確定申告が終わり、青色申告決算書や貸借対照表を眺めてみると「事業主貸」「事業主借」の金額が数百万円にも膨らんでいて驚いた――そんな経験はありませんか。「こんなに大きくて大丈夫なのだろうか」「融資に悪影響があるのでは」と不安を感じる個人事業主の方は少なくありません。本記事では、事業主勘定の正しい意味と元入金への振替の仕組みを丁寧に解説し、金融機関がこの数字をどう見ているかにも踏み込みます。2025年分の確定申告を終えた今だからこそ、来期に向けた改善のヒントをつかんでいただければ幸いです。

01「事業主貸」「事業主借」とは何か

法人にはない個人事業主特有の勘定科目

法人であれば、会社のお金と社長個人のお金は法律上明確に区別されます。しかし個人事業主の場合、事業用の財布と生活用の財布は法的に同一人物のものです。そこで、事業の帳簿上「事業のお金」と「プライベートのお金」の行き来を記録するために使われるのが事業主貸(じぎょうぬしかし)事業主借(じぎょうぬしかり)です。

事業主貸=事業から個人へ渡したお金

事業主貸は、事業のお金をプライベートに使った場合に計上します。たとえば、事業用口座から生活費30万円を引き出した場合や、事業用のクレジットカードで私的な買い物をしてしまった場合などが該当します。帳簿上は「事業が事業主個人にお金を貸した」という形になるため「事業主貸」と呼びます。

事業主借=個人から事業へ入れたお金

反対に、個人のお金を事業に充てた場合は事業主借を使います。個人の貯蓄から仕入代金を支払った場合や、プライベートの口座に入金された事業の売上を事業用口座に移した場合などが典型例です。「事業が事業主個人からお金を借りた」形になるため「事業主借」です。

ポイント:事業主貸・事業主借はあくまで事業とプライベートの資金移動を記録する勘定科目であり、それ自体が「良い・悪い」というものではありません。個人事業である以上、必ず発生する科目です。

02年度末に行われる「元入金」への振替の仕組み

元入金は法人でいう「資本金+利益剰余金」

元入金(もといれきん)は、個人事業における純資産を示す勘定科目です。法人でいえば資本金と利益剰余金を合わせたようなイメージで、事業の正味財産を表します。法人の資本金と大きく異なるのは、毎年金額が変動する点です。

振替の計算式

事業主貸・事業主借は、翌年の期首に元入金へ振り替えられ、残高がリセットされます。具体的な計算式は次のとおりです。

翌期首の元入金 = 前期末の元入金 + 青色申告特別控除前の所得金額 + 事業主借 - 事業主貸

具体例で見てみましょう

たとえば、2025年分(2025年12月31日時点)の決算書が次の数字だったとします。

  • 元入金:100万円
  • 青色申告特別控除前の所得金額:300万円
  • 事業主借:50万円
  • 事業主貸:400万円

この場合、2026年1月1日時点の元入金は次のように計算されます。

100万円 + 300万円 + 50万円 - 400万円 = 50万円

事業主貸が大きかったため、元入金が100万円から50万円に減少しました。つまり、稼いだ以上にプライベートへお金を持ち出した結果、事業の正味財産が目減りしたことを意味しています。

注意:この振替を繰り返した結果、元入金がマイナスになるケースもあります。元入金のマイナスは「事業の資産より負債のほうが大きい=債務超過」の状態を示すため、融資審査では大きなマイナス評価となり得ます。

03金融機関は事業主勘定をどう見ているか

融資審査でチェックされるポイント

日本政策金融公庫や民間の金融機関が個人事業主に融資を行う際、青色申告決算書の貸借対照表は重要な審査資料になります。事業主勘定に関して、特に注目されやすいポイントは以下のとおりです。

  1. 事業主貸が所得金額を大幅に超えていないか:所得の大半を生活費として持ち出すのは自然ですが、所得を上回る事業主貸があると「事業にお金が残らない体質」と見なされることがあります。
  2. 元入金がマイナスになっていないか:前述のとおり、実質的な債務超過と判断される可能性があります。
  3. 事業主借が異常に大きくないか:事業主借が大きい場合、「事業単体では資金が回っていない」と見られるリスクがあります。ただし、開業初期に個人資金を投入するケースなどは合理的な説明がつくため、一概にマイナスとは限りません。

金融機関が本当に知りたいこと

金融機関が最終的に気にしているのは「この事業はきちんと利益を出し、返済原資を確保できるか」という一点です。事業主貸が大きくても、十分な所得を上げたうえでの生活費引出しであれば問題になりにくいケースもあります。大切なのは、数字の背景を説明できる状態にしておくことです。

04来期に向けた改善のヒント

事業用口座とプライベート口座を明確に分ける

事業主貸・事業主借が膨らむ最大の原因は、事業用とプライベート用の口座やクレジットカードが混在していることです。まだ分けていない方は、2026年度の期首(今)がまさに整理の好機です。事業専用の銀行口座とクレジットカードを用意し、プライベートの支出は別の口座から行うようにしましょう。

毎月の生活費引出し額をルール化する

法人の役員報酬のように、毎月定額で事業口座から生活費を引き出すルールを設けると、事業主貸の金額が計画的になります。たとえば「毎月25日に25万円を生活費として振り替える」と決めておけば、年間の事業主貸は300万円で安定し、資金繰りの見通しも立てやすくなります。

年間の収支バランスを定期的にチェックする

確定申告の時期になってから慌てるのではなく、四半期に一度は貸借対照表の状態を確認する習慣をつけましょう。事業主貸が所得見込みを上回るペースで増えていないか、元入金がマイナスに転じそうでないかを早期に把握することで、対策を講じる時間的余裕が生まれます。

法人化の検討も視野に

事業規模が大きくなり、事業主勘定の金額が年間で1,000万円を超えるような状況であれば、法人化も選択肢のひとつです。法人化すれば役員報酬として定額を受け取る形になるため、事業と個人の資金の線引きが自然と明確になります。法人化にはメリット・デメリットの両面がありますので、税理士に相談のうえ慎重に判断することをおすすめします。

05まとめ

この記事のまとめ
  • 事業主貸は「事業→個人」、事業主借は「個人→事業」の資金移動を記録する勘定科目であり、個人事業では必ず発生するもの。
  • 事業主貸・事業主借は翌期首に元入金へ振り替えられ、残高がリセットされる。計算式は「前期末の元入金+所得金額+事業主借-事業主貸」。
  • 事業主貸が所得を大幅に超えていたり、元入金がマイナスになっていたりすると、融資審査でマイナス評価を受ける可能性がある。
  • 事業用口座の分離、毎月の生活費引出し額のルール化、四半期ごとの収支チェックが改善の基本。
  • 事業規模が拡大してきた場合は、法人化による資金管理の明確化も検討に値する。