「えっ、来月こんなに税金の支払いがあるなんて聞いてない……」──創業1〜2年目の経営者から、こうしたご相談をいただくことが少なくありません。売上は順調に伸びているのに、ある月だけ突然キャッシュが足りなくなる。その原因の多くは、納税や社会保険料の支払いスケジュールを把握していなかったことにあります。本記事では、2026年下半期(7月〜12月)に発生する主な納付イベントを月別に整理し、資金ショートを防ぐための「納税カレンダー」の作り方を解説します。
01なぜ創業期に「納税カレンダー」が必要なのか
創業期の経営者は、売上の確保や新規顧客の開拓に意識が集中しがちです。しかし、事業を1年以上続けると、前年の利益に基づく「後払い型」の税金が次々と発生します。所得税の予定納税、住民税、事業税などは、いずれも前年の実績に基づいて課される税金です。
たとえば、創業初年度に年間所得500万円を達成した個人事業主の場合、翌年の夏以降に所得税の予定納税(第1期・第2期)、住民税の普通徴収、個人事業税の納付が集中します。概算で合計100万円以上の支出になることも珍しくありません。これらの支払い時期をあらかじめ可視化しておかなければ、帳簿上は黒字でも手元資金が不足する「黒字倒産」のリスクが生じます。
022026年下半期──月別の主な納付イベント一覧
以下は、個人事業主および小規模法人(3月決算・12月決算)が2026年7月から12月にかけて直面する代表的な納付イベントです。自社の状況に当てはめて確認してください。
7月
- 所得税の予定納税(第1期):納付期限7月31日。前年の所得税額が15万円以上の場合に発生。予定納税額は前年の所得税額の3分の1が目安。
- 社会保険料の算定基礎届に基づく新等級の適用開始:7月に届出、9月から新しい標準報酬月額が適用されます。届出準備はこの月に行いましょう。
- 労働保険の年度更新:概算保険料・確定保険料の申告・納付期限は7月10日。
8月
- 住民税(普通徴収 第2期):納付期限は通常8月末日。前年の所得に基づく住民税を4回に分けて納付するうちの第2期。
- 個人事業税(第1期):納付期限は8月末日。前年の事業所得が290万円を超える場合に課税。税率は業種により3〜5%。
- 消費税の中間申告(年1回の場合):前年の消費税額が48万円超400万円以下の個人事業主は、8月末日までに中間申告・納付が必要。
9月
- 社会保険料(新等級の適用開始):9月分(10月納付分)から標準報酬月額が改定。法人の場合、会社負担分・本人負担分ともに金額が変わる可能性あり。
- 法人税の中間申告(3月決算法人):事業年度開始から6か月経過後2か月以内、つまり11月末が期限ですが、9月末が中間期末にあたるため、この時期から準備を始めましょう。
10月
- 住民税(普通徴収 第3期):納付期限は通常10月末日。
11月
- 所得税の予定納税(第2期):納付期限11月30日。第1期と同額が原則。
- 個人事業税(第2期):納付期限は11月末日。
- 法人税等の中間申告・納付(3月決算法人):法人税、法人住民税、法人事業税の中間申告・納付期限は11月末日。前期の税額の2分の1が仮決算しない場合の納付額。
12月
- 年末調整:従業員を雇用している場合、12月の給与支払い時に年末調整を実施。還付または徴収が発生。
- 賞与にかかる社会保険料・源泉所得税:冬季賞与を支給する場合、社会保険料・雇用保険料・源泉所得税の天引きと納付が必要。
- 固定資産税(第3期):自治体によりますが、12月末日が第3期の納期限となるケースが多い。
ポイント:上記はあくまで代表的なスケジュールです。法人の決算月や届出状況、自治体の条例によって納付時期が異なります。必ずご自身の状況に合わせて確認してください。消費税の中間申告は、前年の年税額により年1回・年3回・年11回と回数が変わる点にも注意が必要です。
03概算金額の見積もり方──「前年実績」をベースに考える
納税カレンダーを作るうえで最も大切なのが、「いくら払うのか」を事前に見積もることです。正確な金額は確定申告や決算を経なければ分かりませんが、前年実績をベースにすれば十分に実用的な概算値を出すことができます。
個人事業主の場合
- 所得税の予定納税額:前年の確定申告書の「予定納税基準額」欄を確認。この金額の3分の1が第1期・第2期それぞれの納付額。
- 住民税:毎年6月に届く住民税の納税通知書に記載された年税額を4で割った金額が各期の納付額。
- 個人事業税:(前年の事業所得 − 290万円)× 税率(多くの業種で5%)を2で割った金額が各期の納付額。
- 消費税の中間納付額:前年の消費税の年税額の2分の1(年1回中間申告の場合)。
小規模法人の場合
- 法人税等の中間納付額:前期の法人税額の2分の1。地方税(法人住民税・法人事業税)も同様に前期の2分の1。
- 社会保険料:毎月の給与に対して約30%(会社負担+本人負担の合計)が目安。役員報酬月額30万円なら月約9万円の会社負担。
- 源泉所得税:毎月の給与から天引きし、翌月10日までに納付(納期の特例適用時は年2回)。
注意:創業2年目で前年より大幅に売上が減少した場合、所得税の予定納税は「予定納税額の減額申請」を行うことで負担を軽減できます。第1期分は2026年7月15日まで、第2期分は2026年11月15日までに所轄税務署へ申請書を提出してください。資金繰りが厳しい場合は必ず検討しましょう。
04Excelで作る「納税カレンダー」の実践手順
ここからは、実際にExcelで納税カレンダーを作成する手順を紹介します。難しい関数は使いません。30分もあれば完成します。
ステップ1:シートの基本構成を作る
列Aに「月」(7月〜12月)、列Bに「納付項目名」、列Cに「納付期限」、列Dに「概算金額」、列Eに「実際の納付額(確定後に記入)」、列Fに「備考」を設定します。
ステップ2:前章の一覧を転記する
本記事の月別一覧を参考に、ご自身に該当する項目だけを転記してください。法人で消費税の免税事業者であれば消費税の行は不要ですし、従業員がいなければ労働保険の行も不要です。
ステップ3:概算金額を入力する
前年の確定申告書・決算書・住民税通知書などを手元に用意し、前章の計算方法で概算金額を入力します。
ステップ4:月ごとの合計行を作る
SUM関数で各月の概算金額の合計を算出します。これにより「8月は合計○○万円の支出がある」と一目で分かるようになります。
ステップ5:資金残高の列を追加する
さらに実用的にするなら、列Gに「月初の預金残高」、列Hに「月末の想定残高(月初残高 − その月の納付合計)」を追加しましょう。ここで残高がマイナスになる月があれば、事前に資金を確保する対策が必要です。
05資金ショートを防ぐための3つの習慣
カレンダーを作るだけでなく、日頃から以下の習慣を取り入れることで、納税資金の不足を未然に防ぐことができます。
- 売上の10〜15%を「納税用口座」に毎月プールする:メインの事業用口座とは別に、税金・社会保険料の支払い専用口座を開設し、毎月売上の一定割合を移しておきます。個人事業主であれば10%、法人で利益率が高い業種なら15%が目安です。
- 月初に納税カレンダーを確認する:毎月1日にカレンダーを開き、その月の納付項目と金額を確認する習慣をつけましょう。支払い漏れの防止にもなります。
- 四半期ごとに概算金額を見直す:業績が好調で前年を大きく上回りそうな場合、翌年の税負担が増加します。四半期ごとに利益の着地見込みを確認し、カレンダーの金額を修正しましょう。
06迷ったら早めに専門家へ相談を
納税スケジュールは、事業形態(個人・法人)、届出の有無、業種、自治体などによって千差万別です。「自分にはどの税金が関係するのか分からない」「概算金額の見積もりに自信がない」という場合は、早めに税理士へ相談することをおすすめします。特に創業期は、初めて経験する税目が多く、納付期限の直前に慌てるケースが目立ちます。
平川文菜税理士事務所では、創業期の経営者に向けた納税スケジュールの作成支援や、資金繰りのアドバイスを行っています。お気軽にお問い合わせフォームよりご相談ください。
- 創業期は前年の実績に基づく「後払い型」の税金が集中し、資金ショートのリスクが高まる。
- 2026年下半期は、所得税の予定納税(7月・11月)、住民税・事業税(8月・10〜11月)、消費税の中間申告(8月)、社会保険料の等級改定(9月)など納付イベントが多い。
- 概算金額は前年の確定申告書・納税通知書をベースに見積もることができる。
- Excelで月別に納付項目・金額・残高を可視化する「納税カレンダー」を作れば、資金不足を先回りで防げる。
- 売上の10〜15%を納税用口座にプールし、月初にカレンダーを確認する習慣が資金ショート防止に有効。
