海外のSaaSツールを契約していたら請求額から謎の税金が引かれていた。米国株の配当を受け取ったら、思ったより手取りが少なかった――こうした経験はありませんか?実はこれらの「海外で課された税金」は、確定申告で取り戻せる可能性があります。創業期は経理リソースが限られ、外国税額控除は見落とされがちな論点です。二重課税を放置すると年間で数万円、場合によっては十数万円の損失になることも。本記事では、2026年(令和8年)の確定申告に向けて、外国税額控除の対象判定から申告書への記載、添付書類の準備まで具体的に解説します。

01外国税額控除とは?二重課税が起きる仕組み

日本の居住者や内国法人は、全世界の所得に対して日本で課税されます。一方、海外で得た所得に対しては、その国でも源泉税や所得税が課されるケースがあります。同じ所得に日本と外国の両方で課税される状態が「二重課税」です。

外国税額控除とは、この二重課税を排除するために、外国で納付した税額を日本の所得税・法人税から差し引ける制度です(所得税法第95条、法人税法第69条)。控除しきれない部分は3年間の繰越が可能です。

創業期に見落としやすい2つのケース

  • 海外SaaSの源泉税:海外ベンダーへのライセンス料やサービス利用料の支払いに対し、相手国で源泉徴収されるケース
  • 米国株の配当金:経営者個人が資産運用で保有する米国株式・ETFの配当金に対し、米国で10%の源泉税が課されるケース

特に海外SaaSの場合、請求書やインボイスに「Withholding Tax」と記載があれば源泉税が差し引かれている証拠です。見落とさずに記録しておきましょう。

02海外SaaS利用時の源泉税と外国税額控除の判定

どんな取引で源泉税が発生するのか

海外SaaSの利用において源泉税が発生するかどうかは、「支払いの性質」と「相手国の国内法・租税条約」に左右されます。一般的に、以下のような支払いは使用料(ロイヤルティ)として源泉税の対象になり得ます。

  • ソフトウェアライセンスの使用許諾料
  • クラウドサービスのうち、著作権の使用と認定されるもの
  • 技術支援・コンサルティングフィー(国によって異なる)

一方、単純なSaaS利用料(サービスの提供対価)は多くの租税条約で「事業所得」として扱われ、源泉税が免除されるケースもあります。インドなど一部の国では、SaaS利用料にも源泉税を課す運用があり注意が必要です。

ポイント:外国税額控除の対象になるのは「外国の法令に基づいて課される所得税に相当する税」です。付加価値税(VAT・GST)は対象外ですので混同しないようにしましょう。請求書の税目を確認し、Income Tax / Withholding Taxと記載されているかをチェックしてください。

法人の場合と個人事業主の場合の違い

法人がSaaSベンダーに支払う場合は法人税の外国税額控除、個人事業主の場合は所得税の外国税額控除で処理します。どちらも控除限度額の計算構造は同じですが、税率や所得区分が異なるため、控除できる金額に差が出る点は意識しておきましょう。

03米国株配当の外国税額控除――具体的な計算例

日米租税条約による税率

日米租税条約により、米国株の配当金に対する米国での源泉税率は原則10%に軽減されます。そこに日本での課税(申告分離課税を選択した場合は所得税15.315%+住民税5%)が加わるため、合計で約30%の税負担となります。この米国10%分が外国税額控除の対象です。

計算例:年間配当50万円(税引前)の場合

  1. 米国源泉税:50万円 × 10% = 5万円
  2. 日本での課税対象:50万円(外国税額控除前の配当所得)
  3. 日本の税額(申告分離20.315%):50万円 × 20.315% = 約10.2万円
  4. 外国税額控除を適用:日本の税額10.2万円 − 控除額5万円 = 約5.2万円

申告しなければ米国5万円+日本10.2万円=約15.2万円の税負担ですが、外国税額控除を使えば実質約10.2万円に抑えられます。年間5万円の差額は、創業期のキャッシュフローにとって決して小さくありません。

注意:NISA口座で保有する米国株の配当は、日本では非課税ですが米国の源泉税10%は課されます。日本で課税されていないため外国税額控除の適用はできません。NISA口座と特定口座の使い分けも含め、保有口座の選択は慎重に行いましょう。

04確定申告書への記載方法と添付書類

個人(所得税)の場合

  1. 確定申告書の「外国税額控除等」欄に控除額を記載
  2. 「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」を作成・添付
  3. 外国所得税を課されたことを証する書類(配当金計算書、証券会社の年間取引報告書、海外ベンダーの請求書・源泉徴収証明など)を添付または保存

法人(法人税)の場合

  1. 法人税申告書の別表六(二)「外国税額の控除に関する明細書」を作成
  2. 控除限度額を計算し、別表一に反映
  3. 外国税額の納付を証する書類を保存

準備しておくべき添付書類チェックリスト

  • 証券会社の「年間取引報告書」または「特定口座年間取引報告書」(米国株配当の場合)
  • 海外SaaSベンダーからの請求書・インボイス(Withholding Taxの金額が明記されたもの)
  • 相手国の源泉徴収証明書(取得可能な場合)
  • 送金記録・クレジットカード明細(支払い事実の裏付け)
  • 租税条約の適用を受ける場合は「租税条約に関する届出書」の控え

05創業期に押さえておきたい実務上の注意点

控除限度額を超えた場合

外国税額控除には「控除限度額」があり、その年の所得税額(法人税額) ×(国外所得 ÷ 全世界所得)で計算されます。創業期で国内所得が少なく赤字に近い場合、控除限度額が小さくなり全額を控除しきれないことがあります。その場合は3年間の繰越控除を忘れずに活用してください。

経費算入との選択

個人事業主の場合、外国税額控除を適用せずに、外国で納めた税金を必要経費に算入する方法も選択できます(所得税法施行令第222条の2)。所得が少なく控除限度額が小さい年度は、経費算入のほうが有利になるケースもあるため、両方の計算を比較してみることをおすすめします。

為替レートの処理

外国税額を日本円に換算する際は、原則として納付日のTTBレート(対顧客電信買相場)を使用します。証券会社の年間取引報告書では自動的に円換算されていることが多いですが、SaaSの源泉税など自分で換算が必要なケースでは、レートの根拠資料も保存しておきましょう。

06まとめ

この記事のまとめ
  • 外国税額控除は、海外SaaSの源泉税や米国株配当の米国源泉税による二重課税を排除できる制度
  • VATやGSTは対象外。請求書の税目(Withholding Tax / Income Tax)を必ず確認する
  • 米国株配当では年間数万円単位の還付が見込めるため、申告漏れは大きな損失につながる
  • NISA口座の配当は日本非課税のため外国税額控除の適用不可。口座選択にも注意
  • 控除しきれない場合は3年間の繰越控除、または経費算入との有利選択を検討する
  • 確定申告時は「外国税額控除に関する明細書」と証拠書類の準備を忘れずに