が必要になるのです。
特定期間にも要注意
基準期間の売上高が1,000万円以下であっても、特定期間(法人の場合は前事業年度の開始から6か月間)の課税売上高と給与等支払額がともに1,000万円を超える場合、翌期から課税事業者になります。つまり、創業2年目の上半期の業績が好調だった場合、想定より早く課税事業者になる可能性があるのです。
たとえば、2024年4月に設立した法人で、1年目(2024年4月〜2025年3月)の売上高が900万円だったとしても、2年目の上半期(2025年4月〜9月)の売上高と給与支払額がともに1,000万円を超えていれば、3年目(2026年4月〜)から課税事業者となります。
実際にどれくらいの納税額になるのか——具体例で見てみよう
ここで、創業支援の現場でよくある事例をもとに、消費税の納税額をシミュレーションしてみましょう。
【事例】ITサービス業・年間売上2,400万円のケース
- 年間売上高(税込):2,640万円(税抜2,400万円、消費税240万円)
- 年間仕入・経費(税込):1,100万円(税抜1,000万円、消費税100万円)
- 人件費(消費税の対象外):800万円
原則課税の場合の消費税納税額は、売上にかかる消費税240万円から仕入・経費にかかる消費税100万円を差し引いた約140万円です。
免税期間中は当然ゼロだったこの金額が、3年目からいきなり発生します。毎月の資金繰りに約12万円の追加負担が生じる計算です。さらに、初年度は中間申告がない場合、決算後に一括で納付することになるため、そのインパクトはさらに大きく感じられます。
簡易課税制度を選ぶべきか——判断のポイント
課税事業者になった場合、一定の条件を満たせば「簡易課税制度」を選択できます。これは、実際の仕入税額を計算する代わりに、売上にかかる消費税額に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けて仕入税額控除を計算する制度です。
簡易課税制度を選択できる条件
- 基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること
- 適用を受けようとする課税期間の開始日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すること
みなし仕入率の一覧
- 第一種事業(卸売業):90%
- 第二種事業(小売業):80%
- 第三種事業(製造業等):70%
- 第四種事業(その他):60%
- 第五種事業(サービス業等):50%
- 第六種事業(不動産業):40%
先ほどのITサービス業の事例で簡易課税(第五種・みなし仕入率50%)を適用すると、納税額は240万円 ×(1 − 50%)=120万円となり、原則課税の約140万円より約20万円の節税になります。
ただし、設備投資が多い年や、仕入が大きい業態の場合は、原則課税の方が有利になるケースもあります。簡易課税を選択すると原則として2年間は変更できないため、中長期の事業計画を踏まえて慎重に判断することが重要です。
今日からできる納税資金の準備方法
「課税事業者になることは分かったけど、いざ納税の時にお金が足りない」——これが最も避けたい事態です。以下の方法で、計画的に納税資金を準備しましょう。
1. 消費税分を「別口座」に毎月積み立てる
売上の入金があったら、消費税相当額(概算で売上の3〜5%程度)を別の預金口座に移しておく方法です。たとえば月商200万円(税抜)なら、毎月6〜10万円を「納税用口座」にプールします。これだけで、決算時に慌てることがなくなります。
2. 試算表を毎月チェックして納税額を予測する
月次の試算表(損益計算書)を見ながら、仮の消費税額を計算する習慣をつけましょう。クラウド会計ソフトを使っていれば、消費税の概算額をリアルタイムで確認できる機能が搭載されているものもあります。
3. 中間申告・中間納付を活用する
前年の消費税額が48万円を超えると、翌年に中間申告・中間納付が必要になります。年1回の中間納付(前年の消費税額の2分の1)が発生するため、これを「強制的な積立」と捉えて資金計画に組み込んでおきましょう。
4. 顧問税理士と早めに相談する
免税期間中から「いつ課税事業者になるか」「簡易課税を選ぶべきか」を税理士と相談しておくことが最も効果的です。届出書の提出期限を過ぎてしまうと、有利な制度を選択できなくなるケースもあります。
インボイス制度との関係も押さえておこう
2023年10月から始まったインボイス制度により、免税事業者であっても取引先から「適格請求書発行事業者」への登録を求められるケースが増えています。登録すると免税期間中であっても課税事業者となるため、消費税の納税が前倒しで発生する可能性があります。
BtoB取引が中心のスタートアップは、インボイス登録のタイミングと消費税の納税開始時期をセットで検討することが大切です。
まとめ——「知らなかった」では済まされない消費税、早めの準備がカギ
- 創業3年目は消費税の課税事業者になるかどうかの重要な節目
- 基準期間だけでなく、特定期間の売上・給与にも注意が必要
- 簡易課税制度の選択は、事業内容と中長期計画を踏まえて判断する
- 納税資金は毎月の積立で「見える化」しておくのが最も確実
- 届出書の提出期限は厳格——早めの相談が選択肢を広げる
消費税の納税で資金繰りが苦しくなるのは、「知らなかった」「準備していなかった」が原因です。逆に言えば、早い段階で正しい知識を持ち、計画的に準備すれば、怖いものではありません。
平川文菜税理士事務所では、創業期の経営者に向けた消費税の判定・届出・資金計画のサポートを行っています。「自分はいつから課税事業者になるの?」「簡易課税にすべき?」など、少しでも気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
また、創業期の税務全般については、平川文菜税理士事務所の公式サイトもあわせてご覧ください。
