「創業時にカードローンで事業資金を立て替えた」「法人の融資に個人保証を付けたまま放置している」――創業期の経営者からよく聞くお悩みです。事業用と個人用の借入金が混在した状態を放置すると、利息の経費算入が否認されたり、連帯保証をめぐる思わぬ課税リスクが生じたりします。この記事では、2026年5月時点の税務上の取り扱いをもとに、借入構造を整理するポイントを解説します。
01創業期に借入が混在しやすい3つのパターン
創業期には資金調達の選択肢が限られるため、以下のようなパターンで「事業用」と「個人用」の借入が混ざりやすくなります。
- パターン1:個人名義のローンで事業資金を調達
日本政策金融公庫や銀行の審査を待つ間に、経営者個人のカードローンやフリーローンで運転資金をまかなうケース。 - パターン2:法人設立前の借入をそのまま引き継ぎ
個人事業主時代の借入を、法人成りした後も個人名義のまま返済し続けるケース。 - パターン3:法人の融資に経営者が連帯保証を付けている
創業融資で金融機関から求められ、経営者個人が連帯保証人となるケース。
いずれも「よくあること」ではありますが、会計処理と税務上の取り扱いを正しく行わないと、後々大きな問題に発展します。
02個人借入の利息を事業経費にできる条件
個人事業主の場合
個人事業主が個人名義で借り入れた資金を事業に使った場合、その利息は「事業所得の必要経費」として計上できます。ただし、認められるためには以下の条件を満たす必要があります。
- 借入金が実際に事業のために使われたことを客観的に証明できる(通帳の入出金記録、契約書など)
- 事業用とプライベート用を合理的な基準で按分している(例:借入金500万円のうち300万円を事業用に充当した場合、利息の60%が必要経費)
- 帳簿上で明確に区分されている
たとえば、個人名義のフリーローン500万円を借り入れ、そのうち300万円を開業資金に充て、残り200万円を自宅のリフォームに使った場合、年間利息が25万円であれば、事業経費にできるのは25万円 × 60% = 15万円です。
法人の場合
法人の経費にできるのは、原則として法人名義の借入金の利息です。経営者個人が借りたお金を法人に貸し付けた場合、法人側で経費にできるのは「法人が経営者に支払う利息」であり、経営者が金融機関に支払う利息そのものではありません。この場合、経営者個人と法人の間で金銭消費貸借契約書を作成し、適正な利率で貸借関係を設定する必要があります。
ポイント:経営者個人が年利3%で金融機関から借り、法人に無利息で貸し付けると、法人側では「経済的利益の供与」として認定課税のリスクがあります。2026年の税務調査でも、こうした役員借入金の利率設定は頻繁にチェックされるポイントです。法人が経営者に支払う利息は、少なくとも「特例基準割合(2025年は0.9%)+1%」程度の水準を目安に設定しておきましょう。
03法人と個人で借入を付け替える際の注意点
法人成りや資金構造の見直しに伴い、個人名義の借入を法人に付け替えるケースがあります。この際、以下の点に注意してください。
債務引受の方法を明確にする
借入の付け替えは法的には「債務引受」にあたります。金融機関の同意を得たうえで、免責的債務引受(個人が完全に債務から離脱)か併存的債務引受(個人と法人が連帯して負担)かを明確にしましょう。
- 免責的債務引受:個人の債務がなくなるため、税務上もスッキリ整理できます。ただし金融機関が応じないケースもあります。
- 併存的債務引受:個人と法人の双方に返済義務が残るため、連帯保証と同様の税務リスクが残ります。
借り換えの際に生じる経理処理
法人が金融機関から新たに融資を受けて経営者個人の借入を返済する場合、法人から個人への資金移動が発生します。これを適切に処理しないと、「法人から個人への貸付金」や「役員賞与」と見なされるリスクがあります。必ず契約書と通帳の入出金を対応させ、資金の流れを明確に記録してください。
04連帯保証と求償権の税務リスク
連帯保証が顕在化したときの課税問題
法人が返済不能に陥り、連帯保証人である経営者個人が代わりに返済(代位弁済)した場合、経営者には法人に対する「求償権」が発生します。この求償権の取り扱いが税務上の大きな論点です。
- 法人に返済能力がない場合、求償権は実質的に回収不能となり、経営者個人の「貸倒損失」や「雑損控除」の適用可否が問題になります。
- 求償権を放棄すると、法人側で「債務免除益」が発生し、法人税の課税対象となる可能性があります。
- 経営者個人が事業所得者として保証債務を履行した場合、所得税法第64条第2項の「保証債務の特例」の適用を受けられる場合がありますが、要件は厳格です。
注意:保証債務の特例(所得税法第64条第2項)の適用には、「求償権の全部または一部を行使できないこと」が条件です。法人に少しでも返済能力があると判断されると、特例が認められず、経営者個人が多額の税負担を負う可能性があります。連帯保証の規模が大きい場合は、早い段階で税理士に相談してください。
連帯保証料の取り扱い
法人が経営者個人に連帯保証料を支払っている場合、法人側では損金算入が可能ですが、保証料の水準が「適正」であることが求められます。一般的には、保証協会の信用保証料率(年0.5%〜2.0%程度)が一つの目安とされています。保証料が不相当に高額な場合は、役員報酬とみなされるリスクがあります。
05創業期のうちに借入構造をシンプルにする5ステップ
借入の混在を放置すると、事業拡大や追加融資の際にも悪影響を及ぼします。以下のステップで早めに整理しましょう。
- 借入の一覧表を作成する
名義(個人/法人)、借入先、残高、金利、返済期日、連帯保証の有無を一覧にまとめます。 - 事業用・個人用を明確に区分する
資金の使途が曖昧なものは、通帳や領収書をもとに一つずつ確認します。 - 個人名義の事業用借入は法人に付け替えを検討する
金融機関に相談し、免責的債務引受や法人での借り換えを進めます。 - 金銭消費貸借契約書を整備する
経営者と法人の間の貸し借りには、必ず書面で利率・返済条件を定めます。 - 連帯保証の見直しを行う
経営者保証ガイドラインの活用や、信用保証協会の保証への切り替えを検討します。2025年4月以降、経営者保証改革の動きがさらに進んでおり、一定の条件を満たせば経営者保証なしでの融資を受けられるケースも増えています。
創業から1〜2年のうちにこの整理を行っておくと、決算書の透明性が高まり、金融機関からの信頼も得やすくなります。
- 個人名義の借入金の利息を事業経費にするには、事業用途の証明と合理的な按分が必要
- 経営者個人から法人への貸付は、適正利率での金銭消費貸借契約書が不可欠。無利息は認定課税のリスクあり
- 借入の付け替え(債務引受)は免責的・併存的の違いを理解し、金融機関の同意を得て進める
- 連帯保証が顕在化した場合の求償権・保証債務の特例は要件が厳格。早期に専門家へ相談を
- 創業期のうちに借入一覧の作成・契約書の整備・連帯保証の見直しを行い、借入構造をシンプルにする
