「創業1年目は赤字だったし、税務署から予定納税の通知も届かなかった。今年は黒字になったけれど、確定申告さえ済ませれば大丈夫だろう」——そう思っていませんか。実は、前年実績ゼロの翌年こそ、所得税・住民税・事業税・消費税がまとめて押し寄せ、資金繰りが一気に苦しくなる「創業期特有の落とし穴」が待っています。本記事では、そのメカニズムと翌年の納税額を先読みして資金をプールする具体的な計算手順をお伝えします。
01なぜ「予定納税の通知が届かない年」が危険なのか
予定納税制度のおさらい
予定納税とは、前年の確定申告で計算された所得税(予定納税基準額)が15万円以上の場合に、翌年の7月と11月にそれぞれ3分の1ずつを前払いする制度です。税務署から6月中旬ごろに届く「予定納税額の通知書」がその合図になります。
創業1年目が赤字だとどうなるか
創業1年目(たとえば2024年分)が赤字であれば、所得税の予定納税基準額はゼロです。したがって、2025年6月に予定納税の通知書は届きません。通知が届かないこと自体は正常ですが、問題はその「安心感」にあります。
2年目(2025年分)に黒字化した場合、2026年3月の確定申告で初めて所得税を納めることになります。しかし、税金はそれだけでは終わりません。確定申告後に住民税・事業税の納付が控えており、さらに2026年7月には「予定納税」まで始まります。つまり、1年分の税金と翌年の前払い分が短期間に集中するのです。
02黒字化した年の翌年に押し寄せる「4つの税金」
創業2年目(2025年分)に事業所得500万円の黒字が出た個人事業主を例に、2026年に発生する税負担を整理します。青色申告特別控除65万円、基礎控除48万円、社会保険料控除60万円を前提とします。
(1) 所得税(2026年3月納付)
課税所得は500万円 − 65万円 − 48万円 − 60万円 = 327万円。税率10%(控除額97,500円)を適用すると、所得税額は約23万円。さらに復興特別所得税2.1%を加え、合計で約23万5,000円となります。
(2) 住民税(2026年6月〜翌年5月)
住民税は前年の所得に対して一律約10%です。課税所得327万円に対しておよそ33万円が、2026年6月から4回に分けて通知されます。
(3) 個人事業税(2026年8月・11月)
事業税は事業所得から事業主控除290万円を差し引いた額に税率(多くの業種で5%)をかけます。(500万円 − 290万円)× 5% = 10万5,000円が年2回に分けて届きます。
(4) 所得税の予定納税(2026年7月・11月)
2025年分の確定申告で計算された予定納税基準額が15万円以上であれば、2026年7月と11月に各3分の1ずつ前払いが必要です。基準額が約23万円なら、7月に約7万7,000円、11月に約7万7,000円を納付します。
注意:上記に加えて、2025年分の売上が1,000万円を超えていた場合は、2027年分から消費税の課税事業者となります。また、インボイス登録をしている場合は創業初年度から消費税の申告・納付が発生する可能性があります。消費税は金額が大きくなりやすいため、別途シミュレーションが必須です。
合計インパクト
上記を合計すると、2026年4月から12月までの約9か月間で所得税約23万5,000円+住民税約33万円+事業税約10万5,000円+予定納税約15万4,000円=約82万4,000円の納税が集中します。事業所得500万円に対して実に16%超が短期間に出ていく計算です。
03翌年の納税額を「先読み」する5ステップ
利益が出た年度の確定申告を行うタイミングで、翌年のキャッシュアウトを概算しておくことが資金ショートを防ぐ最善策です。以下のステップで計算してみてください。
- 課税所得を確定する——確定申告書の「課税される所得金額」欄をそのまま使います。
- 所得税・復興特別所得税を計算する——速算表を使い、確定申告で納付する税額を算出します。この金額が予定納税の基準にもなります。
- 住民税を概算する——課税所得 × 10% + 均等割(約5,000円)で概算できます。
- 事業税を概算する——(事業所得 − 290万円)× 税率(5%が多い)で計算します。290万円以下ならゼロです。
- 予定納税額を計算する——予定納税基準額(源泉徴収税額を除いた所得税額)が15万円以上であれば、その3分の1 × 2回分を加算します。
これら5項目の合計が「翌年1年間で口座から出ていく税金の総額」です。この金額を12で割り、毎月の利益から先取りで納税用口座にプールしておけば、納付月に慌てることはありません。
ポイント:納税用の預金口座を事業用口座とは別に1つ作り、毎月の売上入金日に概算額を自動振替する仕組みを作っておくと、資金の「見える化」と「使い込み防止」が同時にできます。個人事業主の場合、住信SBIネット銀行の目的別口座など、手数料無料で複数口座を持てるサービスが便利です。
04創業期に使える「負担を平準化」するテクニック
予定納税の減額申請を活用する
2年目に大きな利益が出たものの、3年目は設備投資や人件費増で利益が減る見込みの場合、予定納税の減額申請が可能です。7月分は2026年7月15日まで、11月分は同年11月15日までに申請書を税務署に提出します。根拠となる見積もりの帳簿を添付する必要がありますが、過大な前払いを防げる有効な手段です。
振替納税を利用する
所得税の口座振替を届け出ておくと、確定申告期限(2026年3月16日)から約1か月後の4月下旬が実際の引落日になります。この約1か月の猶予は、月末の入金サイクルと合わせることで資金繰りに余裕を生みます。
法人成りの検討
事業所得が安定して500万円を超える水準であれば、法人化によって役員報酬の形で所得を分散し、個人・法人トータルの税負担を抑えられるケースがあります。ただし社会保険料負担との兼ね合いがあるため、シミュレーションのうえで判断してください。
05まとめ——「通知が届かない年」にこそ翌年を見据えた準備を
創業1年目の赤字は珍しいことではありません。しかし、赤字の翌年に黒字化したとき「予定納税の通知が届かなかったから安心」と油断すると、翌年に税金が一気に押し寄せて資金繰りに窮するリスクがあります。確定申告が終わったら、必ず翌年の納税スケジュールと概算額を算出し、納税資金をプールする習慣を身につけましょう。
- 前年が赤字で予定納税の通知が届かない年の翌年こそ、所得税・住民税・事業税・予定納税が集中するため要注意。
- 事業所得500万円のケースでは、確定申告後の約9か月間に約82万円超の納税が発生する。
- 確定申告時に翌年の納税額を5ステップで概算し、毎月納税用口座にプールしておくことで資金ショートを防げる。
- 予定納税の減額申請・振替納税・法人成りの検討など、負担を平準化するテクニックも活用する。
