「創業2期目で赤字になってしまった。前期は黒字で法人税も納めたのに、今期は資金繰りが厳しい……」――そんなお悩みを持つスタートアップ経営者の方は少なくありません。実は、青色申告を行っている中小法人であれば、赤字の年に前年納付した法人税の還付を受けられる「欠損金の繰戻し還付」という制度があります。繰越控除と混同されがちで、創業期の経営者にはあまり知られていないこの制度について、要件から手続き、税務調査との関係まで実務目線で解説します。
01欠損金の繰戻し還付とは?制度の基本を押さえよう
「欠損金の繰戻し還付」とは、青色申告法人が当期に欠損金(税務上の赤字)を生じた場合に、前期に納付した法人税額の一部または全部の還付を請求できる制度です。根拠条文は法人税法第80条に規定されています。
たとえば、2025年3月期(前期)に課税所得500万円で法人税を納付した法人が、2026年3月期(当期)に300万円の欠損金を計上した場合、前期の法人税のうち欠損金に対応する部分について還付を受けることができます。
還付金額の計算イメージ
還付金額は以下の算式で計算されます。
還付金額 = 前期の法人税額 × (当期の欠損金額 ÷ 前期の所得金額)
上記の例で計算すると、前期の法人税額が75万円(所得500万円 × 税率15%と仮定)の場合、還付金額は以下のとおりです。
75万円 ×(300万円 ÷ 500万円)= 45万円
資金繰りが厳しい創業期の法人にとって、数十万円のキャッシュが戻ってくるのは大きな意味があります。
ポイント:繰戻し還付で戻ってくるのは「法人税」のみです。法人住民税・法人事業税は還付の対象外ですのでご注意ください。ただし、法人住民税については、還付された法人税額を翌期以降の住民税の法人税割から控除できる場合があります。
02繰戻し還付と繰越控除の違い
赤字が出たときに使える制度として、「繰越控除」と「繰戻し還付」の2つがあります。混同しやすいので、違いを整理しておきましょう。
繰越控除(法人税法第57条)
- 当期の欠損金を翌期以降10年間にわたって将来の黒字と相殺できる
- 将来の法人税を軽減する効果がある
- すぐにキャッシュが手に入るわけではない
繰戻し還付(法人税法第80条)
- 当期の欠損金を前期の所得に繰り戻して、前期に納めた法人税の還付を請求する
- 申請後、比較的早期にキャッシュが還付される(通常2〜3か月程度)
- 対象は前期1年分のみ
繰越控除は「将来の黒字で取り返す」、繰戻し還付は「過去の納税額を今すぐ取り返す」というイメージです。資金繰りを最優先したい創業期には、繰戻し還付のほうが即効性があります。なお、繰戻し還付を適用した欠損金の部分については、繰越控除との二重適用はできません。
03繰戻し還付を受けるための適用要件
この制度を利用するには、いくつかの要件をすべて満たす必要があります。
- 前期・当期ともに青色申告書を提出していること(前期は青色申告書を期限内に提出していることが必要です)
- 当期の青色申告書を期限内に提出していること
- 当期の青色申告書と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出すること
- 資本金1億円以下の中小法人等であること(大法人の100%子会社等を除く)
特に注意したいのは、1つ目と2つ目の要件です。前期の確定申告書が期限後申告だった場合、繰戻し還付は適用できません。また、当期の申告が期限後になった場合も同様です。創業期は経理体制が整っていないことも多いですが、申告期限の管理は徹底しましょう。
注意:欠損金の繰戻し還付は、かつて一定期間「不適用」とされていた時期がありましたが、中小法人等については現在も適用可能です。2026年5月現在、資本金1億円以下の普通法人(大法人による完全支配関係がある法人等を除く)は問題なく利用できます。顧問税理士がいない場合、制度自体を知らずに適用漏れとなるケースがありますのでご注意ください。
04還付請求書の記載方法と提出の流れ
繰戻し還付を受けるためには、確定申告書の提出と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」(別表七の二に関連)を所轄税務署に提出します。具体的な手続きの流れは以下のとおりです。
- 当期の決算を行い、欠損金額を確定する
- 還付請求書に、前期の所得金額・法人税額、当期の欠損金額、還付請求金額などを記載する
- 当期の確定申告書(青色)と還付請求書を、申告期限内に所轄税務署へ提出する
- 税務署による審査(必要に応じて調査)を経て、還付金が指定口座に振り込まれる
還付請求書の様式は国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。記載内容自体はシンプルですが、前期の確定申告書の控えと突き合わせて正確に転記する必要があります。
05税務調査との関係――請求すると調査が来る?
「繰戻し還付を請求すると税務調査が入る」という話を耳にしたことがある方もいるかもしれません。法人税法第80条第7項では、還付請求があった場合に税務署長がその請求の基礎となった欠損金額等について調査を行ったうえで還付を行うと規定されています。
ただし、ここでいう「調査」は必ずしも実地調査(税務署員が会社に来る調査)を意味するものではありません。実務上は、机上での書面審査のみで還付が行われるケースも多くあります。とはいえ、以下の点に留意しておきましょう。
- 還付金額が大きい場合や、欠損金の内容に不明点がある場合は、実地調査が行われる可能性がある
- 帳簿書類の整備は日頃から行っておくことが重要
- 調査の有無にかかわらず、請求から還付まで2〜3か月程度かかることが一般的
税務調査を過度に恐れて制度の利用を諦めるのはもったいないことです。正確な帳簿に基づいて適正に申告していれば、調査があっても問題になることはありません。
06創業期の法人が活用する際の実務上の注意点
設立1期目が黒字、2期目が赤字のケース
創業期に最も多いパターンが、設立初年度は売上好調で黒字だったものの、2期目に先行投資がかさんで赤字になるケースです。この場合、1期目・2期目ともに青色申告書を期限内に提出していれば、繰戻し還付を利用できます。
繰越控除との使い分け
欠損金額が前期の所得金額を上回る場合、超過部分は繰戻し還付の対象にはなりません。この超過部分については、繰越控除を適用して翌期以降の所得と相殺することが可能です。両制度を組み合わせて活用するのが賢い方法です。
地方税への影響
前述のとおり、繰戻し還付で戻ってくるのは国税(法人税)のみです。法人事業税や法人住民税の法人税割については、欠損金の繰越控除を適用して将来の税額を軽減することになります。地方税の取扱いも含めた総合的な判断は、税理士に相談されることをおすすめします。
- 欠損金の繰戻し還付は、青色申告の中小法人が赤字になった場合に、前期に納付した法人税の還付を受けられる制度
- 還付金額は「前期法人税額 ×(当期欠損金額 ÷ 前期所得金額)」で計算される
- 前期・当期とも青色申告書を期限内に提出し、還付請求書を確定申告と同時に提出することが必要
- 繰越控除が「将来の税金を減らす」のに対し、繰戻し還付は「すぐにキャッシュが戻る」即効性がある
- 税務調査が必ず行われるわけではないが、帳簿書類の整備は日頃から行っておくことが大切
- 繰戻し還付と繰越控除を組み合わせることで、欠損金を最大限に活用できる
