「これって経費にできるの?」「開業前に払ったお金はどう処理すればいいの?」——創業期のスタートアップ経営者にとって、経費計上の判断は悩ましい問題です。事業が軌道に乗る前は、自宅で仕事をしたり、プライベートのスマートフォンを業務にも使ったりと、事業と私生活の境界線が曖昧になりがちです。
実は、こうした「曖昧な部分」にこそ、見落としがちな経費が隠れています。正しく計上すれば節税につながる一方、誤った処理をすると税務調査で指摘を受けるリスクもあります。
本記事では、2026年(令和7年分)の確定申告に向けて、スタートアップ経営者が特に見落としやすい経費を5つ厳選してご紹介します。創業期だからこそ押さえておきたいポイントを、具体例を交えてわかりやすく解説します。
※具体的な控除額や按分割合は個々の状況により異なります。最新の国税庁通達等を必ずご確認のうえ、判断に迷われる場合は税理士にご相談ください。
見落としがちな経費①:自宅兼事務所の家賃・光熱費(家事按分)
創業期は自宅が「オフィス」になることが多い
スタートアップの初期段階では、コスト削減のために自宅を事務所として使うケースが非常に多いです。この場合、家賃や光熱費、インターネット回線費用の一部を事業経費として計上できます。これを「家事按分」といいます。
家事按分の考え方
家事按分では、事業で使用している割合を合理的な基準で算出します。一般的な按分基準の例は以下の通りです。
- 家賃:事業に使用している面積の割合(例:全体60㎡のうち仕事部屋が15㎡なら25%)
- 電気代:使用面積や使用時間による按分(例:1日のうち業務に使う時間が8時間なら約33%)
- インターネット回線:業務使用割合で按分(例:50%を事業使用とする)
たとえば月額家賃が10万円で、面積按分25%を適用すれば、月2万5,000円、年間で30万円を経費計上できる計算になります。この30万円を見落とすのは、節税の観点から非常にもったいないことです。
注意点:按分割合は「合理的な根拠」が求められます。感覚的に「半分くらいかな」で処理するのではなく、面積や使用時間の記録を残しておくことが重要です。
見落としがちな経費②:開業前に支出した「開業費」
開業届を出す前の支出も経費にできる
意外に知られていないのが、開業届を提出する前に支出した費用も、一定の要件を満たせば「開業費」として処理できるという点です。
所得税法施行令第7条では、開業費は繰延資産として規定されています。具体的には、事業を開始するまでの間に、開業準備のために特別に支出した費用が該当します。
開業費に該当する支出の例
- 開業前の市場調査・リサーチにかかった交通費や資料代
- 名刺・パンフレットなどの印刷費用
- 開業前に参加したセミナーや研修の受講料
- 事務所の下見や打ち合わせのための交通費
- 開業準備期間中の関係者との打ち合わせに伴う飲食費
開業費の償却方法
開業費は繰延資産として計上し、任意償却(好きなタイミングで好きな金額を償却できる方法)が認められています。つまり、利益が出た年度にまとめて償却するという戦略的な活用も可能です。
たとえば、開業前に合計20万円の準備費用がかかった場合、開業初年度は赤字が見込まれるなら償却せずに据え置き、黒字化した2年目・3年目に経費として計上するといった判断ができます。
見落としがちな経費③:通信費の按分
スマートフォン・携帯電話の料金を見落としていませんか?
創業期は個人のスマートフォンを業務にも使用するケースがほとんどです。クライアントとの電話やメール、チャットツールの利用など、明らかに業務で使っているにもかかわらず、通信費を一切経費にしていない方が少なくありません。
按分の目安と記録のポイント
通信費も家事按分の考え方で、業務使用割合を合理的に見積もって経費計上します。
- 通話明細を確認し、業務用通話の割合を算出する方法
- 使用時間から業務利用割合を見積もる方法
仮に月々のスマートフォン代が8,000円で、業務使用割合を50%とすると、月4,000円、年間で4万8,000円の経費を計上できます。小さな金額に見えますが、他の経費と合わせると確実に税負担の軽減につながります。
見落としがちな経費④:書籍・サブスクリプション・研修費
自己投資は「経費」として認められる場合がある
事業に関連する知識を得るために購入した書籍や、業務に使用するサブスクリプションサービス(クラウド会計ソフト、デザインツール、プロジェクト管理ツールなど)は、事業経費として計上できます。
よくある見落としパターン
- 業界の専門書や技術書を「自己投資だから私費」と思い込んでいる
- 月額1,000〜2,000円程度のサブスクサービスを「少額だから」と計上し忘れている
- 事業に関連するオンライン講座やセミナー費用を経費処理していない
たとえば、月額1,500円のクラウド会計ソフト、月額2,000円のデザインツール、年間で3万円分の専門書を購入した場合、合計で年間約7万2,000円の経費になります。こうした「小さな積み重ね」が見落とされやすいのです。
注意点:事業との関連性が明確でないもの(一般的な自己啓発書や趣味の延長と見なされるものなど)は、経費として認められない場合があります。購入目的と事業との関連を説明できるようにしておきましょう。
見落としがちな経費⑤:少額の消耗品・備品
「小さすぎて計上しなかった」が積もると大きな差に
創業初期に購入する文房具、プリンター用紙、USBメモリ、デスク周りの小物など、1点あたりの金額が小さい消耗品は、つい経費計上を忘れがちです。
10万円未満の備品は一括経費にできる
取得価額が10万円未満の備品は、原則として購入した年度に全額を経費(消耗品費)として計上できます。たとえば以下のようなものが該当します。
- デスクやチェア(10万円未満のもの)
- 外付けモニター、キーボード、マウスなどの周辺機器
- 業務用のバッグ、収納用品
- 文房具、コピー用紙などの事務用品
また、青色申告者であれば、30万円未満の資産について「少額減価償却資産の特例」を適用し、年間合計300万円まで一括で経費計上できる場合があります(租税特別措置法第28条の2)。この特例の適用期限は法改正により延長される場合がありますので、最新情報をご確認ください。
まとめ:創業期の「もったいない」をなくすために
今回ご紹介した、スタートアップ経営者が見落としがちな経費5選をおさらいします。
- ①自宅兼事務所の家賃・光熱費(家事按分)
- ②開業前に支出した開業費(繰延資産として任意償却が可能)
- ③通信費の按分(スマートフォン料金など)
- ④書籍・サブスク・研修費(少額でも積み重なると大きい)
- ⑤少額の消耗品・備品(10万円未満は一括経費計上可能)
創業期は事業の成長に全力を注ぐあまり、経理や税務が後回しになりがちです。しかし、正しい経費計上は手元に残るお金を増やし、事業の成長資金を確保することに直結します。「これは経費になるのだろうか?」と迷ったら、自己判断で見送るのではなく、ぜひ専門家に相談することをおすすめします。
平川文菜税理士事務所では、スタートアップ・個人事業主の方の確定申告や経費計上に関するご相談を承っております。創業期の税務についてお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。
※本記事の内容は2025年7月時点の法令・通達等に基づいて作成しています。具体的な税務処理については、個々の状況に応じて異なりますので、必ず最新の国税庁情報をご確認いただくか、税理士にご相談ください。
