「事業が少しずつ回り始めて、一人では手が回らなくなってきた……。誰かに仕事を頼みたいけど、業務委託と雇用、どっちがいいんだろう?」

創業期の経営者からよくいただくご相談です。周りの先輩経営者に聞くと「最初は業務委託のほうがラクだよ」と言われることも多いですが、安易に選ぶと税務調査で「偽装請負」と指摘されるリスクや、想定外のコスト増につながることもあります。

この記事では、業務委託と雇用それぞれの税務・社会保険・実務上の違いを整理し、創業期の経営判断に役立つポイントをお伝えします。

業務委託と雇用、そもそも何が違う?

まず大前提として、「業務委託」と「雇用」は法的な性質がまったく異なります。

業務委託(外注)とは

業務委託は、民法上の請負契約準委任契約に基づき、独立した事業者同士が対等な立場で仕事のやり取りをする形態です。発注者は「成果物」や「業務の遂行」に対して報酬を支払い、仕事の進め方や時間配分は原則として受注者の裁量に委ねられます。

雇用(従業員)とは

雇用は、労働基準法・労働契約法に基づく労働契約です。使用者(会社・事業主)は労働者に対して指揮命令を行い、労働時間を管理し、その対価として給与を支払います。労働者は各種労働法で手厚く保護されます。

税務面の違いを比較する

経営者が最も気になるのは「お金まわり」の違いではないでしょうか。主要な3つの観点で整理します。

①源泉徴収の取り扱い

  • 雇用の場合:毎月の給与から所得税を源泉徴収し、年末調整を行う義務があります。給与計算事務が発生します。
  • 業務委託の場合:原則として源泉徴収は不要です。ただし、所得税法第204条に定められた特定の報酬(原稿料、デザイン料、講演料、弁護士・税理士等への報酬など)については、支払時に10.21%(100万円超の部分は20.42%)の源泉徴収が必要です。

たとえば、フリーランスのデザイナーに月額30万円のデザイン業務を委託する場合、源泉徴収額は30万円×10.21%=30,630円となり、差引269,370円を支払い、30,630円を翌月10日までに納付します。一方、プログラマーへのシステム開発委託(請負)は源泉徴収の対象外となるケースが一般的です。

②消費税の仕入税額控除

  • 雇用の場合:給与は消費税の課税対象外(不課税)です。仕入税額控除の対象にはなりません。
  • 業務委託の場合:外注費は消費税の課税仕入れに該当し、仕入税額控除の対象になります。

具体的に見てみましょう。年間の外注費が500万円(税抜)の場合、消費税50万円を仕入税額控除できます。同じ金額を給与として支払った場合、この50万円の控除はありません。消費税の課税事業者にとっては、この差は非常に大きいです。

ただし、2023年10月開始のインボイス制度により、業務委託先が適格請求書発行事業者(インボイス登録事業者)でなければ、原則として仕入税額控除ができなくなりました(経過措置あり:2026年9月までは80%、2029年9月までは50%控除可能)。外注先のインボイス登録状況の確認は必須です。

③社会保険料・労働保険料の負担

  • 雇用の場合:健康保険・厚生年金保険(法人は強制加入、個人事業主は従業員5人以上で原則強制加入)の会社負担分が発生します。おおむね給与の約15〜16%が事業主負担です。さらに、労災保険・雇用保険の保険料も加わります。月給30万円の従業員を雇用した場合、社会保険料の会社負担分だけで月額約4.5万〜4.8万円程度になります。
  • 業務委託の場合:事業主側に社会保険料の負担はありません。受注者自身が国民健康保険・国民年金に加入します。

年間で見ると、月給30万円の従業員1人あたり、社会保険料の会社負担だけで約54万〜58万円のコスト差が生じます。これが「業務委託のほうがコストを抑えられる」と言われる大きな理由です。

業務委託のメリット・デメリット

メリット

  • 社会保険料の事業主負担がない
  • 消費税の仕入税額控除が可能(インボイス要件を満たす場合)
  • 労働基準法の制約を受けない(解約が比較的柔軟)
  • 必要なときに必要なスキルを調達しやすい

デメリット

  • 業務の進め方に細かい指示を出しにくい
  • 組織への帰属意識やノウハウの蓄積が期待しにくい
  • 実態が雇用と判断されると「偽装請負」のリスクがある
  • 優秀な人材を長期的に確保しにくい場合がある

雇用のメリット・デメリット

メリット

  • 指揮命令のもと、業務を細かくコントロールできる
  • 社内にノウハウが蓄積される
  • チームとしての一体感が生まれる
  • 助成金(キャリアアップ助成金等)を活用できる場合がある

デメリット

  • 社会保険料・労働保険料の事業主負担が大きい
  • 給与は消費税の仕入税額控除対象外
  • 解雇規制が厳しく、人員調整の柔軟性が低い
  • 給与計算、年末調整、労務管理の事務負担が発生する

税務調査で「偽装請負」と指摘されないためのチェックポイント

税務調査や労基署の調査で最も問題になるのが、「形式は業務委託だが、実態は雇用ではないか」という指摘です。偽装請負と認定されると、以下のリスクがあります。

  • 過去に遡って源泉所得税の追徴課税(不納付加算税10%+延滞税)
  • 消費税の仕入税額控除の否認
  • 社会保険料の遡及徴収(最大2年分)

以下のチェックポイントで自社の実態を確認してみてください。

「雇用」と判断されやすい要素

  • ✅ 業務の遂行方法について具体的な指揮命令をしている
  • 勤務時間・勤務場所を細かく指定している
  • ✅ 報酬が時間単位で計算されている(時給制・日給制など)
  • ✅ 他社の仕事を受けることを制限している(専属性が高い)
  • ✅ 業務に必要な機材・備品をすべて発注者側が用意している
  • ✅ 報酬の支払いが、毎月定額で給与と変わらない

「業務委託」として認められやすい要素

  • ✅ 成果物の納品に対して報酬を支払っている
  • ✅ 受注者が自らの判断で仕事の進め方や時間配分を決めている
  • ✅ 受注者が自分の機材や道具を使っている
  • ✅ 他のクライアントの仕事も自由に受けられる
  • 業務委託契約書を交わし、業務内容・報酬・成果物を明記している

特に重要なのは、契約書の有無実態の一致です。契約書があっても、実態が伴っていなければ意味がありません。逆に言えば、「なんとなく業務委託として支払っている」状態が最もリスクが高いのです。

創業期の判断基準:こんなときはどちらを選ぶ?

  • 専門的なスキルを一時的に借りたい(Web制作、デザイン、記帳代行など)→ 業務委託が適しています
  • 日々の業務を一緒にこなしてほしい(接客、事務作業、営業など)→ 雇用(パート・アルバイト含む)が適しています
  • コア業務を任せたいが、まだ常勤雇用は不安 → まずは業務委託で試し、信頼関係ができたら雇用に切り替えるのも一つの方法です

ただし、業務委託から雇用への切り替え時には、契約形態・社会保険・給与計算の整備が必要です。このタイミングこそ、税理士や社会保険労務士に相談していただきたいポイントです。

まとめ

業務委託と雇用の違いを整理すると、以下のようになります。

  • コスト面では業務委託が有利(社会保険料負担なし・消費税控除可能)
  • 業務管理の自由度では雇用が有利(指揮命令が可能)
  • 偽装請負リスクを避けるには、契約書の整備と実態の一致が不可欠
  • インボイス制度の影響で、外注先の登録状況確認が必須に

創業期は「安さ」だけで判断しがちですが、中長期的な視点で組織づくりとコストのバランスを考えることが大切です。

「うちの場合はどちらが良いのか具体的に知りたい」「業務委託の契約書のチェックをしてほしい」「源泉徴収や消費税の処理が合っているか不安」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。

平川文菜税理士事務所では、創業期のお金まわり・税務・契約形態のご相談を随時承っております。

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