「先月の損益計算書では黒字だったのに、今月の支払いができない——」
こんな状況、想像できるでしょうか?実はこれ、創業まもないスタートアップや小規模法人でも十分に起こり得る現実です。いわゆる「黒字倒産」と呼ばれる現象で、中小企業庁の調査でも倒産企業の約半数が直前期に黒字決算だったというデータがあります。
「利益は出ているはずなのに、なぜかお金が足りない」——そんな不安を感じている経営者の方に向けて、利益とキャッシュフローの違いをわかりやすく解説し、創業期から実践できる資金ショート防止策をお伝えします。
そもそも「利益」と「キャッシュ(現金)」は別物
まず押さえていただきたいのは、会計上の「利益」と、銀行口座にある「現金残高」はまったく別の概念だということです。
会計では「発生主義」という考え方を採用しています。これは、商品を納品した時点やサービスを提供した時点で売上を計上するルールです。つまり、お金がまだ入金されていなくても、売上として計上されるのです。
たとえば、3月に100万円の仕事を納品し、入金が5月末だとします。会計上は3月に100万円の売上が立ちますが、実際に銀行口座にお金が入るのは2か月後。この間に給料や家賃の支払いがあれば、帳簿上は黒字でも手元資金が足りなくなる可能性があるのです。
利益とキャッシュにギャップが生まれる3つの原因
原因①:売掛金の回収サイトと買掛金の支払いサイトのズレ
創業期に最もよくあるパターンがこれです。
【具体例】
あなたの会社は、取引先に「月末締め・翌々月末払い」で請求しています(回収サイト=60日)。一方、仕入先への支払いは「月末締め・翌月末払い」(支払いサイト=30日)。
- 4月に200万円を売り上げ、仕入原価が120万円だった場合
- 5月末に仕入先へ120万円を支払う
- 売上200万円が入金されるのは6月末
- → 5月末時点で120万円の支払いだけが先に発生し、手元資金が一気に減少
利益は80万円出ているのに、5月の時点ではマイナス120万円のキャッシュインパクトです。売上が伸びれば伸びるほど、この「ズレ」は大きくなります。成長企業ほど黒字倒産のリスクが高いと言われるのは、まさにこの構造が原因です。
原因②:設備投資と減価償却のタイムラグ
たとえば、事業用の車両を300万円で購入したとします。会計上は、この300万円を一度に経費にするのではなく、耐用年数(普通自動車なら6年)にわたって毎年50万円ずつ「減価償却費」として費用化します。
- キャッシュ:購入時に300万円が一気に出ていく
- 利益計算:毎年50万円ずつ経費になる
つまり、購入した年は帳簿上の費用(50万円)に比べて、実際の支出(300万円)が250万円も多いのです。損益計算書だけを見ていると「利益が出ている」と安心しがちですが、実際の現金は大幅に減っています。
原因③:借入金の返済は経費にならない
銀行から融資を受けた場合、毎月の元本返済は会計上の「経費」にはなりません(利息部分は経費になります)。
【具体例】
毎月の借入返済額が20万円(元本15万円+利息5万円)の場合、経費になるのは利息の5万円だけ。元本15万円は損益計算書に影響しませんが、確実にキャッシュは出ていきます。
年間で見ると、180万円(15万円×12か月)もの現金流出が利益に反映されていないことになります。
「利益=使えるお金」ではないことを数字で確認する
ここまでの内容を、シンプルな数字でまとめてみましょう。
【年間の損益計算書(P/L)】
- 売上:1,200万円
- 仕入原価:720万円
- 減価償却費:50万円
- その他経費:280万円
- 借入利息:60万円
- 税引前利益:90万円(黒字!)
【年間の実際のキャッシュの動き】
- 売上入金(回収遅延分▲200万円):1,000万円
- 仕入支払:720万円
- 設備購入(実際の支出):300万円
- その他経費:280万円
- 借入返済(元本+利息):240万円
- キャッシュ増減:▲540万円(大幅なマイナス!)
利益は90万円の黒字なのに、手元の現金は540万円も減っている——これが黒字倒産のメカニズムです。
創業期から始める「簡易キャッシュフロー表」の作り方
資金ショートを防ぐために、ぜひ取り入れていただきたいのが「簡易キャッシュフロー表」です。Excelやスプレッドシートで十分作成できます。
ステップ1:月初の現金残高を記入する
銀行口座の残高+手元現金の合計額を記入します。
ステップ2:当月の「入金予定」を記入する
- 売掛金の入金(取引先ごとに入金日と金額を記載)
- その他の入金(補助金、融資実行など)
ステップ3:当月の「出金予定」を記入する
- 買掛金・外注費の支払い
- 人件費(給与・社会保険料)
- 家賃・光熱費などの固定費
- 借入金の返済額(元本+利息)
- 税金・社会保険料の納付
- 設備投資の支払い
ステップ4:月末の現金残高を計算する
月初残高 + 入金合計 − 出金合計 = 月末残高
これを最低3か月先、できれば6か月先まで作成しましょう。月末残高がマイナスになる月が見つかれば、それが「資金ショートの危険信号」です。早めに融資の検討や、取引先への入金サイト短縮の交渉など、対策を打つことができます。
運用のポイント
- 週1回は更新する——数字は日々変わります。こまめに見直すことで精度が上がります
- 「最悪のシナリオ」も想定する——入金が遅れた場合、大口案件がキャンセルになった場合のシミュレーションも行いましょう
- 月商の2〜3か月分の手元資金を目安に確保する——創業期は予想外の支出がつきものです
まとめ:利益を見るだけでなく「お金の流れ」を見よう
今回のポイントを整理します。
- 会計上の利益と手元の現金は一致しない——発生主義会計の仕組みを理解しましょう
- 売掛金の回収サイト・設備投資・借入返済が、利益とキャッシュのギャップを生む主な原因です
- 成長フェーズほど資金繰りは厳しくなる——売上拡大=安心ではありません
- 簡易キャッシュフロー表を作成し、最低3か月先まで資金繰りを「見える化」することが最大の防御策です
「利益は出ているから大丈夫」ではなく、「お金はいつ、いくら入って、いつ、いくら出ていくのか」を常に把握すること。これが創業期の経営者にとって最も重要な財務管理の基本です。
平川文菜税理士事務所では、創業期の資金繰り相談やキャッシュフロー表の作成サポートを行っております。「うちの会社は大丈夫だろうか?」と少しでも不安を感じた方は、ぜひお気軽にご相談ください。
