確定申告の提出が終わり、ほっと一息ついている方も多いのではないでしょうか。「思ったより税金が高かった」「もっと早く対策しておけばよかった」――そんな後悔が頭をよぎった方こそ、実は今が最大のチャンスです。申告直後の今、今期の数字がまだ鮮明に残っているこのタイミングを逃さず、来期(2026年分)の節税戦略を仕込みましょう。本記事では、2026年3月中に着手すべき5つの具体的アクションを解説します。
01なぜ「確定申告直後」が節税戦略のゴールデンタイムなのか
節税対策というと、年末の12月に駆け込みで行うイメージがあるかもしれません。しかし、12月に慌てて動いても選択肢は限られます。一方、確定申告を終えた3月には次のような優位性があります。
- 今期の数字が手元にある:売上・経費・所得・納税額がすべて確定しているため、「何がどれだけ足りなかったか」を正確に把握できる
- 年度の始まりに近い:1月〜12月の事業年度であれば、すでに約3か月が経過した段階。残り9か月分の計画を立てるには十分な時間がある
- 届出書の提出期限に間に合う:青色申告の届出変更など、3月15日を過ぎると翌年度分にしか適用できないものもあるが、今から準備すれば来期に確実に反映させられる
つまり、確定申告の結果を「振り返り」で終わらせず「次の一手」に変換するには、記憶と数字が新鮮な今こそ最適なのです。
02アクション1:確定申告の「振り返りシート」を作成する
まず取り組んでいただきたいのが、2025年分の確定申告結果を簡単に振り返る作業です。難しいことではありません。以下の項目をA4用紙1枚、またはスプレッドシートにまとめてみてください。
- 年間売上高(事業収入の合計)
- 経費の合計額と、主要な費目ごとの内訳(上位5項目程度)
- 課税所得金額
- 所得税額・住民税額・事業税額の合計
- 「使った控除」と「使わなかった控除」のリスト
特に重要なのは5番目です。たとえば、小規模企業共済等掛金控除やiDeCo(個人型確定拠出年金)の所得控除を活用していなかった場合、来期はそれだけで数万円〜数十万円の節税余地があるかもしれません。
振り返りの具体例
たとえば、2025年分の課税所得が500万円だった個人事業主の方を想定します。所得税の税率は20%(控除額427,500円)が適用されるゾーンです。もし小規模企業共済に月額7万円(年間84万円)を掛けていれば、課税所得は416万円まで下がり、税率10%(控除額97,500円)のゾーンに収まる可能性があります。所得税だけでも年間十数万円の差が生まれる計算です。こうした「もったいなかったポイント」を明確にすることが、来期の戦略の出発点になります。
03アクション2:小規模企業共済・iDeCoの増額または加入を検討する
振り返りで「所得控除の余地があった」と気づいた方は、3月中に具体的な加入・増額の手続きに動きましょう。
小規模企業共済
個人事業主や小規模法人の役員が加入できる退職金制度です。掛金は月額1,000円〜70,000円で、全額が所得控除の対象になります。増額の手続きは中小機構に書類を提出するだけで、翌月分から反映されます。仮に4月から月額を1万円増額すれば、2026年分の控除額は9万円(1万円×9か月)増えることになります。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
自営業者(第1号被保険者)の場合、掛金の上限は月額68,000円です。国民年金基金との合算枠ですが、まだ枠が残っている方は増額を検討する価値があります。加入申込から実際の引き落とし開始まで1〜2か月かかるため、3月中に申込書を提出すれば5月頃からの拠出開始が見込めます。
ポイント:小規模企業共済もiDeCoも「全額所得控除」という非常に強力な節税手段です。ただし、いずれも長期的な資金拘束が伴います。事業の資金繰りに無理のない範囲で設定することが大切です。手元資金とのバランスを確認したうえで掛金を決めましょう。
04アクション3:経費の「年間予算」を組む
節税というと控除制度に目が行きがちですが、「経費の計画的な使い方」も同じくらい重要です。確定申告の振り返りで経費の内訳を確認したら、2026年分の経費を月別・費目別にざっくり予算化してみましょう。
- 設備投資:パソコンやソフトウェアの買い替え予定はあるか。30万円未満の少額減価償却資産の特例(青色申告者、合計300万円まで)を使えるタイミングで購入する計画を立てる
- 研修・書籍・セミナー:事業に関連するスキルアップ費用は経費にできる。年間で「いくらまで使う」と決めておくと、年末に慌てて無駄な出費をすることがなくなる
- 交際費:個人事業主には法人のような上限規定はないが、「事業に直接関連する支出」という原則を守りつつ、適正な範囲で計画的に使う
- 広告宣伝費:Webサイトのリニューアルや広告出稿を計画しているなら、時期と金額を決めておく
経費を予算化する最大のメリットは、「必要なものに必要なタイミングでお金を使う」習慣がつくことです。節税のために不要な買い物をするのは本末転倒ですが、いずれ必要な出費であれば、税負担を意識した時期に実行するのは合理的な経営判断です。
05アクション4:届出書・届出関係の見直しと提出
税務上の届出書には「提出期限」が設けられているものが多く、タイミングを逃すと1年間適用を受けられないケースがあります。3月中に確認しておきたい届出書をリストアップします。
個人事業主が確認すべき届出書
- 所得税の青色申告承認申請書:新規開業の場合は開業日から2か月以内、または適用を受けたい年の3月15日までに提出。2025年分で白色申告だった方が2026年分から青色に切り替えるには、2026年3月16日(2026年3月15日が日曜日のため翌日)が期限でしたので、すでに期限を過ぎています。ただし2027年分からの適用を視野に入れて今から準備することは可能です
- 青色事業専従者給与に関する届出書:家族に給与を支払って経費にしたい場合、その年の3月15日まで(新たに専従者がいることとなった日から2か月以内)に届出が必要です
- 消費税の届出書:簡易課税制度の選択届出書や課税事業者選択届出書は、原則として適用を受けたい課税期間の前日までに提出が必要です。インボイス制度の影響で課税事業者になった方は、本則課税と簡易課税のどちらが有利か、2025年分の実績をもとに検証しましょう
注意:届出書は「出し忘れ」が最も痛い税務ミスのひとつです。特に消費税関連の届出は、提出の有無で年間数十万円〜数百万円の差が出ることもあります。不明点がある場合は、早めに税理士へ相談されることをおすすめします。
06アクション5:法人化(法人成り)のシミュレーションを行う
個人事業主として事業が順調に成長している方にとって、「法人化」は大きな節税手段のひとつです。2025年分の確定申告で課税所得が600万円を超えている方は、法人化による税負担の軽減効果をシミュレーションしてみる価値があります。
法人化の主なメリット(税務面)
- 役員報酬を設定することで給与所得控除が使える
- 法人税の実効税率は中小法人(所得800万円以下の部分)で約23%程度。個人の所得税+住民税の合計税率が30%を超えるゾーンでは法人化の優位性が出やすい
- 退職金の損金算入、生命保険の一部損金算入など、法人特有の節税手段が使える
- 決算月を自由に選べるため、繁忙期を避けた税務スケジュールが組める
もちろん、法人化には社会保険料の負担増、法人住民税の均等割(赤字でも年間約7万円)、税理士報酬の増加といったデメリットもあります。「いくら以上の所得なら法人化が得か」は、家族構成や社会保険の状況によって異なるため、必ず個別にシミュレーションを行いましょう。
3月中に概算のシミュレーションだけでも済ませておけば、仮に法人化するとなった場合でも、年内に余裕を持って準備を進めることができます。
073月中のアクションが「12月の安心」につながる
ここまで5つのアクションを紹介してきましたが、すべてに共通するのは「早く動くほど選択肢が広がる」ということです。12月に焦って節税対策を探すのと、3月から計画的に仕込むのとでは、結果に大きな差が出ます。
特にスタートアップや個人事業主の方は、事業の成長スピードが速いぶん、前年と同じ対策では不十分になることがあります。売上が前年の1.5倍になれば、当然ながら税負担も大きく変わります。だからこそ、毎年の確定申告直後に「来期の作戦会議」を行う習慣をつけていただきたいのです。
一人で判断が難しい場合は、税理士と一緒に振り返りと来期の方針を話し合う時間を設けるのも有効です。当事務所でも確定申告後の振り返り相談を随時お受けしておりますので、お気軽にご連絡ください。
- 確定申告直後の3月は、今期の数字が頭に残っているため節税戦略を立てる絶好のタイミング
- まずは2025年分の申告結果を「振り返りシート」にまとめ、使えていなかった控除や経費の改善点を洗い出す
- 小規模企業共済やiDeCoの加入・増額は、早めに手続きするほど年間の控除額が大きくなる
- 経費の年間予算を組むことで、計画的かつ合理的な支出管理ができる
- 届出書(青色申告・消費税関連等)の期限を確認し、提出漏れを防ぐ
- 課税所得600万円超の個人事業主は、法人化シミュレーションを検討する価値がある
