確定申告が無事に終わり、ほっと一息ついていませんか。じつは申告が終わった直後の今こそ、1年分の売上・経費・利益のデータが手元に揃う「年に一度の絶好のタイミング」です。せっかくの数字をそのまま棚にしまうのは、もったいない話。この記事では、確定申告書や青色申告決算書の数字を活用して、2026年度(令和8年度)の月次予算と簡易キャッシュプランを組む具体的な手順を解説します。「数字は苦手で……」という方でも、Excelやスプレッドシートのシンプルなテンプレートを使えば、30分ほどで来期の見通しが立てられるようになります。

01なぜ「確定申告直後」が予算づくりの好機なのか

確定申告を終えた2026年3月のこの時期は、2025年分(令和7年分)の売上・経費・利益がすべて確定しています。つまり「去年の自分のビジネスの通知表」が手元にある状態です。

多くの個人事業主やスタートアップ経営者は、日々の忙しさに追われて「年間でいくら使い、いくら残ったか」を振り返る機会がほとんどありません。しかし申告書の数字を12か月に分解するだけで、次のようなことが見えてきます。

  • 月ごとの「本当の手残り」がいくらだったか
  • 経費のうち、毎月固定でかかるものと変動するものの割合
  • 売上が落ち込んだ場合、何か月分の運転資金があれば持ちこたえられるか
  • 来期に投資や設備購入を行う余裕があるかどうか

こうした情報は、経営判断の「ものさし」になります。確定申告の数字を「過去の記録」で終わらせず、「未来の計画」に変えていきましょう。

02まず準備するもの——申告書のどこを見ればいいか

予算を組むために必要な数字は、主に以下の書類から拾えます。

個人事業主の場合

  • 青色申告決算書(一般用)の損益計算書:売上金額、売上原価、経費の各科目、青色申告特別控除前の所得金額
  • 月別売上(収入)金額の欄:決算書2ページ目に12か月分の売上が記載されています
  • 確定申告書B(第一表・第二表):所得税額、社会保険料控除の金額など

小規模法人の場合

  • 法人税申告書の別表一・別表四:課税所得、法人税額
  • 決算書(損益計算書・貸借対照表):売上高、売上原価、販管費の内訳
  • 勘定科目内訳明細書:経費の詳細な内訳

ポイント:青色申告決算書の2ページ目にある「月別売上(収入)金額」は、月次予算の出発点として非常に便利です。もし白色申告で月別データが手元にない場合は、通帳の入金記録や請求書の控えから概算で月別に振り分けましょう。

035ステップで作る簡易キャッシュプラン

ここからは、ExcelやGoogleスプレッドシートを使って月次予算を組む手順を具体的に見ていきます。

ステップ1:年間の数字を「月平均」に分解する

まず、2025年分の確定申告から以下の数字を抜き出し、12で割って月平均を出します。

  • 年間売上 ÷ 12 = 月平均売上
  • 年間経費(科目ごと) ÷ 12 = 月平均経費
  • 年間所得 ÷ 12 = 月平均所得

たとえば、年間売上が720万円であれば月平均売上は60万円。年間経費が480万円であれば月平均経費は40万円。月平均の手残り(所得)は20万円、という具合です。

ステップ2:経費を「固定費」と「変動費」に分ける

経費を2つに分類します。

  • 固定費(売上に関係なく毎月かかるもの):家賃、通信費、リース料、顧問料、保険料など
  • 変動費(売上に連動して増減するもの):仕入高、外注費、広告宣伝費、交通費など

先ほどの例で、月平均経費40万円のうち固定費が25万円、変動費が15万円だったとします。変動費の「売上に対する比率」を計算すると、15万円 ÷ 60万円 = 25%です。この「変動費率25%」が来期の予算を組む際の目安になります。

ステップ3:来期の売上目標を設定する

2026年度の月別売上を、以下のいずれかの方法で見積もります。

  1. 前年実績ベース:2025年の月別売上をそのまま使う(現状維持の場合)
  2. 成長率を加味:前年比10%増など、成長目標を掛ける
  3. 季節変動を反映:繁忙期・閑散期のパターンを前年データから読み取り、月ごとにメリハリをつける

たとえば「前年比10%成長」を目指すなら、月平均売上は60万円 × 1.1 = 66万円が目安になります。

ステップ4:月次の予算表に落とし込む

スプレッドシートに以下の行を作り、12か月分の列を並べます。

  1. 売上(ステップ3で設定した月別目標)
  2. 変動費(売上 × 変動費率25%)
  3. 粗利(売上 − 変動費)
  4. 固定費(月25万円を毎月固定で入力)
  5. 営業利益(粗利 − 固定費)
  6. 税金・社会保険料(概算で所得の約30%を仮置き)
  7. 手残りキャッシュ(営業利益 − 税金・社会保険料)

先ほどの例で月売上66万円の場合、変動費は16.5万円、粗利は49.5万円、固定費25万円を引くと営業利益は24.5万円。税・社保を約30%とすると月の手残りは約17万円です。

ステップ5:「危険ライン」を確認する

最後に、以下の2つの数字を確認してください。

  • 損益分岐点売上:固定費 ÷(1 − 変動費率)= 25万円 ÷ 0.75 = 約33.3万円。月の売上がこの金額を下回ると赤字です。
  • 手元資金の月数:現在の預金残高 ÷ 月間固定費。たとえば預金が150万円なら、150万円 ÷ 25万円 = 6か月分。売上がゼロでも6か月は事業を継続できる計算です。

注意:ここで紹介した「税金・社会保険料を所得の約30%で仮置き」はあくまで簡易的な目安です。実際の税率は所得金額や各種控除、自治体の住民税率などによって異なります。正確な税額のシミュレーションが必要な場合は、税理士にご相談ください。

04テンプレートの作り方とポイント

Googleスプレッドシートなどで簡易キャッシュプランのテンプレートを作る際は、次の点を意識すると使いやすくなります。

  • 「計画」と「実績」を並べる:各月に「予算」列と「実績」列を設け、毎月末に実績を記入して差異を確認する
  • 差異が大きい月にはコメントを残す:「なぜズレたか」を書いておくと、翌年の予算精度が上がる
  • 年間の累計行を入れる:月単位の数字だけでなく、1月からの累計売上・累計利益を自動計算しておく
  • シートは1枚に収める:複雑にしすぎると更新が面倒になり、結局使わなくなる

テンプレートの構成はシンプルで構いません。A列に「売上」「変動費」「粗利」「固定費」「営業利益」「税金等」「手残り」の7行、B列からM列に1月から12月を並べ、N列に年間合計を入れるだけで十分です。

05「数字で判断する習慣」を始めるために

予算表を作ったら、月に1回、30分だけ時間を取って「予算と実績の振り返り」をしてみてください。最初は精度が低くても問題ありません。大切なのは、以下の3つの問いを毎月自分に投げかけることです。

  1. 今月の売上は計画通りだったか。ズレていたとしたら、その原因は何か。
  2. 経費に想定外の支出はなかったか。来月以降に抑えられるものはあるか。
  3. 手元の資金は何か月分あるか。3か月分を切りそうなら、早めに対策を打てないか。

この「月次レビュー」を半年も続ければ、数字に対する感覚が格段に鋭くなります。売上の伸びが鈍ったとき、新たな投資を検討するとき、「なんとなく」ではなく「数字に基づいて」判断できるようになるのは、経営者として大きな武器です。

なお、予算の精度を上げたい場合や、「自分のビジネスに合ったキャッシュプランを一緒に考えてほしい」という場合は、ぜひ税理士を活用してください。当事務所でも、確定申告後の予算策定や月次の数字レビューをサポートしております。

この記事のまとめ
  • 確定申告が終わった直後は、1年分の経営データが揃う予算づくりの絶好のタイミング
  • 青色申告決算書の月別売上や経費の内訳を12か月に分解し、固定費・変動費に分類する
  • 変動費率と固定費から損益分岐点売上を計算し、「赤字になるライン」を把握する
  • スプレッドシートで「予算」と「実績」を並べる簡易テンプレートを作り、月1回の振り返りを習慣化する
  • 手元資金が月間固定費の何か月分あるかを常に確認し、3か月分を切る前に対策を講じる