「今期は節税のためにできるだけ経費を使って、利益を抑えよう」——創業期の経営者の方から、こうしたご相談をいただくことは少なくありません。たしかに、税金は少ないに越したことはないかもしれません。しかし、もし近い将来に融資を受けることを考えているなら、その節税対策が思わぬ落とし穴になる可能性があります。
金融機関は、融資の審査において確定申告書や決算書の数字を非常に重視します。節税を優先しすぎた結果、赤字の決算書になってしまい、「この会社にお金を貸して大丈夫だろうか」と判断されてしまうケースは実際に起きています。
この記事では、創業期・スタートアップ期の経営者や個人事業主の方に向けて、金融機関が確定申告書・決算書のどこを見ているのか、そして融資を見据えた申告で意識すべきポイントを税理士の視点から解説します。
なぜ確定申告の内容が融資に影響するのか
金融機関が融資を判断する際、最も基本的な資料となるのが確定申告書(法人なら法人税申告書と決算書、個人事業主なら所得税確定申告書と青色申告決算書)です。
金融機関にとって、これらの書類は「この事業者は返済能力があるか」を判断するための成績表のようなものです。どれだけ口頭で「売上は順調です」と説明しても、申告書の数字が伴っていなければ説得力はありません。
特に創業期は実績が少ないため、直近1〜2期分の申告内容が審査結果を大きく左右します。つまり、確定申告は「税金の計算」であると同時に、将来の資金調達のための信用づくりでもあるのです。
金融機関が決算書で見ている5つのポイント
①売上高の推移と安定性
金融機関はまず売上高を確認します。創業期であれば、売上がゼロから徐々に伸びていること自体は問題ありません。重要なのは「事業として収益を上げる力があるか」です。前年対比で売上が伸びていれば、成長性の評価につながります。
②営業利益・経常利益(黒字か赤字か)
融資審査で最も重視されるポイントの一つが、営業利益や経常利益が黒字かどうかです。たとえ売上が1,000万円あっても、経費を使いすぎて利益がマイナスであれば、「返済原資がない」と判断される可能性があります。
例えば、年間売上800万円の個人事業主が節税のために経費を積み増し、所得を30万円まで圧縮したとします。税負担は軽くなりますが、金融機関から見ると「年間30万円しか利益が出ていない事業に数百万円を融資しても返済できるのか?」という疑問が生じます。
③減価償却費の計上状況
意外と見落とされがちなのが、減価償却費を正しく計上しているかという点です。減価償却費は現金の支出を伴わない経費であるため、金融機関は「利益+減価償却費」で実質的なキャッシュフロー(簡易キャッシュフロー)を計算します。
逆に、利益を大きく見せるために減価償却費を計上しない(法人の場合は任意償却が可能)と、「正しい会計処理をしていない」とマイナス評価を受けることがあります。
④借入金の残高と返済状況
既存の借入がある場合は、借入金残高と毎月の返済額も確認されます。売上や利益に対して借入が過大でないか、返済が滞っていないかがチェックされます。貸借対照表に計上されている借入金の内訳や、個人であれば借入明細も準備しておくとスムーズです。
⑤自己資本比率と純資産の状況
法人の場合、自己資本比率(純資産÷総資産)も重要な指標です。債務超過(純資産がマイナス)の状態は、融資審査では非常に不利になります。創業1〜2期目で赤字を出し続けると、資本金を食いつぶして早期に債務超過に陥るケースがあるため注意が必要です。
例えば、資本金100万円で設立した法人が初年度に150万円の赤字を出すと、純資産は▲50万円となり債務超過です。この状態で融資を申し込んでも、審査のハードルは格段に上がります。
「節税」と「融資」のバランスをどう考えるか
節税と融資対策は、時としてトレードオフの関係になります。利益を減らせば税金は減りますが、融資の評価は下がります。では、どのようにバランスを取ればよいのでしょうか。
向こう1〜2年の資金計画を先に立てる
まず大切なのは、「いつ、いくらの融資が必要になるか」を事前に把握することです。設備投資や運転資金の必要時期が見えていれば、その前の申告で意識的に利益を確保する判断ができます。
「適正な利益」を残す意識を持つ
過度な節税で赤字にするのではなく、事業の実態に合った適正な利益を計上することが重要です。必要な経費はもちろん計上すべきですが、「税金を減らすためだけの支出」は本当に必要か立ち止まって考えましょう。
目安として、日本政策金融公庫の創業融資では、少なくとも経常利益が黒字であることが望ましいとされています。黒字額が小さくても、赤字と黒字では印象が大きく異なります。
税理士に「融資を予定している」と伝える
確定申告の相談時に、「来期に融資を受けたい」と税理士に伝えておくだけで、申告書の作り方や決算対策のアドバイスが変わります。税理士は税金を減らすだけの専門家ではなく、経営全体を見据えた判断をサポートする存在です。
個人事業主が特に注意すべきこと
- 青色申告を選択する:白色申告よりも青色申告のほうが、金融機関からの信頼度は高くなります。65万円の青色申告特別控除を活用しつつ、貸借対照表も作成しましょう。
- 事業用とプライベートの口座を分ける:お金の流れが明確になり、金融機関への説明もスムーズになります。
- 売上の計上漏れに注意する:12月に届いた入金が翌年の売上になっていないか、発生主義で正しく計上されているか確認しましょう。期ずれは税務調査だけでなく、融資審査でも信頼性を損ないます。
まとめ:確定申告は「未来の資金調達」への第一歩
確定申告は、過去1年の数字をまとめる作業であると同時に、金融機関に対する自社の「信用情報」を作る作業でもあります。特に創業期においては、融資の可否が事業の成長スピードを大きく左右します。
- 金融機関は売上・利益・自己資本・借入状況などを総合的に見ている
- 過度な節税による赤字は融資審査でマイナス評価になりうる
- 融資を見据えるなら、資金計画を立てたうえで「適正な利益」を意識する
- 申告前に税理士へ融資予定を伝え、戦略的に決算を組む
平川文菜税理士事務所では、確定申告のサポートだけでなく、融資を見据えた決算対策や資金計画のご相談にも対応しております。「節税と融資のバランスが分からない」「創業融資を受けたいけれど申告内容が不安」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
