「事業用の口座から、つい家賃や食費を引き落としてしまっている」「クレジットカードがプライベートと仕事で同じ1枚」——創業したばかりの頃は、誰しもこんな状態になりがちです。毎日の業務に追われる中で、お金の管理まで手が回らないのは無理もありません。

しかし、この「公私混同」の状態を放置すると、正確な利益がわからないまま経営判断を誤ったり、税務調査で想定外の追徴課税を受けたりと、取り返しのつかないリスクにつながります。

この記事では、個人事業主・一人法人それぞれのケースで、生活費と事業経費を明確に分ける具体的な仕組みづくりの方法をお伝えします。「今のままで大丈夫かな?」と少しでも不安を感じている方は、ぜひ最後までお読みください。

なぜ「公私混同」は危険なのか?3つのリスク

リスク①:正確な利益がわからず、経営判断を誤る

事業の売上から生活費を直接引いてしまうと、「今月の事業はいくら儲かったのか」が見えなくなります。たとえば、月商100万円の個人事業主が事業用口座から生活費30万円を支払っていた場合、帳簿上の経費が実態より30万円多く計上され、「思ったより利益が少ない」と錯覚してしまいます。

本当は黒字なのに「赤字だから投資は控えよう」と判断してしまったり、逆に資金繰りが苦しいのに気づかず出費を続けてしまったり。公私の混同は、経営の羅針盤を狂わせる大きな原因です。

リスク②:税務調査で否認・追徴課税の対象に

税務調査では、経費の「事業関連性」が厳しくチェックされます。国税庁の統計によると、個人事業主の税務調査1件あたりの追徴税額は平均約120万円(令和4年度実績参考)とされ、その原因の多くが「本来経費にできないものを経費に計上していた」ケースです。

たとえば、家族の外食代を「会議費」として処理したり、プライベートの旅行費用を「出張費」として計上したりすると、悪質と判断されれば重加算税(本来の税額の35〜40%)が課される可能性もあります。「つい混ざってしまっただけ」という言い訳は、税務署には通用しません。

リスク③:融資・資金調達時の信用低下

金融機関は融資審査の際、決算書や確定申告書の内容を精査します。公私が混ざった不透明な帳簿では、事業の実態が正確に伝わらず、「この会社にお金を貸して大丈夫か」という信頼を得ることができません。特に日本政策金融公庫や信用保証協会付き融資では、帳簿の正確性が重視される傾向にあります。

【個人事業主向け】公私を分ける5つの具体策

個人事業主は法人と異なり、事業と個人の財布が法律上は一体です。だからこそ、意識的に仕組みで分ける必要があります。

①事業専用の銀行口座を開設する

最も基本的かつ効果的な方法です。プライベート用と事業用の口座を完全に分け、売上の入金・経費の支払いはすべて事業用口座で行います。ネットバンクなら開設も維持も手軽で、会計ソフトとの連携も簡単です。

②事業専用のクレジットカード・電子マネーを持つ

仕入れや消耗品の購入、サブスクリプション費用など、カード決済する経費は「事業専用カード」で支払う習慣をつけましょう。これだけで、月末のレシート整理の手間が激減します。

③毎月「事業主貸」で定額の生活費を移す

個人事業主には「給与」という概念がありません。その代わり、毎月決まった金額を「事業主貸」として事業用口座からプライベート口座に移動させるルールを作りましょう。たとえば「毎月25日に25万円を生活費として移動」と決めておけば、残りが事業資金として明確に把握できます。

④家事按分のルールを最初に決めておく

自宅兼事務所の家賃・光熱費・通信費などは「家事按分」で事業分のみ経費計上できます。按分割合の根拠(面積比・使用時間比など)を最初に明文化しておくことで、税務調査時にも堂々と説明できます。

  • 家賃:事務所スペースの面積割合(例:全体の30%なら30%を経費計上)
  • 電気代:使用時間や部屋数の割合で按分
  • 通信費(スマホ・Wi-Fi):事業利用割合を合理的に見積もる(50〜70%程度が一般的)

⑤会計ソフトを導入し、リアルタイムで記帳する

freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを使えば、銀行口座やカードと自動連携し、日々の取引を即座に仕訳できます。「後でまとめてやろう」はレシートの山を生む最大の原因です。

【一人法人向け】公私を分ける4つの具体策

法人の場合、会社と個人は法律上「別人格」です。にもかかわらず公私を混同すると、個人事業主以上に深刻な問題が発生します。

①役員報酬を適正に設定し、毎月定額で支給する

法人の場合、経営者の生活費は「役員報酬」として毎月定額で支払う形になります。これは法人税法上「定期同額給与」として損金算入が認められる仕組みであり、期中での変更は原則できません。事業年度の開始前に、年間の生活費を見積もったうえで適正額を設定しましょう。

②会社のお金を個人的に使わない(役員貸付金の回避)

会社の口座からプライベートの支出を行うと、帳簿上は「役員貸付金」として処理されます。この役員貸付金が膨らむと、以下のような問題が起きます。

  • 税務調査で「実質的な役員賞与」とみなされ、法人・個人双方で課税されるリスク
  • 認定利息(令和6年現在で年0.9%程度)を計上しなければ、利息相当額が役員への経済的利益として課税される
  • 金融機関からの信用が低下し、融資審査で不利になる

③法人カードと個人カードを完全に分ける

一人法人でも、法人名義のクレジットカードを作ることは可能です。事業に関する支出はすべて法人カードで決済し、個人の買い物は個人カードで。この一手間が、確定申告や決算のスムーズさを大きく左右します。

④毎月の「資金繰り表」で会社のお金を見える化する

一人法人は経理担当者がいないケースも多く、社長自身がお金の流れを把握する必要があります。月に一度、簡単でもよいので「今月の入金・出金・残高」を一覧にまとめましょう。Excelのテンプレートでも十分です。お金の流れが見えるだけで、「会社のお金を個人的に使おう」という気持ちは自然と抑えられます。

「今さら聞けない」と思ったら、早めのご相談を

公私の線引きは、創業期に仕組みを作ってしまえば、あとは自然とルーティンになります。逆に、混ざった状態が長引くほど、修正には時間もコストもかかります。

平川文菜税理士事務所では、個人事業主の方から一人法人の経営者の方まで、「お金の管理の仕組みづくり」から一緒にサポートしています。

  • 口座やカードの分け方がわからない
  • 家事按分の割合に自信がない
  • 役員報酬の適正額を相談したい
  • 過去の帳簿が公私混同しているので整理したい

こうしたお悩みをお持ちの方は、お気軽にご相談ください。最初の一歩を踏み出すだけで、経営の見通しは格段にクリアになります。

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