「確定申告は3月に入ってから考えればいい」——創業1〜2年目の経営者にありがちなこの判断が、毎年のように申告期限ギリギリの徹夜作業と、取りこぼした節税策への後悔を生んでいます。2026年も残り2か月半。今このタイミングで1〜9月の実績を棚卸しし、10〜12月の見込みを加えた「年間収支プレ集計」を行えば、年内に打てる節税策の選択肢が格段に広がり、申告時期の作業負荷はおよそ半分に減らせます。本記事では、スタートアップ経営者・個人事業主の方に向けて、プレ集計の具体的な手順とチェックポイントを解説します。

01なぜ「10月スタート」が最適なのか

確定申告の準備開始時期として10月を推奨する理由は大きく3つあります。

  • 1〜9月の実績で年間の約75%が確定している:売上・経費の大勢が見えているため、残り3か月の見込みを加えるだけで精度の高い年間予測ができます。
  • 年内に届出・手続きが間に合う:小規模企業共済の加入、経営セーフティ共済の前納、30万円未満の少額減価償却資産の購入など、12月末までに実行すれば2026年分の確定申告に反映できる施策がまだ打てます。
  • 税理士への相談枠が空いている:1〜3月は税理士事務所の繁忙期です。10月であれば余裕をもった相談が可能で、より丁寧なアドバイスを受けやすくなります。

逆に、11月後半以降になると共済加入の審査期間や届出の処理期間が足りず、施策の選択肢が狭まります。10月中旬の今がまさにベストタイミングです。

02プレ集計の全体像——4ステップで仮確定する

年間収支プレ集計は、以下の4ステップで進めます。

  1. STEP 1:1〜9月の実績を集計する
  2. STEP 2:10〜12月の売上・経費を見積もる
  3. STEP 3:所得控除・税額控除を洗い出す
  4. STEP 4:仮の所得税額を算出し、対策を検討する

順番に見ていきましょう。

03STEP 1:1〜9月の実績を集計する

会計ソフトの入力漏れをチェック

まず、会計ソフト(freee、マネーフォワード、弥生会計など)に1〜9月分の取引がすべて入力されているか確認します。特に漏れやすいのは以下の項目です。

  • クレジットカードの9月利用分(10月引落し分)の計上
  • 現金で支払った交通費・接待交際費
  • Amazonや楽天などネット購入の消耗品費
  • 銀行口座の自動連携が途切れている期間の取引

売上の計上基準を再確認

創業期に多いミスが、入金ベースで売上を認識してしまうことです。原則として売上は「役務提供が完了した日」や「商品を引き渡した日」で計上します。9月に納品済みで10月入金予定の売掛金は、9月の売上として計上する必要があります。

ここまでの作業で、1〜9月の売上合計・経費合計・差引利益が確定します。たとえば、売上900万円・経費500万円であれば、9か月間の利益は400万円です。

04STEP 2:10〜12月の売上・経費を見積もる

次に、10〜12月の3か月分を見積もります。精緻な予測は不要です。目的は「所得がおおむねどのレンジに収まるか」を把握することにあります。

売上の見積もり方

  • すでに受注・契約済みの案件:金額をそのまま計上
  • 見込み案件:受注確度に応じて70〜100%で計上
  • 新規営業分:過去3か月の平均新規受注額を参考に控えめに見積もる

経費の見積もり方

家賃・通信費・サブスクリプションなどの固定費は月額×3か月で計算します。変動費は1〜9月の月平均額×3か月が目安です。年末に予定している設備投資や広告費があれば別途加算します。

仮に10〜12月の売上見込みが300万円、経費見込みが180万円とすると、年間の事業所得は次のようになります。

年間売上1,200万円 − 年間経費680万円 = 事業所得520万円(仮)

05STEP 3:所得控除・税額控除を洗い出す

事業所得が仮確定したら、適用できる所得控除をリストアップします。創業期の経営者が見落としがちな控除には以下のものがあります。

  • 青色申告特別控除(最大65万円):e-Taxでの電子申告+複式簿記が要件
  • 小規模企業共済等掛金控除:月額最大7万円(年間84万円)が全額所得控除
  • iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金:個人事業主は月額最大6.8万円
  • 社会保険料控除:国民健康保険料・国民年金保険料の支払額
  • 生命保険料控除・地震保険料控除
  • 医療費控除:家族分を含めて年間10万円超(または総所得の5%超)の医療費

ポイント:小規模企業共済は加入手続きに数週間かかる場合があります。未加入の方が2026年分から適用を受けるには、遅くとも11月中には申込みを済ませる必要があります。年払い(一括前納)にすれば、12月の1回の引落しで最大84万円の所得控除を受けられるため、プレ集計で「課税所得が想定より多い」と判明した場合の有力な選択肢になります。

06STEP 4:仮の所得税額を算出し、対策を検討する

課税所得と税額の概算

先ほどの例で計算してみましょう。

  • 事業所得:520万円
  • 青色申告特別控除:▲65万円
  • 小規模企業共済(未加入の場合):0円
  • 社会保険料控除(仮):▲70万円
  • 基礎控除:▲48万円

課税所得 = 520万円 − 65万円 − 70万円 − 48万円 = 337万円

所得税の速算表(2026年分も同様)を適用すると、330万円超〜695万円以下の税率は20%(控除額427,500円)ですので、

所得税額 = 337万円 × 20% − 427,500円 = 246,500円

ここに復興特別所得税(2.1%)を加えると約251,600円、さらに住民税が課税所得の約10%で約337,000円。合計で約59万円の税負担が見込まれます。

年内に検討すべき対策の例

プレ集計の結果を踏まえ、年内に実行可能な対策を洗い出します。

  • 小規模企業共済に加入し、年払い84万円を支払う → 課税所得が253万円に下がり、税率が10%に変わる可能性
  • 30万円未満のパソコンや備品を年内に購入し、少額減価償却資産の特例で全額経費化
  • 翌年1月の消費税課税事業者届出が必要かどうかの確認(2026年の課税売上が1,000万円を超える場合、2028年から課税事業者に)
  • ふるさと納税の上限額を正確に計算し、年内に寄附を完了する

注意:節税を目的とした経費の「前倒し計上」や「架空計上」は、税務調査で否認されるだけでなく、重加算税(最大40%)の対象になります。あくまで事業に必要な支出を適切なタイミングで行うことが前提です。プレ集計は「必要な支出の時期を年内に前倒しできるか検討する」ためのツールであり、不正な処理を行うためのものではありません。

07プレ集計を活かす3つの習慣

プレ集計を一度行ったら、年末までの2か月半で以下の習慣を取り入れると、確定申告がさらに楽になります。

  1. 月次で会計ソフトを締める:10月・11月・12月の各月末に仕訳入力を完了させる。これだけで申告時にゼロから入力する作業がなくなります。
  2. 領収書・請求書をリアルタイムで整理する:スマホで撮影してクラウドに保存し、紙の原本は月別にファイリングしておきます。
  3. 12月末にプレ集計を「本集計」に更新する:見込みだった10〜12月を実績に置き換えるだけで、確定申告書の下書きがほぼ完成します。

この流れを毎年繰り返せば、3月の確定申告は「数字の最終確認と電子申告の送信」だけで済むようになります。

08まとめ

この記事のまとめ
  • 確定申告の準備は10月スタートが最適。1〜9月の実績+10〜12月の見込みで年間収支を「プレ集計」することで、申告時期の作業負荷を大幅に軽減できる。
  • プレ集計は4ステップ:実績集計→見込み計上→控除の洗い出し→仮税額の算出。
  • プレ集計の結果をもとに、小規模企業共済の加入・少額減価償却資産の購入・ふるさと納税など、年内に打てる節税策を検討・実行する。
  • 10〜12月は月次で帳簿を締め、12月末に見込みを実績に置き換えれば、確定申告書の下書きがほぼ完成する。
  • 節税目的の架空計上や不適切な前倒し計上は厳禁。正しい手順で適切な対策を行うことが大切。