「先生、これって経費で落ちますか?」——創業して間もない経営者の方から、私がもっとも多くいただくご質問がこれです。カフェで打ち合わせをしたときのコーヒー代、仕事のために買ったビジネス書、自宅の一室を使っている家賃……。「経費にしていいのかどうか分からない」というモヤモヤを抱えながら、とりあえずレシートをため込んでいる方も多いのではないでしょうか。

実は、この質問の裏側には「経費の判断基準を自分の中に持っていない」という根本的な課題が隠れています。税理士に一つひとつ確認しなくても、ある程度は自分で判断できるようになれば、日々の経理がぐっとラクになります。

この記事では、創業期の経営者が経費の可否を自分で判断できるようになるための3つの原則と、税務調査でも慌てない記録の残し方を、具体例を交えて解説します。

そもそも「経費(必要経費・損金)」とは何か

経費とは、ひと言でいえば「売上を得るために直接・間接的に必要な支出」のことです。所得税法第37条では必要経費について「総収入金額を得るため直接に要した費用の額」および「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」と定めています。法人税法第22条第3項でも、損金に算入されるのは「収益に係る売上原価・販売費・一般管理費その他の費用」とされています。

つまり、「事業との関連性」があるかどうかが最大のポイントです。ここを押さえずに「周りの経営者がやっているから」「ネットに経費にできると書いてあったから」と判断してしまうと、あとで痛い目を見る可能性があります。

原則①:「事業との関連性」を説明できるか

経費として認められるための最初の関門は、その支出と事業との間に明確なつながりがあるかどうかです。自分自身に「なぜこの支出が事業に必要なのか?」と問いかけてみてください。第三者——たとえば税務署の調査官——に対して、合理的に説明できるなら経費計上の土台はクリアです。

具体例:ビジネス書・専門書の購入費

  • 自分の事業分野に関連する専門書やビジネス書 → 経費OK(新聞図書費など)
  • 趣味の小説や、事業にまったく関係のない分野の書籍 → 経費NG
  • 微妙なライン:自己啓発書や語学テキストなど → 事業で英語を使う必然性があるなら経費として説明可能

ポイントは、「事業のどの部分に役立つのか」を一言で説明できることです。

原則②:「プライベートとの線引き」を数字で示せるか

創業期に最もグレーゾーンになりやすいのが、事業とプライベートが混在する支出です。税務の世界では「家事関連費」と呼ばれ、所得税法施行令第96条により、事業に必要な部分を「明らかに区分できる場合」にのみ経費算入が認められます。

具体例①:自宅兼事務所の家賃按分

たとえば、家賃月額10万円のマンション(50㎡)のうち、1室(10㎡)を事務所として使っている場合:

  • 面積按分:10㎡ ÷ 50㎡ = 20%
  • 経費計上額:10万円 × 20% = 月2万円(年間24万円)

按分の根拠としては「面積比」が最も一般的ですが、「使用時間比」を使うケースもあります。大切なのは按分の根拠を合理的に説明でき、書面で残していることです。「なんとなく50%」では税務調査で否認されるリスクが高まります。

具体例②:カフェでの作業・打ち合わせ代

  • 取引先との打ち合わせでカフェを利用 → 会議費として経費OK(1人あたり5,000円以下が目安)
  • 一人で作業するためにカフェを利用 → 事務所代わりとして雑費等で経費計上は可能だが、毎日のように高額利用していると「本当に事業目的か?」と疑問を持たれることも
  • 友人とのプライベートな食事 → 経費NG

打ち合わせの場合は、「誰と・何の目的で」会ったのかをレシートの裏や会計ソフトのメモ欄に記録しておきましょう。

具体例③:携帯電話・インターネット回線

プライベートと兼用の場合、使用割合で按分します。たとえば通話履歴やアプリの使用状況から「業務利用70%」と判断できるなら、月額料金の70%を経費にできます。通信費は金額が小さくても年間で積み上がるため、合理的な按分率を設定しておくことが大切です。

原則③:「証拠を残す」を習慣化できているか

経費として正しく計上していても、証拠がなければ「なかったこと」にされてしまうのが税務の世界です。税務調査は、個人事業主の場合で概ね1〜2%程度の割合で実施されるとされていますが(国税庁 事務年報等を参考)、いつ対象になっても慌てないために、日頃から記録を残す習慣をつけましょう。

最低限残すべき3つの証拠

  • ①領収書・レシート:紙のレシートは褪色するため、スマホで撮影してクラウド保存を推奨。電子帳簿保存法の要件にも対応しやすくなります。
  • ②支出の「目的メモ」:領収書の裏や会計ソフトのメモ欄に「○○社△△氏と新規案件の打ち合わせ」など一言添えるだけで、証拠力が格段に上がります。
  • ③按分根拠の記録:家賃や通信費の按分割合を決めた根拠(間取り図に事務所部分を色分けした資料、通話ログの集計表など)を作成し、保管しておきましょう。

これら3つの記録は、後から「まとめて整理しよう」と思うと大変です。支出が発生したその日のうちに30秒で記録することを習慣にするのがおすすめです。

よくある「判断に迷う経費」早見表

創業期のお客様から実際によく質問を受ける項目を一覧にまとめました。

  • スーツ代 → 原則として経費NG(私用との区分が困難なため)。ただし、特定の業務専用ユニフォーム等は経費OK。
  • セミナー・勉強会の参加費 → 事業に関連するものは研修費として経費OK。
  • 忘年会・新年会の費用 → 取引先や従業員との交際・福利厚生目的なら経費OK。個人的な飲み会はNG。
  • 事業用クレジットカードの年会費 → 事業用として使用しているなら経費OK。
  • 健康診断・人間ドック → 法人で役員・従業員全員を対象に実施するなら福利厚生費としてOK。個人事業主本人の分は原則NG。

まとめ:3つの原則で「自分で判断できる力」を

創業期の経費判断で迷わないための3つの原則をおさらいします。

  • 原則①:その支出の「事業との関連性」を第三者に説明できるか
  • 原則②:プライベートとの混在がある場合、「按分の根拠」を数字で示せるか
  • 原則③:領収書・目的メモ・按分根拠の「3つの証拠」を日常的に残しているか

この3つを意識するだけで、「先生、これ経費になりますか?」と聞く回数はぐっと減るはずです。とはいえ、実際の判断には個別の事情が大きく影響します。「自分のケースはどうだろう?」と少しでも迷ったら、早めに専門家に相談することが、結果的にいちばんのコスト削減につながります。

平川文菜税理士事務所では、創業期の経営者の方に向けた経費・記帳のご相談を随時承っております。「こんな小さなことで相談していいのかな?」という内容こそ、早めにクリアにしておくことが大切です。お気軽にご連絡ください。

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