開業して間もない時期に、税務署から「事業についてのお尋ね」と書かれた封書が届くと、誰でもドキッとするものです。「何か間違いがあったのだろうか」「税務調査が来るのだろうか」と不安になる方も少なくありません。しかし、この文書は税務調査ではなく、正しく理解して対応すれば恐れる必要はありません。本記事では、創業1〜2年目の経営者が知っておくべき「お尋ね文書」の種類や対応のポイントを整理します。

01「事業についてのお尋ね」とは何か

「事業についてのお尋ね」とは、税務署が納税者に対して、申告内容の確認や事業の実態把握のために送付する文書の一つです。法的には「行政指導」に位置づけられるもので、税務調査(国税通則法に基づく質問検査権の行使)とは明確に異なります。

創業から1〜2年目は、税務署にとっても新規事業者の実態が不明確な時期です。そのため、開業届を提出した事業者や、新設法人に対して事業概況を把握する目的で「お尋ね」を送付することがあります。2025年度・2026年度においても、この運用は変わっていません。

税務調査との違い

税務調査は、事前に税務署から電話連絡があり、調査日程の調整が行われたうえで実施されます。一方、「お尋ね」は郵送で届く書面であり、回答は任意です。ただし「任意だから無視していい」というわけではありません。この点については後述します。

ポイント:「お尋ね」は税務調査ではありません。法律上は回答義務のない行政指導ですが、誠実に回答することで税務署との信頼関係を築くことができ、結果的に将来の税務調査リスクの軽減にもつながります。

02創業期に届きやすい「お尋ね文書」の種類

税務署から届く文書にはいくつかのパターンがあります。創業期に届きやすい代表的なものを整理します。

(1)事業内容等についてのお尋ね

開業届や法人設立届出書を提出した後に届くことがある文書です。事業の概要、売上の見込み、従業員の有無、経理処理の方法(自計か税理士依頼か)などを記入して返送します。新規事業者の基礎情報を把握するための文書であり、特にネガティブな意図はありません。

(2)所得税(法人税)の申告内容についてのお尋ね

確定申告の内容に不明点がある場合に届きます。たとえば「売上に対して経費の比率が極端に高い」「前年と比較して所得が大きく変動している」といったケースです。具体的な項目を指定して回答を求められることが多いため、該当箇所の帳簿や領収書を確認して回答します。

(3)消費税に関するお尋ね

2023年10月にインボイス制度が開始されたことに伴い、消費税関連のお尋ねも増加傾向にあります。課税事業者の選択状況や、簡易課税制度の適用の有無について確認が来ることがあります。

(4)資産の取得に関するお尋ね

事業用の不動産を取得した場合や、高額な設備投資を行った場合に届くことがあります。取得資金の出所(自己資金・借入・親族からの贈与など)について確認される文書です。

03回答するときの具体的な手順と注意点

お尋ねが届いたら、以下の手順で対応するとスムーズです。

  1. 文書の内容を正確に読む ― 何について質問されているのか、回答期限はいつかを確認します。一般的に回答期限は文書発送日から2〜3週間程度です。
  2. 該当する帳簿・書類を準備する ― 質問に関連する帳簿、領収書、請求書、通帳のコピーなどを手元に揃えます。
  3. 事実に基づいて正直に記入する ― 見栄を張ったり、あいまいな数字を書いたりすることは避けてください。不明点は「確認中」と記載し、後日回答する旨を伝えることも可能です。
  4. コピーを取ってから返送する ― 回答した内容の控えは必ず手元に保管しておきましょう。後日、税務調査が行われた際に整合性を確認される可能性があります。

注意:回答を放置・無視すると、税務署側で「回答の意思なし」と判断され、実地の税務調査に移行するリスクが高まります。国税庁の統計によれば、所得税の実地調査件数は令和5事務年度で約6万件に上っています。お尋ねの段階で誠実に対応しておくことが、不要な調査を避けるための最も基本的な対策です。

04税理士に相談すべきケースの判断基準

お尋ねの内容がシンプルで、帳簿を見れば即答できるものであれば、ご自身で回答しても問題ありません。しかし、以下のようなケースでは税理士への相談を強くおすすめします。

  • 質問内容が専門的で、何を聞かれているのか理解できない
  • 帳簿や申告書の内容に不安がある(記帳漏れや計上ミスの可能性がある)
  • 過去の申告を自分で行っており、内容の正確性に自信がない
  • 消費税やインボイスに関連する質問で、制度の理解が不十分
  • 不動産取得や高額な設備投資の資金に関する質問で、贈与税の問題が絡む可能性がある

特に創業1〜2年目は、経理体制が整っていないケースも多く、お尋ねをきっかけに帳簿の不備が発覚することもあります。この段階で税理士と一緒に帳簿を整理しておくことは、将来の安心につながります。

05「お尋ね」を怖がらないために ― 創業期にやっておくべきこと

お尋ねが届いても慌てないためには、日頃からの備えが何より大切です。創業期の段階で以下の3つを意識しておきましょう。

(1)日々の帳簿付けを習慣にする

会計ソフトを活用し、売上・経費を都度記帳する習慣をつけましょう。まとめて処理しようとすると、領収書の紛失や記帳漏れが発生しやすくなります。

(2)申告書の控え・届出書の控えを保管する

確定申告書、開業届、青色申告承認申請書、消費税関連の届出書など、税務署に提出した書類の控えは一か所にまとめて保管しましょう。お尋ねへの回答時にすぐ参照できます。

(3)早い段階で税理士との接点を持つ

顧問契約を結ばなくても、スポットで相談できる税理士を見つけておくと安心です。お尋ねが届いたときにすぐ相談できる先があるかどうかで、対応のスピードと正確性は大きく変わります。

この記事のまとめ
  • 「事業についてのお尋ね」は税務調査ではなく、行政指導に基づく任意の確認文書である
  • 創業1〜2年目に届きやすい文書には、事業内容の確認、申告内容の確認、消費税関連の確認などがある
  • 回答は期限内に、事実に基づいて正直に記入し、必ずコピーを保管する
  • 放置・無視は税務調査に移行するリスクを高めるため、必ず何らかの対応をする
  • 内容が専門的・複雑な場合や帳簿に不安がある場合は、早めに税理士に相談する
  • 日頃からの帳簿整理と書類保管が、お尋ねへの最善の備えとなる