年末が近づくと、過去に支払った保険の解約返戻金や、オフィス移転に伴う敷金の返還、さらには税金の還付金など「戻ってくるお金」が立て続けに入金されることがあります。「これは売上?雑収入?そもそも申告しなくていい?」——創業期の経営者や個人事業主にとって、戻ってきたお金の処理は意外なほど判断に迷うポイントです。誤った処理をすると、税務調査で過少申告を指摘されたり、逆に納めすぎて損をしてしまうことも。本記事では、2026年の確定申告に向けて、戻ってきたお金の性質ごとに所得区分・消費税の課税判定・仕訳パターンを整理します。
01なぜ「戻ってきたお金」の処理を間違えやすいのか
創業期の経営者が処理を誤りやすい理由は、大きく3つあります。
- 性質がバラバラ:還付金・返戻金・敷金返還はすべて「入金」として通帳に記載されるため、同じように収入計上してしまいがちです。しかし、それぞれ税務上の扱いはまったく異なります。
- 過去の支払時の処理との整合性が必要:戻ってきたお金の正しい処理は、「支払ったときにどう経費計上したか」に左右されます。創業直後で帳簿が整っていないと、そもそも遡って確認できません。
- 個人と法人で扱いが異なるケースがある:個人事業主の所得税と法人税では、所得区分や益金算入の考え方が異なる場面があります。
まずは「戻ってきたお金」を3つのカテゴリに分け、それぞれの正しい取り扱いを確認していきましょう。
02税金の還付金——原則として収入計上は不要
所得税・住民税の還付金
個人事業主が確定申告で所得税の還付を受けた場合、その還付金は「収入」ではありません。もともと納めすぎた税金が戻ってきただけなので、所得税法上、課税所得には含まれません。住民税の還付も同様です。
仕訳としては、以下のようになります。
【個人事業主の場合】
支払時:租税公課(または事業主貸) / 現金預金
還付時:現金預金 / 事業主借(事業所得の収入にはしない)
法人税・法人住民税の還付金
法人の場合、法人税や法人住民税の還付金は益金不算入です。ただし、法人事業税の還付金は益金に算入されるため注意が必要です。
【法人の場合——法人事業税の還付】
還付時:現金預金 / 雑収入(益金算入)
還付加算金は「収入」になる
見落としやすいのが「還付加算金」です。還付金に上乗せされる利息相当額で、これは個人なら雑所得、法人なら益金として課税対象になります。通知書で還付金本体と還付加算金の内訳を必ず確認してください。
ポイント:税金の還付金そのものは原則として課税されませんが、還付加算金は課税対象です。還付通知書が届いたら、本体と加算金の金額を分けて記帳しましょう。また、消費税の還付金も所得税・法人税の計算上は取扱いが異なる場合があるため、個別に確認が必要です。
03保険の解約返戻金——支払った保険料の処理方法がカギ
個人事業主の場合
個人事業主が事業用の損害保険等を解約し、返戻金を受け取った場合を考えます。支払った保険料を必要経費に算入していたなら、返戻金は事業所得の「雑収入」として収入計上します。
一方、生命保険や個人年金保険の解約返戻金は「一時所得」に該当します。一時所得は次の算式で計算されます。
一時所得 = 解約返戻金 − 払込保険料総額 − 特別控除50万円
たとえば、払込保険料総額が200万円、解約返戻金が230万円の場合、一時所得は「230万円 − 200万円 − 50万円 = 0円(マイナスのため)」となり、課税されません。しかし返戻金が300万円であれば「300万円 − 200万円 − 50万円 = 50万円」が一時所得となり、その2分の1(25万円)が総所得金額に合算されます。
法人の場合
法人が保険を解約した場合、返戻金はすべて益金に算入されます。ただし、貸借対照表に「保険積立金」として資産計上されている金額がある場合は、返戻金との差額が雑収入(または雑損失)になります。
【法人の仕訳例:保険積立金150万円、返戻金200万円の場合】
現金預金 200万円 / 保険積立金 150万円
/ 雑収入 50万円
消費税の取扱い
保険の解約返戻金は、消費税法上「不課税取引」です。課税売上割合の計算にも影響しませんので、消費税の申告では特段の処理は不要です。
04敷金・保証金の返還——「預けたお金」が戻っただけなら収入ではない
原則:収入計上しない
オフィスや店舗の賃貸契約で差し入れた敷金や保証金は、支払時に「敷金(資産)」として計上しているはずです。退去時に全額返還された場合は、資産の取り崩しのみで、収入は発生しません。
【全額返還の仕訳】
現金預金 / 敷金
注意が必要なケース
問題は「一部が返還されない場合」と「支払時に全額経費処理していた場合」です。
- 償却(返還されない部分)がある場合:契約で「敷金のうち20%は償却」と定められている場合、その20%相当額は支払時または契約期間で按分して経費計上します。返還された80%は資産の取り崩しとなり、収入には含まれません。
- 支払時に全額を経費処理していた場合:誤って支払時に敷金を全額「地代家賃」などで経費計上していた場合、返還時には「雑収入」として収入計上する必要があります。過去の処理を修正できるなら修正申告も検討してください。
注意:敷金を支払った際に資産計上せず経費処理していると、返還時に「収入計上漏れ」として税務調査で指摘されるリスクがあります。創業時にオフィスを借りた際の処理を、2026年分の申告前に必ず見直しておきましょう。消費税については、敷金の返還そのものは不課税ですが、返還されない償却部分は「資産の譲渡等の対価」に該当しないため同じく不課税となります(ただし、契約内容により判断が異なるケースもあります)。
05迷ったときの判断フローと実務のポイント
「戻ってきたお金」を正しく処理するために、以下のフローで判断してください。
- 支払時にどう処理したかを確認する:資産計上していたのか、経費計上していたのか、帳簿を遡って確認します。
- 戻ってきたお金の「性質」を特定する:税金の還付なのか、保険の返戻金なのか、預けた保証金の返還なのかを明確にします。
- 所得区分を判定する:事業所得の雑収入か、一時所得か、そもそも課税対象外かを判定します。
- 消費税の課税・不課税を確認する:還付金・返戻金・敷金返還はいずれも原則として不課税取引ですが、還付加算金などは注意が必要です。
- 確定申告書への反映方法を決める:個人の場合は所得の種類ごとに記載する欄が異なります。法人の場合は別表での調整が必要な項目もあります。
特に2026年分の確定申告(2027年3月期限)では、年内に届いた入金のうち「12月31日までに権利が確定しているか」が計上時期の判断基準となります。年末ギリギリの入金は翌年の収入になる場合もあるため、入金日だけでなく通知書の日付や契約上の確定日を確認してください。
- 所得税・住民税・法人税の還付金は原則として収入計上不要。ただし還付加算金と法人事業税の還付は課税対象。
- 保険の解約返戻金は、個人では一時所得または事業所得の雑収入、法人では益金算入。消費税は不課税。
- 敷金・保証金の返還は、資産の取り崩しであれば収入計上不要。支払時に経費処理していた場合は雑収入として計上が必要。
- すべてに共通するのは「支払時にどう処理したか」を確認すること。帳簿を遡って整合性を取ることが正しい申告の第一歩。
- 判断に迷う場合は、2026年中に税理士へ相談し、年内のうちに処理方針を確定させておくと安心です。
