「前年は売上が好調で予定納税の通知が届いたけれど、今年は投資がかさんで利益が大幅に減った」――創業期の経営者にはよくある話です。しかし、前年基準で計算された予定納税額と実際の確定税額との差額で還付が受けられることを知らず、本来戻ってくるはずのお金をそのままにしてしまうケースが少なくありません。資金繰りがシビアなスタートアップだからこそ、この仕組みを正しく理解しておくことが大切です。

01予定納税とは?なぜ「払いすぎ」が起こるのか

予定納税の基本的な仕組み

予定納税とは、前年の所得税の確定申告で算出された「予定納税基準額」が15万円以上の場合に、その年の所得税の一部を前払いする制度です(所得税法第104条)。具体的には、予定納税基準額の3分の1ずつを第1期(7月)と第2期(11月)の2回に分けて納付します。

創業期に「払いすぎ」が起きやすい理由

予定納税額はあくまで前年の所得をベースに計算されるため、当年の所得が前年より大幅に減少すると、前払いした税額が確定税額を上回る「払いすぎ」の状態が生じます。創業期の経営者に起きやすい典型的なパターンは次のとおりです。

  • 創業2期目以降に大型の設備投資を行い、経費が大幅に増えた
  • 前年に一時的な大口案件があり売上が跳ね上がったが、翌年は通常水準に戻った
  • 法人成りに伴い個人事業の所得が年の途中で途絶えた
  • 事業拡大のため人件費が急増し、利益が圧縮された

たとえば、2025年分の確定申告で所得税額が300万円だった個人事業主の場合、2026年の予定納税基準額は300万円となり、第1期・第2期にそれぞれ100万円ずつ、合計200万円を前払いすることになります。ところが2026年分の事業所得が大幅に減り、確定税額が80万円にとどまった場合、差し引き120万円が払いすぎとなります。

02還付が発生する仕組みと確定申告での精算方法

確定申告書での精算の流れ

予定納税で納めすぎた税額は、確定申告を行うことで精算・還付されます。確定申告書の第一表には「予定納税額」を記載する欄(第2期分までの合計額)があり、算出された確定税額との差額がマイナスになれば、その金額が還付されます。

  1. 確定申告書第一表の「予定納税額」欄に、第1期分と第2期分の合計額を記入する
  2. 「所得税及び復興特別所得税の額」から「予定納税額」を差し引く
  3. 差引額がマイナスになった場合、その金額が「還付される税金」として表示される
  4. 申告書に記載した銀行口座に、通常1か月~1か月半程度で還付金が振り込まれる

還付申告は5年間遡って提出可能

還付申告は、確定申告の義務がある方であっても期限内に行うのが原則ですが、還付を受けるためだけの申告(還付申告)は、その翌年1月1日から5年間提出が可能です。つまり、2026年5月現在であれば、2021年分以降の還付申告が可能です。「過去に予定納税を払いすぎていたかもしれない」という方は、今からでも遡って申告できる場合があります。

ポイント:還付申告と通常の確定申告の違いを押さえておきましょう。確定申告の義務がない方が税金の還付を受けるために行うのが「還付申告」で、翌年1月1日から5年間提出できます。確定申告義務のある方は法定申告期限内に提出しつつ還付を受ける形になりますが、期限後でも還付部分は請求可能なケースがあります。いずれにしても放置せず、早めに確認・申告することをおすすめします。

03還付加算金の仕組み――利息がつくことをご存じですか

予定納税による払いすぎ分が還付される際には、「還付加算金」という利息に相当する金額が加算されます。還付加算金の起算日は、原則として翌年3月16日(法定申告期限の翌日)から支払決定日までの日数に応じて計算されます。

還付加算金の割合は、各年の特例基準割合等によって変動しますが、2026年においては年0.9%程度が目安です。還付額が大きい場合は無視できない金額になることもありますので、早めの確定申告が結果的に有利に働きます。

なお、還付加算金は雑所得として課税対象になる点には注意が必要です。翌年の確定申告で雑所得として計上する必要があります。

04予定納税の減額承認申請との使い分け

減額承認申請とは

予定納税の通知が届いた時点で、すでに当年の所得が前年より大幅に減少する見込みが立っている場合は、「予定納税額の減額承認申請」を行うことで、前払い額そのものを減らすことができます(所得税法第111条)。

  • 第1期分の減額申請:その年の7月1日~7月15日までに申請
  • 第2期分の減額申請:その年の11月1日~11月15日までに申請

減額承認申請と還付申告、どちらを使うべきか

両者の使い分けのポイントは「資金繰りへのインパクト」と「見通しの確度」です。

  • 減額承認申請が適しているケース:年の前半の時点で所得の減少が明らかで、資金繰りを圧迫したくない場合。100万円単位の予定納税を回避できるため、キャッシュフロー改善効果は大きいです。
  • 確定申告時の還付精算が適しているケース:年の途中では所得の着地が読めない場合や、減額申請の期限を過ぎてしまった場合。結果的に払いすぎていれば確定申告で還付を受けられます。

創業期は売上の見通しが立ちにくいことも多いため、「まずは減額承認申請の検討→間に合わなければ確定申告で還付」という二段構えで備えるのが現実的です。

注意:減額承認申請は、見積もりの根拠となる帳簿書類の提出が求められます。申請したものの実際の所得が見積もりを大幅に上回った場合、結果として確定申告で追加納付(さらに延滞税が発生する可能性)となることもあります。見通しに自信が持てない場合は、税理士に相談のうえ慎重に判断しましょう。

05創業期の経営者が押さえておきたい実務上の注意点

確定申告書への予定納税額の記載漏れに注意

意外と多いのが、確定申告書に予定納税額を記載し忘れるケースです。予定納税額を記載しなければ、システム上は「予定納税なし」として処理され、還付が発生しません。税務署からの予定納税の通知書は必ず保管し、確定申告時に正確な金額を転記してください。

法人成りした年は特に注意

個人事業主として高い所得があった翌年に法人成りした場合、個人としての予定納税の義務は残ります。法人成り後は個人の事業所得がなくなる(または大幅に減少する)ため、予定納税額と確定税額に大きな差が生じます。この場合も減額承認申請または確定申告での還付で対応します。

還付金の振込口座を正しく記載する

還付金は申告者本人名義の口座にしか振り込まれません。屋号付き口座やご家族名義の口座は不可ですので、申告書に記載する口座情報は事前に確認しましょう。

この記事のまとめ
  • 予定納税は前年の所得を基に計算されるため、当年の所得が減少すると払いすぎが発生し、確定申告で還付を受けられる
  • 還付申告は翌年1月1日から5年間遡って提出可能。過去の払いすぎも取り戻せる可能性がある
  • 還付金には「還付加算金」(利息相当額)が付くが、雑所得として課税対象になる
  • 年の前半で所得減少が見込める場合は「予定納税の減額承認申請」で前払い額そのものを減らす方が資金繰り上有利
  • 確定申告書への予定納税額の記載漏れは還付を逃す原因になるため要注意
  • 法人成りした年は個人の予定納税義務が残るため、還付手続きを忘れずに行う