「創業して間もないけれど、赤字決算のまま融資を申し込んでも大丈夫だろうか」――創業期の経営者なら、誰もが一度は抱える不安ではないでしょうか。実際、創業から1〜2年は先行投資がかさみ、赤字になることは珍しくありません。しかし、金融機関は単純に「赤字=NG」と判断しているわけではないのです。本記事では、赤字決算でも融資審査を有利に進めるための決算書の整え方や補足資料の作り方、金融機関とのコミュニケーション術を税理士の視点から解説します。

01金融機関は赤字の「中身」を見ている

創業初期に赤字が出ること自体は、金融機関も十分に理解しています。日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」によれば、開業1年目に黒字基調であった企業は約6割にとどまり、残りの約4割は赤字または収支トントンという結果です。つまり、創業期の赤字は一定数の事業者に共通する現象であり、それだけで門前払いにはなりません。

金融機関が重視するのは、赤字の「質」です。大きく分けると、次の2つに分類されます。

一過性の赤字(先行投資型)

設備投資、広告宣伝費、人材採用費など、将来の売上につながる支出によって一時的に赤字になっているケースです。事業計画に沿った投資であれば、金融機関は「成長のための赤字」として前向きに評価する傾向があります。

構造的な赤字(収益モデルの問題)

売上が伸びず固定費を賄えない、粗利率が極端に低い、原価構造に問題があるなど、ビジネスモデル自体に課題があるケースです。この場合、追加融資をしても返済が困難と判断され、審査は厳しくなります。

ポイント:金融機関の審査担当者は「なぜ赤字になったのか」「いつ黒字化する見込みがあるのか」を論理的に説明できるかどうかを見ています。赤字の金額よりも、経営者が自社の数字を正確に把握しているかが問われるのです。

02融資審査で見られる決算書の主なチェックポイント

金融機関の審査担当者は、決算書のどこを見ているのでしょうか。創業期の赤字決算において、特に注目される項目を整理します。

売上高の推移

月次ベースで売上が成長しているかどうかは最重要指標です。年間の合計が赤字でも、直近3か月で売上が前月比10〜15%ずつ伸びていれば「成長過程にある」と判断されやすくなります。

粗利率(売上総利益率)

たとえば飲食業であれば粗利率60〜70%、小売業であれば25〜35%など、業種ごとの平均と比較して妥当な水準かどうかを確認されます。粗利率が極端に低い場合は、値付けや仕入構造に問題があるとみなされます。

役員報酬と人件費のバランス

創業者が過大な役員報酬を取りながら赤字という場合、経営姿勢を疑問視されることがあります。逆に、役員報酬を低く抑えて事業資金に回している場合は、実質的な利益として加味されるケースもあります。

減価償却費の有無

減価償却費は現金の流出を伴わない費用です。赤字決算であっても、減価償却費を加えた「簡易キャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)」がプラスであれば、返済能力があると評価されることがあります。たとえば、税引後利益が▲150万円でも減価償却費が200万円あれば、簡易キャッシュフローは+50万円です。

借入金の返済余力

「簡易キャッシュフロー÷年間返済額」で算出される債務償還年数も重要な指標です。一般的に10年以内が目安とされ、これを超えると審査が厳しくなります。

03赤字決算でも融資を通すための決算書の整え方

決算書の「見せ方」を工夫するとは、数字を粉飾するという意味ではありません。正確な数字を前提としたうえで、金融機関にとって判断しやすい形に整理することを指します。

勘定科目の内訳を明確にする

「雑費」や「その他経費」が多い決算書は、金融機関からの印象が良くありません。たとえば、広告宣伝費・採用費・研究開発費など、将来の成長につながる費用はきちんと科目を分けて計上しましょう。先行投資の内容が一目でわかる決算書は、赤字の合理性を伝えやすくなります。

月次試算表を整備する

年間の損益計算書だけではなく、月次推移表を提出することで売上や利益のトレンドを示すことができます。たとえば「期首は月商80万円だったが、期末には月商200万円に成長した」という推移が見えれば、年間では赤字でも成長企業として評価されます。

貸借対照表も見落とさない

損益計算書の赤字に注目しがちですが、貸借対照表も重要です。現預金の残高が十分にある、売掛金の回収サイトが短い、不良在庫がないなど、バランスシートの健全性も審査に影響します。

04決算書を補完する「補足資料」の作り方

赤字決算の融資申し込みでは、決算書だけでなく補足資料を準備することで審査担当者の理解を得やすくなります。以下の3つは必ず用意しましょう。

  1. 事業計画書(3〜5年の収支計画)
    売上・原価・販管費の見込みを根拠とともに記載します。「なぜこの売上が見込めるのか」を受注見込みや顧客リスト、契約書など具体的な裏付け資料で補強すると説得力が増します。
  2. 赤字の原因と改善策を記した説明書
    A4で1〜2枚程度に、赤字の原因・一過性であること・黒字化に向けた具体的な施策をまとめます。「2026年度第2四半期に月次黒字化を見込む」など、時期を明示することが重要です。
  3. 資金繰り表(最低6か月先まで)
    月ごとの入出金を予測した資金繰り表を提出することで、融資金の使途と返済原資が明確になります。金融機関は「貸したお金がどう使われ、どう返ってくるか」を知りたいのです。

注意:事業計画書の売上見込みが過度に楽観的だと、かえって信用を失います。「最悪のケース」「標準のケース」「好調なケース」の3パターンを提示し、最悪のケースでも返済が可能であることを示すのが理想的です。

05金融機関とのコミュニケーション術

融資審査は書類だけで完結するものではありません。金融機関の担当者との日頃のコミュニケーションが審査結果に影響することも少なくありません。

決算前に相談する

赤字決算が確定してから融資を申し込むのではなく、決算の見通しが立った段階で金融機関に相談しましょう。「今期は先行投資で赤字見込みですが、来期はこのような計画で黒字化を目指しています」と事前に伝えることで、担当者も上席への説明がしやすくなります。

定期的な情報共有を行う

四半期ごと、あるいは半期ごとに月次試算表を持参して経営状況を報告する習慣をつけましょう。赤字の状態であっても、改善傾向を数字で示し続けることが信頼関係の構築につながります。

税理士を同席させる

金融機関との面談に税理士が同席することで、決算内容の説明に客観性が加わります。特に「簡易キャッシュフローの実態」「役員報酬を控除した場合の実質利益」など、専門家の視点からの補足説明は審査担当者にとって有益な情報となります。

06創業期に活用したい融資制度

創業期の赤字決算でも比較的利用しやすい融資制度として、以下のものがあります。

  • 日本政策金融公庫「新規開業資金」:新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした融資制度。創業期の実績が乏しくても、事業計画の妥当性が重視されます。
  • 信用保証協会の創業関連保証:各都道府県の信用保証協会が保証人となることで、民間金融機関からの融資を受けやすくする制度です。創業前でも利用可能な場合があります。
  • 自治体の制度融資:都道府県や市区町村が金利の一部を補助する制度融資は、創業者向けメニューが充実していることが多く、低利で利用できるケースがあります。

いずれの制度も、2026年4月時点で内容が変更される可能性があります。申し込み前に最新情報を確認してください。

この記事のまとめ
  • 金融機関は赤字の「金額」ではなく「中身」を見ている。一過性の先行投資による赤字と構造的な赤字では評価がまったく異なる。
  • 月次試算表を整備し、売上の成長トレンドや簡易キャッシュフローのプラスを示すことで、赤字でも返済能力をアピールできる。
  • 事業計画書・赤字の原因説明書・資金繰り表の3点セットを補足資料として準備することが重要。
  • 融資申し込み前から金融機関と定期的にコミュニケーションを取り、赤字の経緯と改善計画を事前に共有しておく。
  • 税理士を活用し、決算書の科目整理や金融機関との面談同席など、客観性のある情報発信を心がける。