「オフィスの模様替えで不要になったデスクをメルカリで売ったけど、この売上ってどう処理すればいいの?」「確定申告で何所得になるの?」――創業期やオフィス移転のタイミングで、事業用備品をフリマアプリやオークションで処分するケースは珍しくありません。しかし、所得区分の判定や帳簿価額との差額処理を誤ると、税務調査で指摘されるリスクがあります。本記事では、事業用資産の売却にまつわる税務処理を具体的な仕訳例とともに解説します。
01まず確認――「事業用資産」と「私物」の線引き
フリマアプリで何かを売ったとき、最初に確認すべきは「それは事業用の資産か、私物か」という点です。この区分によって税務上の取扱いがまったく異なります。
事業用資産に該当するもの
- 事業の経費として購入し、帳簿(固定資産台帳や経費明細)に計上しているもの
- オフィスで使用していたデスク・椅子・パソコン・プリンター・什器など
- 開業費や設備投資として取得した備品
私物に該当するもの
- 個人のプライベート用として購入した衣類・家具・家電など
- 生活用動産(通常の生活に必要な資産)
私物のうち生活用動産の売却益は、所得税法第9条第1項第9号により原則非課税です。一方、事業用資産の売却は課税対象となるため、正しく処理する必要があります。
ポイント:「もともと私物だったパソコンを途中から事業に転用した」というケースでは、事業転用時点の時価を取得価額として固定資産に計上しているかどうかがカギになります。帳簿に載っていれば事業用資産として処理します。
02所得区分の判定フロー――譲渡所得か事業所得か
事業用資産を売却した場合の所得区分は、資産の種類と売却の態様によって変わります。個人事業主の場合を中心に整理します。
個人事業主の場合
- 棚卸資産(商品・製品)の売却 → 事業所得として処理
- 事業用の固定資産(備品・車両など)の売却 → 総合譲渡所得として処理
- 不用品を反復継続的に仕入れて販売 → 事業所得または雑所得として処理
たとえば、オフィスで使っていたデスク1台をメルカリで売った場合は「2」に該当し、総合譲渡所得となります。所有期間が5年以下なら短期譲渡所得、5年超なら長期譲渡所得です。長期の場合は譲渡益の2分の1のみが課税対象になるため、税負担が軽くなります。
一方、備品の転売を反復継続的に行っている場合は、事業所得や雑所得に区分される可能性があるため注意が必要です。
法人の場合
法人が事業用資産を売却した場合は、所得区分の問題は生じません。売却益はすべて法人の益金に算入され、法人税の課税対象となります。固定資産売却益(または売却損)として処理します。
03帳簿価額との差額処理――仕訳の具体例
実務で最も迷いやすいのが仕訳です。ここでは具体的な数字を使って解説します。
ケース1:帳簿価額より高く売れた(売却益が出た)
取得価額120,000円のオフィスチェアを3年使用し、期末帳簿価額(未償却残高)が30,000円の状態で、メルカリで50,000円(手数料・送料差引後の手取り額45,000円)で売却した場合。
個人事業主の仕訳:
- (借方)事業主貸 45,000円 /(貸方)工具器具備品 30,000円・事業主貸(固定資産売却益相当) 15,000円
個人事業主の場合、事業用固定資産の売却は譲渡所得となるため、事業の損益計算には含めず「事業主貸」で処理し、確定申告書の譲渡所得欄に別途記載します。メルカリの販売手数料5,000円は譲渡費用として譲渡所得の計算上控除できます。
法人の仕訳:
- (借方)普通預金 45,000円・支払手数料 5,000円 /(貸方)工具器具備品 30,000円・固定資産売却益 20,000円
ケース2:帳簿価額より安く売れた(売却損が出た)
帳簿価額50,000円のプリンターを、メルカリで手取り10,000円で売却した場合。
個人事業主の仕訳:
- (借方)事業主貸 10,000円 /(貸方)工具器具備品 50,000円 → 差額40,000円は譲渡損失
総合譲渡所得の損失は、一定の要件のもと他の総合課税の所得と損益通算が可能です。ただし、生活に通常必要でない資産(高級品・趣味用品等)に該当する場合は損益通算できないため注意してください。
法人の仕訳:
- (借方)普通預金 10,000円・固定資産売却損 40,000円 /(貸方)工具器具備品 50,000円
04消費税の取扱い――課税事業者は要注意
消費税の課税事業者が事業用資産を売却した場合、その売却収入は消費税の課税売上に該当します。2026年(令和8年)5月現在、消費税率は10%です。
たとえば、メルカリで55,000円(税込)で売却した場合、消費税の申告上は課税売上として50,000円(税抜)を計上し、5,000円を仮受消費税として認識する必要があります。
注意:免税事業者やインボイス未登録の事業者であっても、課税売上高が1,000万円を超える判定には事業用資産の売却収入も含まれます。備品の売却額が大きい場合は、翌々年の納税義務判定に影響する可能性があるため、売却金額を正確に把握しておきましょう。
05少額資産(10万円未満)を売却した場合の注意点
取得価額が10万円未満の備品は、購入時に全額を経費処理(消耗品費等)しているケースが多いでしょう。この場合、帳簿上の残高はゼロです。
帳簿価額がゼロの資産を売却した場合、売却代金の全額が利益となります。個人事業主であれば譲渡所得(取得費ゼロとして計算)、法人であれば固定資産売却益として全額を計上します。
「経費で落としたから帳簿に載っていない=申告不要」と誤解されがちですが、売却収入が発生している以上、申告が必要です。特にメルカリなどのプラットフォームでは取引履歴が残るため、無申告は税務調査で発覚しやすい点にご留意ください。
06確定申告での記載方法と実務上のポイント
個人事業主の場合
事業用固定資産の売却益・売却損は、確定申告書B第一表・第二表の「譲渡所得」欄に記載します。青色申告決算書の損益計算書には含めません。譲渡費用(メルカリの手数料・送料など)は忘れずに控除しましょう。
法人の場合
法人税申告書の損益計算書に「固定資産売却益」または「固定資産売却損」として計上します。特別損益の区分に記載するのが一般的です。
記録として残しておくべき資料
- メルカリ等の取引履歴・売上明細のスクリーンショットまたはPDF
- 売却した資産の取得時の領収書・購入記録
- 固定資産台帳(減価償却の経過がわかるもの)
- 送料・梱包費用・販売手数料の明細
これらの資料は、個人は5年間(青色申告の場合は7年間)、法人は7年間(欠損金がある場合は10年間)の保存が義務付けられています。
- 事業用資産と私物の区分が第一歩。帳簿に計上しているかどうかが判断基準になる。
- 個人事業主が事業用固定資産を売却した場合は「譲渡所得」、法人は「固定資産売却益(損)」として処理する。
- 帳簿価額との差額を正しく計算し、メルカリ手数料等の譲渡費用も忘れずに控除する。
- 消費税の課税事業者は、売却収入を課税売上として消費税申告に含める必要がある。
- 少額で経費処理済みの資産でも、売却収入があれば申告が必要。取引記録は必ず保存しておく。
