「決算が終わってから税理士に言われた税額に驚いた」「利益が出ていたのに、使える節税策がもう残っていなかった」——創業期の経営者から、こうした声を本当に多くいただきます。実は、節税対策の大半は”決算を締める前”にしか打てません。この記事では、四半期〜半期ごとの簡易な税額シミュレーションの方法と、期中のうちに実行できる具体的な対策を時系列で解説します。2026年3月決算を迎える方にも、これから事業年度の途中にいる方にも役立つ内容です。
01なぜ「決算後の節税」は手遅れになるのか
法人税や所得税の節税策の多くは、「その事業年度(その年)の期中に実行していること」が要件です。たとえば、設備投資による即時償却や特別償却は、期末までに資産を取得し事業の用に供していなければ適用を受けられません。決算賞与も、期末までに従業員へ通知し未払計上するなどの要件があります。
つまり、決算を締めて「思ったより利益が出ていた」と気づいた時点では、経費を積み増す手段がほとんど残っていないのです。特に創業1〜3期目は、売上や経費の見通しが立ちにくく、想定外の黒字になりやすい時期でもあります。
02四半期・半期ごとの簡易税額シミュレーションのやり方
シミュレーションの基本ステップ
- 月次の試算表を作成する——会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)で月次の損益を確定させます。最低でも四半期に一度、できれば毎月行うのが理想です。
- 期末までの売上・経費を予測する——過去の月次推移や受注状況から、残りの月の売上と主要経費をざっくり見積もります。
- 年間の課税所得を概算する——(累計実績+残期間の予測値)で年間の利益を算出します。
- 税額を概算する——法人であれば、課税所得800万円以下の部分は法人税率15%、超える部分は23.2%を乗じます。これに地方法人税・住民税・事業税を合わせた実効税率は、中小法人でおおむね25%前後(所得800万円以下の場合)、800万円超の部分は約34%前後が目安です。個人事業主の場合は所得税の累進税率と住民税10%を合算して計算します。
たとえば、3月決算法人で9月末(半期)時点の累計利益が400万円、下期も同水準で推移する見込みなら、年間の課税所得は約800万円。法人税等の概算は800万円×約25%=約200万円と見積もることができます。この数字が見えた段階で、「200万円の税金を払うか、一部を将来への投資に回すか」という判断ができるわけです。
ポイント:シミュレーションは精密でなくて構いません。目的は「想定外の納税を防ぐこと」と「対策を打つ時間を確保すること」です。月次試算表がきちんと出来ていれば、税理士に共有するだけで概算税額はすぐにお伝えできます。
03期中に打てる具体的な節税対策——時系列で整理
第1四半期〜第2四半期(事業年度の前半)
- 小規模企業共済への加入・増額——個人事業主や会社役員が加入できる制度で、掛金は月額1,000円〜70,000円(年間最大84万円)が全額所得控除の対象になります。年の途中でも加入でき、前納も可能です。ただし、加入手続きには数週間かかるため、早めの検討が重要です。
- 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)の加入——法人・個人ともに掛金を損金(必要経費)に算入できます。月額5,000円〜200,000円(年間最大240万円)。2024年10月以降の制度改正により、解約後2年間は再加入しても損金算入できなくなった点に注意が必要です。前納を活用すれば、年間最大で約480万円の損金計上も可能です。
- 年間の設備投資計画の策定——「中小企業経営強化税制」や「中小企業投資促進税制」の適用を見据え、導入予定の設備をリストアップしておきましょう。
第3四半期(事業年度の後半に入ったら)
- 設備投資の前倒し——利益が見込みより上振れしている場合、来期に予定していた設備投資を今期中に前倒しすることで、即時償却や30%の特別償却、7%の税額控除(資本金3,000万円以下の法人)を活用できます。中小企業経営強化税制を使えば、全額即時償却も選択肢に入ります。
- 広告宣伝・研修など前倒し可能な経費の検討——来期に予定していたWebサイトのリニューアル、社員研修、採用広告などを前倒しで実行・支払いすることも有効です。ただし、翌期以降の役務提供に対する前払いは、原則として当期の経費にならない点にご注意ください。
第4四半期〜決算直前
- 決算賞与の検討——従業員に対する決算賞与は、期末までに①各従業員に個別に支給額を通知し、②期末後1か月以内に実際に支給すれば、未払計上でも当期の損金に算入できます(法人税法施行令72条の3)。従業員のモチベーション向上にもつながる施策です。
- 少額減価償却資産の取得——中小企業者等であれば、取得価額30万円未満の減価償却資産を年間合計300万円まで全額損金にできます(租税特別措置法67条の5)。パソコン、ソフトウェア、備品などの購入を検討しましょう。
- 不良在庫・不良債権の処理——売れ残り在庫の評価損計上や、回収不能な売掛金の貸倒処理も検討します。
注意:節税のためだけに不要な出費をするのは本末転倒です。「100万円の節税のために100万円を使えば、手元資金は減る一方」です。あくまで事業に必要な支出を「タイミングよく実行する」ことが期中対策の本質です。資金繰りへの影響を必ず考慮してください。
04「利益が見えてきたら税理士に相談する」という習慣
創業期の経営者にとって最も大切なのは、「決算の2〜3か月前ではなく、利益が見えてきた段階で税理士に相談する」という習慣を持つことです。
具体的には、以下のようなタイミングで一度ご連絡いただくだけで、打てる対策の幅が大きく広がります。
- 半期が終わった時点で「思ったより利益が出ている」と感じたとき
- 大型の受注や売上が確定したとき
- 設備投資や人材採用を検討しているとき
- 補助金・助成金の入金があったとき
当事務所でも、顧問先には四半期ごとの損益レビューと概算税額のご報告を行い、「今のままだと年間でこれくらいの納税になります。対策を打つならこの選択肢があります」というご提案を早い段階でお伝えするようにしています。
05創業期だからこそ、早めの準備が効く理由
創業1〜3期目は、売上の変動が大きく、利益の着地点が読みにくい時期です。だからこそ、定期的にシミュレーションを行い、複数のシナリオ(楽観・標準・悲観)を持っておくことが重要になります。
また、創業期には「青色申告特別控除」「青色欠損金の繰越控除(法人は10年間)」「設立事業年度の消費税免税」など、この時期にしか使えない、あるいはこの時期に手続きしておかないと使えなくなる制度も多くあります。これらを漏れなく活用するためにも、期中からの計画的な対応が欠かせません。
- 節税策の大半は「期中に実行すること」が要件。決算後では手遅れになるケースが多い。
- 四半期〜半期ごとに簡易な税額シミュレーション(月次試算表+残期間予測)を行い、納税額の目安を把握する。
- 期中に打てる対策には、小規模企業共済・経営セーフティ共済の活用、設備投資の前倒し、決算賞与の検討、少額減価償却資産の取得などがある。
- 節税目的だけの無駄な出費は避け、「事業に必要な支出を最適なタイミングで実行する」ことが本質。
- 「利益が見えてきた段階で税理士に相談する」習慣が、最も効果的な節税につながる。
