「法人を設立したはいいけれど、確定申告って個人のときと何がどう違うの?」――法人成りしたばかりの経営者さまや、いきなり法人でスタートされた方から、このご質問を本当によくいただきます。
個人事業主として確定申告を経験されてきた方ほど、「なんとなくわかるだろう」と思いがちですが、法人の申告は仕組みそのものが大きく異なります。一方で、初めて事業を始めた方にとっては、そもそも何を申告するのかさえ手探りの状態かもしれません。
この記事では、平川文菜税理士事務所の視点から、法人1期目の確定申告で押さえておきたいポイントを、個人の所得税申告との違いに焦点を当ててやさしく解説します。小規模法人ならではの注意点も整理しましたので、ぜひ最後までお読みください。
そもそも法人税申告と所得税申告は何が違う?
課税される「人」が違う
最も根本的な違いは、「誰に課税されるか」です。
- 個人事業主:事業主本人に「所得税」が課税される
- 法人:会社という「法人格」に「法人税」が課税される
個人事業の場合、売上から経費を引いた利益がそのまま事業主の所得となり、所得税がかかります。法人の場合は、会社が稼いだ利益(所得)に法人税がかかり、経営者ご自身には役員報酬という形で給与が支払われ、それに対して所得税がかかります。つまり、法人と経営者個人、二つの申告が発生するのが大きな違いです。
税率の構造が違う
所得税は「累進課税」で、所得が増えるほど税率が上がります(5%~45%)。一方、法人税は基本的に比例税率で、中小法人の場合、年800万円以下の所得に対して15%、800万円超の部分に23.2%です。
個人事業で利益が大きくなってきた方が法人成りを検討される理由の一つが、この税率の違いにあります。ただし、法人住民税や事業税、さらに社会保険料の負担も含めてトータルで比較する必要がありますので、「法人にすれば必ず得」とは限りません。
申告期限が違う
個人事業主の確定申告期限は、毎年3月15日です。一方、法人の確定申告期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。たとえば3月決算法人なら5月31日、12月決算法人なら2月28日(または2月末日)が期限となります。
法人1期目は設立日から最初の事業年度末までが対象期間となりますが、設立が期の途中であれば1期目が12か月に満たない「短期事業年度」になることもあります。この場合でも、申告期限は事業年度終了から2か月以内ですのでご注意ください。
法人1期目で特に気をつけたい5つのポイント
①役員報酬の設定と「定期同額給与」のルール
法人成りすると、経営者は会社から「役員報酬」を受け取ることになります。この役員報酬を法人の経費(損金)にするためには、「定期同額給与」のルールを守る必要があります。
原則として、役員報酬は事業年度開始から3か月以内に決定し、期中は毎月同じ金額を支給しなければなりません。期の途中で自由に増額・減額すると、その変動分が損金として認められなくなる可能性があります。
1期目の場合は、設立後最初の3か月以内に金額を確定させましょう。「まだ売上の見通しが立たないから…」と先延ばしにすると、後から不利になることがあります。
たとえば、月額30万円の役員報酬を設定した場合、年間360万円が法人の経費になります。一方、経営者個人には給与所得として所得税・住民税がかかります。法人の利益と個人の所得のバランスを考えて金額を設定することが、節税の第一歩です。
②法人住民税の「均等割」は赤字でもかかる
個人事業主の場合、所得がなければ所得税はゼロです。しかし法人は、たとえ赤字(欠損)であっても「法人住民税の均等割」が発生します。
均等割の金額は自治体や法人の規模(資本金・従業員数)によって異なりますが、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の最も小さい区分で、都道府県分と市区町村分を合わせて年間約7万円が目安です(東京都23区の場合は約7万円)。
1期目が12か月未満の場合は月割計算になりますが、それでも数万円の負担は発生します。「赤字なのに税金がかかる」と驚かれる方が多いので、あらかじめ認識しておきましょう。
③届出書類の提出漏れに注意
法人設立後には、税務署や都道府県・市区町村へ各種届出書を提出する必要があります。1期目の申告に直接影響するものとして、特に重要なのが以下の届出です。
- 法人設立届出書(税務署・都道府県・市区町村)
- 青色申告の承認申請書(設立から3か月以内、または1期目終了の日のいずれか早い方まで)
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(従業員10人未満の場合)
特に青色申告の承認申請書は、提出を忘れると欠損金の繰越控除(最大10年間)が使えなくなるなど、大きなデメリットがあります。1期目が赤字になった場合、この繰越控除は2期目以降の節税に直結しますので、必ず期限内に提出しましょう。
④消費税の免税事業者かどうかの確認
資本金1,000万円未満で設立した法人は、原則として設立1期目・2期目は消費税の免税事業者になります。ただし、インボイス制度の導入により、取引先との関係であえて課税事業者を選択し、適格請求書発行事業者の登録を行うケースも増えています。
課税事業者になるかどうかは、売上規模や取引先の属性(BtoB中心かBtoC中心か)によって判断が変わります。1期目のうちにしっかり検討しておくことをおすすめします。
⑤申告書類の複雑さ — 個人とは比べものにならない
個人の確定申告書は基本的に数ページですが、法人税の申告書は「別表」と呼ばれる書類が多数あり、小規模法人であっても10枚以上になることが一般的です。法人税のほかに、地方税(法人住民税・法人事業税)の申告書も別途作成が必要です。
さらに、決算書(貸借対照表・損益計算書など)や勘定科目内訳明細書、事業概況説明書なども添付しなければなりません。個人事業のときに「自分で確定申告していた」という方でも、法人の申告は専門家に依頼されるケースが大半です。
個人の申告もお忘れなく
法人を設立しても、経営者個人の確定申告が不要になるわけではありません。役員報酬は「給与所得」として扱われますが、年末調整で完結しない場合(たとえば給与収入が2,000万円を超える場合や、医療費控除・住宅ローン控除の初年度適用がある場合など)は、個人の確定申告も必要です。
また、法人成りした年は、個人事業の廃業に伴う最後の所得税確定申告も必要になります。個人事業の期間(1月1日~廃業日)の所得を申告し、同時に個人事業税の見込み控除なども検討しましょう。
まとめ:法人1期目の申告は「最初が肝心」
ここまでの内容をまとめます。
- 法人税は「会社」に、所得税は「個人」にかかる。法人成りすると申告が二本立てになる
- 役員報酬は定期同額給与のルールを守り、法人と個人のバランスを考えて設定する
- 法人住民税の均等割は赤字でも年間約7万円かかる
- 青色申告の承認申請書をはじめ、届出書類の期限管理が重要
- 消費税の免税・課税の選択はインボイス制度も踏まえて判断する
- 法人税の申告書類は個人とは比べものにならないほど複雑
法人1期目は、届出や役員報酬の設定など、その後の節税や経営に長く影響する判断が集中する大切な時期です。「あのとき知っていれば…」と後悔しないためにも、早めに専門家に相談されることをおすすめします。
平川文菜税理士事務所では、法人設立直後の届出サポートから1期目の決算・申告まで、小規模法人の経営者さまに寄り添ったサポートを行っております。「まだ何も手をつけていない」「何から始めればいいかわからない」という段階でも大丈夫です。お気軽にお問い合わせください。
