「創業したばかりだし、まだ売上も大きくないから税務調査なんて関係ないでしょ?」——創業支援の現場で、こうした声を本当によくお聞きします。確かに、大企業に比べれば調査の確率は低いかもしれません。しかし、「創業期だから絶対に来ない」という保証はどこにもありません。むしろ、創業期特有の処理ミスや記帳の甘さが、思わぬきっかけで調査対象になることもあるのです。
この記事では、創業期の経営者が知っておきたい税務調査の実態と、調査対象になりやすいパターン、そして今日からできる備え方をわかりやすく解説します。
そもそも税務調査とは?——創業期でも対象になる理由
税務調査とは、税務署が納税者の申告内容に誤りや不正がないかを確認するために行う調査です。国税庁の発表によると、令和4事務年度(2022年7月〜2023年6月)の所得税の実地調査件数は約6万3千件、法人税の実地調査件数は約6万2千件となっています。全申告者数から見れば割合は数%程度ですが、毎年一定数の調査は確実に行われています。
「創業1〜2年目は来ない」とよく言われますが、これはあくまで傾向の話であって、ルールではありません。実際に、創業2年目で調査が入った事例も存在します。とくに近年はAIやデータ分析を活用した「プロファイリング型」の選定が進んでおり、業種・売上規模に関わらず異常値が検出されれば対象になり得ます。
創業期に税務調査の対象になりやすい5つのパターン
では、どのような場合に創業期でも調査対象になりやすいのでしょうか?創業支援の現場経験をもとに、代表的なパターンをご紹介します。
パターン①:売上に対して経費率が異常に高い
たとえば、売上500万円に対して経費が480万円——利益がほとんど出ていない、あるいは赤字が続いているケースです。創業期に赤字が出ること自体は珍しくありませんが、同業他社と比較して経費率が極端に高い場合は、税務署のシステム上で「異常値」としてフラグが立つ可能性があります。
パターン②:消費税の免税期間に売上が急増している
個人事業主の場合、基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円以下であれば消費税の納税義務が免除されます(インボイス登録をしていない場合)。この免税期間中に売上が急増していると、「本当に正しく申告しているのか」と注目されることがあります。
パターン③:現金取引の多い業種である
飲食業、美容業、建設業の一人親方など、現金取引が多い業種は昔から税務調査の対象になりやすい傾向があります。創業期であっても例外ではありません。売上の計上漏れが起きやすい業種として、税務署は重点的にチェックしています。
パターン④:開業届や申告書の内容に不整合がある
開業届に記載した事業内容と実際の申告内容にズレがある場合、あるいは確定申告書の数字に明らかな矛盾がある場合も要注意です。たとえば、従業員を雇用しているのに給与の記載がない、事業所の家賃が経費に計上されていないのに別の場所で営業している、といったケースです。
パターン⑤:取引先が税務調査を受けている(反面調査)
意外と見落としがちなのがこのパターンです。自社ではなく取引先に税務調査が入った結果、取引内容の確認のために自社にも調査が及ぶことがあります。これを「反面調査」と呼びます。創業間もない企業でも、取引先の調査がきっかけで対象になるケースは少なくありません。
税務調査で見られる主なポイント
万が一、税務調査が来た場合に何を見られるのかを知っておくことも大切です。創業期の調査で特にチェックされやすいポイントは以下の通りです。
- 売上の計上時期と金額:入金ベースではなく発生ベースで正しく計上しているか
- 経費の妥当性:私的な支出を事業経費に混ぜていないか(家事按分の根拠も含む)
- 領収書・請求書の保存状況:証憑(しょうひょう)が適切に整理・保管されているか
- 人件費の処理:家族への給与、外注費と給与の区分が適切か
- 資産の取得と減価償却:10万円以上の備品や設備を正しく資産計上しているか
これらは創業期に限らず調査の基本項目ですが、創業期は特に処理に慣れていないため、ミスが発生しやすい時期でもあります。
今からできる!税務調査への5つの備え方
「税務調査が怖い」と感じる必要はありません。日頃から正しい記帳と証憑管理を行っていれば、調査が来ても慌てることはありません。ここでは、創業期から実践できる具体的な備え方をお伝えします。
備え①:領収書・請求書は「発生日順」にファイリングする
紙の証憑は月ごと・日付順にファイリングするのが基本です。クラウド会計を使っている場合も、原本の保存義務は原則7年間(法人の場合)あります。電子帳簿保存法の要件を満たしていない限り、紙の原本は必ず保管してください。
備え②:事業用口座とプライベート口座を分ける
創業期にありがちなのが、個人の口座で事業のお金も管理してしまうケースです。これでは公私の区別がつかず、調査時に「この支出は本当に事業用ですか?」と指摘される原因になります。事業専用の銀行口座を開設することは、最も簡単かつ効果的な備えの一つです。
備え③:現金取引は「出金伝票」で記録を残す
領収書がもらえない支出(自動販売機、慶弔費など)は、出金伝票に日付・金額・内容・相手先を記録しておきましょう。「記録がない=経費として認められない」リスクを防ぐことができます。
備え④:売上は「発生主義」で計上する習慣をつける
入金があった日ではなく、サービスを提供した日・商品を引き渡した日を基準に売上を計上するのが原則です。特に期末(12月末・3月末など)をまたぐ取引は計上時期のズレが指摘されやすいので注意が必要です。
備え⑤:不安なことは早めに税理士に相談する
「この経費は計上していいのだろうか」「この処理で合っているのだろうか」——創業期は判断に迷う場面の連続です。自己判断で誤った処理を続けてしまうと、後から修正申告や追加納税が必要になるケースもあります。迷ったら早めに専門家に相談することが、最大のリスクヘッジです。
まとめ:「来ない」と決めつけず、正しい備えを
創業期だからといって税務調査が絶対に来ないわけではありません。大切なのは、調査を恐れることではなく、「来ても堂々と対応できる状態」を日頃から作っておくことです。
- 領収書・請求書は整理して保管する
- 事業用口座とプライベート口座を分ける
- 売上は発生主義で正しく計上する
- 判断に迷ったら税理士に早めに相談する
これらを実践するだけで、税務調査への備えは格段に強固になります。
平川文菜税理士事務所では、創業期の経営者に寄り添った税務顧問サービスを提供しています。記帳の方法から証憑の整理、税務調査への対応まで、お気軽にご相談ください。
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