「12月末で契約満了を迎えるパートさん、更新すべきか、それとも雇止めにすべきか——」。創業期のスタートアップや小規模法人では、こうした判断を年末ギリギリまで先送りしがちです。しかし、2026年10月の今、契約状況を棚卸ししておかなければ、無期転換申込権の発生による予期せぬ人件費増、労務トラブル、さらには退職金・未払賃金の損金算入タイミングのズレなど、税務・資金繰りの両面で痛手を受けるリスクがあります。本記事では、10月中に経営者が取るべきアクションを、労務と税務の両面から整理します。

01無期転換ルールの基本と「5年ルール」の再確認

無期転換申込権とは

労働契約法第18条により、同一の使用者との間で有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者には無期労働契約への転換を申し込む権利(無期転換申込権)が発生します。労働者がこの権利を行使すると、使用者は申込みを承諾したものとみなされ、拒否することはできません。

創業期の法人が見落としやすいポイント

  • 契約期間が1年更新の場合、5回目の更新後(通算5年超)に申込権が発生する
  • 6か月以上の空白期間(クーリング期間)がなければ通算期間はリセットされない
  • 2021年末頃から雇用しているパート・契約社員は、2026年末〜2027年初にかけて通算5年超に到達する可能性がある

つまり、2026年12月末に契約満了を迎えるスタッフについて、今回の更新で通算5年を超えるかどうかを10月中に確認することが極めて重要です。

ポイント:通算契約期間の計算は「契約開始日」ではなく「初回の有期契約の初日」から起算します。過去の契約書を遡って確認し、各スタッフの通算期間を一覧表にまとめましょう。契約書が散逸している場合は、給与台帳や社会保険の資格取得届の日付からも推定が可能です。

02「更新する場合」と「雇止めする場合」の人件費シミュレーション

10月中にシミュレーションすべき理由

12月末の契約満了まで残り約2か月。雇止めの場合、少なくとも30日前までに予告する必要があります(3回以上更新されているか、1年超継続雇用されている場合)。つまり、11月末までに判断を確定させるには、10月中にコスト比較を終えておく必要があるのです。

シミュレーションの具体例

たとえば、月給18万円(社会保険加入)の契約社員1名について、更新した場合と雇止めした場合のコスト差を考えてみましょう。

ケースA:契約更新して無期転換申込権が発生する場合

  • 翌期(2027年1月〜12月)の人件費:月給18万円 × 12か月 = 216万円
  • 法定福利費(社会保険料・労働保険料の事業主負担):約216万円 × 15%前後 = 約32万円
  • 無期転換後は雇止めが原則不可となるため、事業縮小時にも固定費として継続
  • 翌期以降の年間コスト:約248万円が「固定費化」するリスク

ケースB:雇止めして新規人材を採用する場合

  • 雇止め予告(30日前)に伴う実務コスト:引継ぎ工数、業務マニュアル整備
  • 新規採用コスト:求人広告費(5万〜20万円程度)、面接・研修の工数
  • 新たな有期契約であれば、当面は固定費化リスクを回避可能
  • ただし、即戦力を失うことによる生産性低下(売上減少リスク)も考慮が必要

創業期では「固定費の増加」が資金繰りに直結します。単に月額人件費だけでなく、社会保険料の事業主負担分、退職時の諸コスト、採用にかかる時間と費用を総合的に比較検討してください。

03雇止め時の税務処理——退職金・未払賃金の損金算入タイミング

未払賃金・未払残業代の損金算入

年末に雇止めを行った場合、12月分の給与や未払残業代が期末時点で未払いとなることがあります。法人税法上、未払賃金は「債務が確定している」ものであれば、その事業年度の損金に算入できます。12月決算法人であれば当期の損金となりますが、3月決算法人であれば翌期の損金にはならず当期(2026年4月〜2027年3月期)に含まれる点に注意が必要です。

退職金の損金算入時期

有期雇用のパート・契約社員に退職金を支給する場合、原則として「退職金を支給すべきことが確定した日」の属する事業年度で損金算入します。退職金規程がない場合でも、個別の合意により支給することがあり得ますが、その場合は金額の合理性や決定の経緯を書面で残すことが重要です。

有給休暇の買い取りに注意

雇止め時に残有給休暇を買い取る場合、その支出は給与として扱われます。源泉徴収義務が発生するほか、法定福利費の計算にも影響しますので、12月の給与計算時にまとめて処理する必要があります。

注意:雇止めの際に「解決金」や「和解金」を支払うケースでは、その性質によって税務上の取扱い(給与所得・退職所得・一時所得)が異なります。安易に「慰労金」等の名目で支払うと、源泉徴収漏れや損金算入否認のリスクがあります。支払いの前に税理士へ相談してください。

04労務リスク——雇止め法理と不当雇止めの回避

雇止め法理(労働契約法第19条)

形式上は有期契約であっても、以下のいずれかに該当する場合、合理的な理由のない雇止めは無効とされる可能性があります。

  1. 過去に反復更新されており、実質的に無期雇用と同視できる場合
  2. 労働者が契約更新を期待することに合理的な理由がある場合

創業期の少人数法人では、「なんとなく毎年更新してきた」というケースが多く、この点が労務紛争の火種になりがちです。

10月中に取るべき労務面のアクション

  • 全有期雇用スタッフの契約書を確認し、更新回数・通算期間を一覧化する
  • 更新しない場合は、契約書の「更新の有無」欄の記載内容と整合しているか確認する
  • 雇止めの理由を客観的に整理する(業務量の減少、事業計画の変更など)
  • 30日前までの雇止め予告を確実に行えるスケジュールを組む

05創業期の経営者が10月中にやるべきことチェックリスト

ここまでの内容を踏まえ、2026年10月中に完了すべきアクションを整理します。

  1. 有期雇用スタッフの契約状況棚卸し(契約開始日・更新回数・通算期間の一覧表作成)
  2. 無期転換申込権が発生するスタッフの特定
  3. 更新する場合・雇止めする場合の人件費比較シミュレーション(社会保険料含む)
  4. 雇止めする場合の退職関連費用(退職金・有給買取・源泉徴収)の見積り
  5. 決算期との関係で損金算入タイミングを確認
  6. 雇止め予告のスケジュール確定(11月末日が期限)
  7. 顧問税理士・社労士への相談(労務リスクと税務処理の最終確認)

特に創業から3〜5年目の法人は、設立当初から雇用しているスタッフがちょうど無期転換ラインに差し掛かる時期です。「知らなかった」では済まされないリスクですので、早めの対応を強くおすすめします。

この記事のまとめ
  • 2026年12月末に契約満了を迎える有期雇用スタッフについて、通算5年超で無期転換申込権が発生するかを10月中に確認する
  • 契約更新した場合と雇止めした場合の人件費(社会保険料含む)を比較シミュレーションし、翌期の固定費への影響を把握する
  • 雇止め時の退職金・未払賃金・有給買取は損金算入タイミングや源泉徴収に注意が必要
  • 雇止め法理により、合理的理由のない雇止めは無効となるリスクがある。契約書の記載内容と実態の整合性を確認する
  • 11月末日の雇止め予告期限に間に合わせるため、10月中に判断材料を揃え、税理士・社労士に相談する