「医療費控除とセルフメディケーション税制、両方使えばもっと節税できるのでは?」――創業期の確定申告で、そう考えてしまう経営者の方は少なくありません。実はこの2つの制度はどちらか一方しか選択できず、選び方を間違えると数万円単位で損をするケースもあります。2026年の確定申告に向けて、両制度の違いと最適な判断基準を整理しておきましょう。

01そもそも「併用できない」理由を押さえよう

医療費控除とセルフメディケーション税制(特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例)は、いずれも所得税法上の「医療費控除」の枠組みに属する制度です。セルフメディケーション税制は医療費控除の”特例”という位置づけであるため、同一年分の確定申告で両方を同時に適用することはできません。

これは所得税法第73条および租税特別措置法第41条の17の2の規定によるもので、「本則の医療費控除」か「特例のセルフメディケーション税制」か、納税者自身がどちらか有利な方を選択して申告する仕組みになっています。

注意:一度確定申告書を提出すると、原則として選択の変更(更正の請求等による切り替え)は認められません。提出前にどちらが有利かを必ずシミュレーションしてください。

022つの制度の適用要件と控除額を比較

医療費控除(本則)

  • 対象:本人および生計を一にする親族のために支払った医療費(治療費、入院費、処方薬代、通院交通費など)
  • 適用要件:年間の医療費合計が10万円(総所得金額等が200万円未満の場合は総所得金額等の5%)を超えること
  • 控除上限額:200万円
  • 計算式:(支払医療費 − 保険金等で補填される金額) − 10万円(または総所得金額等×5%)

セルフメディケーション税制(特例)

  • 対象:スイッチOTC医薬品など特定一般用医薬品等の購入費
  • 適用要件:年間のOTC医薬品購入額が1万2,000円を超えること。加えて、申告者が健康診査・予防接種などの「一定の取組」を行っていること
  • 控除上限額:8万8,000円
  • 計算式:(対象OTC医薬品の購入費 − 保険金等で補填される金額) − 1万2,000円(上限8万8,000円)

このように、控除上限額だけを見ても医療費控除は最大200万円、セルフメディケーション税制は最大8万8,000円と大きな差があります。ただし、「医療費がそこまで多くない年」にはセルフメディケーション税制の方が有利になるケースもあるのです。

03どちらを選ぶべき?シミュレーションで比較

創業2年目の個人事業主Aさん(総所得金額400万円・所得税率20%)を例に、具体的な数字で比較してみましょう。

ケース1:医療費が年間15万円、OTC医薬品が年間3万円の場合

医療費控除を選択した場合、OTC医薬品の購入費も「医療費」に含められる可能性があります(治療目的のものに限る)。仮に合算して18万円が対象になるとすると、

  • 医療費控除額:18万円 − 10万円 = 8万円
  • 節税効果(所得税):8万円 × 20% = 1万6,000円

セルフメディケーション税制を選択した場合、

  • 控除額:3万円 − 1万2,000円 = 1万8,000円
  • 節税効果(所得税):1万8,000円 × 20% = 3,600円

この場合は医療費控除を選ぶ方が1万2,400円お得です。

ケース2:医療費が年間5万円、OTC医薬品が年間6万円の場合

  • 医療費控除:医療費5万円+OTC6万円=11万円としても、11万円 − 10万円 = 控除額1万円(節税効果2,000円)
  • セルフメディケーション税制:6万円 − 1万2,000円 = 控除額4万8,000円(節税効果9,600円)

この場合はセルフメディケーション税制の方が7,600円お得です。

ポイント:判断の目安として、年間の医療費総額(OTC含む)が10万円を大きく超える場合は医療費控除、医療費は少ないがOTC医薬品の購入が多い場合はセルフメディケーション税制が有利になりやすい傾向があります。住民税への影響(税率10%)も加味すると節税効果はさらに大きくなります。

04必要書類の違いも事前に把握しておく

医療費控除に必要な書類

  1. 医療費控除の明細書(確定申告書に添付)
  2. 医療費通知(健康保険組合等から届く「医療費のお知らせ」)があれば明細書の記入を省略可
  3. 領収書は提出不要だが、5年間の保存義務あり

セルフメディケーション税制に必要な書類

  1. セルフメディケーション税制の明細書(確定申告書に添付)
  2. 「一定の取組」を行ったことを証明する書類(健康診断の結果通知表、予防接種の領収書など)
  3. 対象医薬品の領収書・レシート(5年間の保存義務あり)

セルフメディケーション税制では「一定の取組」の証明が必須です。会社の定期健康診断を受けていない個人事業主の方は、市区町村のがん検診や特定健康診査、インフルエンザの予防接種などを受けておく必要があります。2026年中に取組を行っていなければ、この制度は利用できませんのでご注意ください。

05年間を通じた「記録習慣」が確定申告の負担を減らす

確定申告直前になって1年分の医療費を集計しようとすると、領収書の紛失や記憶違いで正確な金額が把握できないことがあります。創業期は本業に集中したい時期だからこそ、以下のような習慣を取り入れておくことをおすすめします。

  • 医療機関の領収書・薬局のレシートは月ごとに封筒やファイルにまとめる
  • OTC医薬品のレシートには対象商品に印がついていることが多いので、購入時に確認する
  • 会計ソフトや家計簿アプリで医療費を都度入力し、年間累計をいつでも確認できる状態にする
  • 年の途中(たとえば6月・9月頃)に中間集計を行い、どちらの制度が有利そうかの見当をつけておく

現時点(2026年5月)であれば、今年1月からの医療費・OTC医薬品購入額を一度集計し、年末に向けた見通しを立てるのに良いタイミングです。

06創業期の経営者が特に注意すべきこと

創業期の経営者は、法人化の前後で医療費の取り扱いが変わる点にも注意が必要です。個人事業主の場合は事業所得から医療費控除を差し引きますが、法人の役員報酬(給与所得)で確定申告する場合も医療費控除は同様に適用できます。

ただし、法人が福利厚生の一環として役員や従業員の健康診断費用を負担している場合、その費用は法人の経費であり、個人の医療費控除には含められません。個人で負担した分だけが控除の対象になるという点を混同しないようにしましょう。

また、家族の医療費も合算できるため、配偶者やお子さんの医療費が多い年は、医療費控除が大幅に有利になることがあります。家族全体での支出を見渡す視点が重要です。

この記事のまとめ
  • 医療費控除とセルフメディケーション税制は「どちらか一方」しか選択できない。併用は不可。
  • 医療費控除は年間医療費が10万円超から適用、控除上限200万円。セルフメディケーション税制はOTC医薬品1万2,000円超から適用、控除上限8万8,000円。
  • 医療費総額が10万円を大きく超える場合は医療費控除、OTC医薬品購入が中心の場合はセルフメディケーション税制が有利になりやすい。
  • セルフメディケーション税制を利用するには「一定の取組」(健康診断・予防接種等)の証明が必須。
  • 確定申告前に慌てないよう、医療費・OTC医薬品の領収書は月ごとに整理し、年の途中で中間集計する習慣をつける。
  • 判断に迷う場合は、事前に税理士へ相談して最適な選択をすることが節税のカギ。