「創業融資の返済が始まったけれど、思ったほど売上が伸びない」「毎月の返済額が重くて、このままでは資金ショートしそうだ」――こうした不安を抱えながらも、金融機関への相談を先延ばしにしていませんか。リスケジュール(返済条件の変更)と聞くと「信用を失う」「もう融資を受けられなくなる」というイメージを持つ方が多いのですが、実際にはタイミングと伝え方次第で、金融機関との信頼関係を維持したまま返済計画を立て直すことができます。本記事では、税理士の視点から「いつ」「何を準備して」「どう伝えるか」を具体的に解説します。
01そもそもリスケジュールとは何か
リスケジュール(以下「リスケ」)とは、金融機関に対して融資の返済条件を変更してもらうことを指します。具体的には、毎月の返済額の減額、返済期間の延長、一定期間の元金据置(利息のみ返済)などが代表的な方法です。
中小企業金融円滑化法(2009年施行・2013年終了)の時代から、金融機関には借り手の経営改善を支援する姿勢が根付いています。金融庁も「条件変更の申し出があった場合は、できる限り柔軟に対応すること」という監督指針を維持しており、リスケの相談自体がマイナス評価に直結するわけではありません。
創業期ならではの事情
創業融資では、据置期間(元金返済が猶予される期間)を6か月〜1年程度設定するのが一般的です。しかし据置期間が終わった途端に月々の返済額が跳ね上がり、売上が計画に追いつかないまま資金繰りが逼迫するケースは珍しくありません。日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」でも、開業後1年以内に当初の売上計画を達成できた企業は全体の約25%にとどまるというデータがあります。計画どおりにいかないことは「失敗」ではなく、創業の現実です。
02リスケを相談すべきタイミングの判断基準
「まだ大丈夫」と思っているうちに手遅れになるのが資金繰りの怖さです。以下の3つのシグナルのうち、いずれか1つでも該当したら相談のタイミングと考えてください。
- 月末の預金残高が月間固定費の1.5か月分を下回った
固定費(家賃・人件費・返済額など)の1.5か月分は最低限のセーフティラインです。これを下回ると、売掛金の入金遅れや突発的な支出で一気に資金ショートするリスクが高まります。 - 売上実績が事業計画の70%未満で推移している
3か月連続で計画比70%未満の場合、自力での回復は難しいと判断すべきです。 - 返済のために新たな借入やカードローンを検討し始めた
いわゆる「借りて返す」状態は負のスパイラルの入り口です。この段階で金融機関に正直に相談するほうが、結果的に信用を守れます。
ポイント:リスケの相談は「返済が遅延する前」に行うことが鉄則です。延滞が発生してからの相談と、延滞前の相談では金融機関の対応が大きく異なります。延滞前であれば「計画的に経営改善に取り組む意思がある」と評価され、条件変更に応じてもらえる可能性が格段に高くなります。
03相談前に準備すべき5つの資料
金融機関の担当者は「この事業者は立て直せるか」を判断します。感情論ではなく、数字と根拠で説得するために以下の資料を用意しましょう。
- 直近の試算表(月次)
少なくとも直近3か月分。現在の損益状況を正確に伝えるための基本資料です。 - 資金繰り表(向こう6か月〜12か月分)
現行の返済条件を維持した場合と、条件変更後のシミュレーションの2パターンを作成します。「条件を変更すれば資金が回る」ことを数字で示すのが最大のポイントです。 - 当初の事業計画と実績の比較表
計画と実績のズレがどこで生じたのかを明確にし、原因分析を添えます。 - 経営改善計画書
売上向上策・コスト削減策・スケジュールを具体的に記載します。「何を」「いつまでに」「どの程度の効果を見込むか」を数値で示すことが重要です。 - 希望する条件変更の内容
「元金据置を6か月延長したい」「月々の返済額を現行15万円から8万円に減額し、返済期間を2年延長したい」など、具体的な数字を提示します。
資料作成のコツ
資金繰り表や改善計画は、楽観的すぎる数字を並べると逆効果です。「保守的シナリオ」と「標準シナリオ」の2パターンを用意し、保守的シナリオでも返済が継続できることを示しましょう。金融機関は「最悪の場合でも返せるか」を見ています。
04面談での伝え方――3つの原則
原則1:事実を隠さない
売上の未達や資金繰りの厳しさを正直に伝えてください。後から事実と異なる点が判明すると、一気に信頼を失います。「計画どおりにいかなかった」こと自体は恥ではありません。金融機関の担当者も、創業期の計画が100%実現するとは思っていません。
原則2:原因分析と改善策をセットで話す
「売上が足りません、助けてください」だけでは担当者も判断のしようがありません。「売上が計画比65%にとどまっている原因は、顧客獲得チャネルがSNS集客に偏っていたためです。2026年6月からWeb広告を月5万円投入し、月間問い合わせ数を現在の20件から35件に引き上げる計画です」のように、因果関係と対策を具体的に説明します。
原則3:希望条件は「相談ベース」で提示する
「月8万円に減額してほしい」と一方的に要求するのではなく、「資金繰り表を基に試算したところ、月8万円であれば改善計画の範囲内で確実に返済を継続できます。この条件でご検討いただけないでしょうか」と、根拠とともに相談する姿勢で伝えます。
注意:リスケ中は原則として新規融資を受けることが難しくなります。そのため、リスケを申し込む前に「追加融資で対応できないか」も含めて税理士や認定経営革新等支援機関に相談し、総合的な資金戦略を検討することをおすすめします。
05リスケ後に必ずやるべきこと
条件変更が認められた後こそ、金融機関との信頼関係を強化するチャンスです。以下の3点を徹底してください。
- 月次で経営改善の進捗を報告する:試算表と資金繰り表を毎月提出し、計画との差異を説明します。報告の頻度が高いほど「きちんと管理している」という印象を与えられます。
- 改善計画の見直しをタイムリーに行う:3か月ごとに計画を振り返り、必要に応じて修正します。計画を「作りっぱなし」にしないことが重要です。
- 条件変更期間中の返済を一度も遅延しない:当然のことですが、リスケ後に返済が遅れると信用回復はきわめて困難になります。口座引落日の前日には必ず残高を確認する習慣をつけましょう。
06税理士に相談するメリット
リスケの相談を経営者ひとりで進めるのは、精神的にも実務的にも負担が大きいものです。税理士や認定経営革新等支援機関が同席することで、以下のメリットがあります。
- 資金繰り表・改善計画書を客観的な数値に基づいて作成できる
- 金融機関の担当者に対して「第三者の専門家が関与している」という安心感を与えられる
- 経営改善計画策定支援事業(通称「405事業」)など、国の支援制度の活用を提案できる
平川文菜税理士事務所では、創業期の資金繰り相談から金融機関への同席支援まで対応しております。「まだリスケが必要かどうか分からない」という段階でも、早めにご相談いただくことで選択肢が広がります。
- リスケは「信用を失う行為」ではなく、延滞前に相談すれば信頼関係を維持したまま対応できる選択肢
- 預金残高が固定費の1.5か月分を下回ったら相談のシグナル。返済のための借入を考え始めたら即行動
- 資金繰り表(現行条件・変更後の2パターン)と経営改善計画書を数字で準備することが成功の鍵
- 面談では事実を隠さず、原因分析と改善策をセットで伝え、希望条件は相談ベースで提示する
- リスケ後は月次報告を欠かさず、改善計画の進捗管理を徹底して信用回復につなげる
