「夏休みだけインターンを受け入れたい」「イベント当日だけ短期バイトに来てもらいたい」——創業間もないスタートアップや個人事業主にとって、夏は初めて人を雇う場面が増える季節です。しかし、源泉徴収の甲欄・乙欄の判定を誤ったり、1日だけの勤務だからと労災保険の適用を怠ったりすると、後から追徴課税や労基署の指摘を受けるリスクがあります。本記事では、2026年の夏に短期の人材を受け入れる際に押さえておくべき税務・労務の実務ポイントを、具体例付きで解説します。
01まず確認——「雇用」か「業務委託」かで処理がまったく違う
短期の人材を受け入れるとき、最初に判断すべきは「雇用契約(労働者)」か「業務委託契約(外注)」かという点です。インターンであっても、指揮命令のもとで勤務時間を定めて働いてもらう場合は、実態として雇用関係とみなされます。
雇用と判断される主な要素
- 勤務場所・時間が指定されている
- 業務の進め方について具体的な指示を受ける
- 報酬が時間単位・日額で支払われる
- 会社の備品や設備を使用して作業する
これらに該当する場合は、たとえ「インターンシップ」という名称であっても労働基準法上の労働者にあたり、源泉徴収義務や労災保険の適用対象になります。「無給インターン」であっても実態が労働者であれば最低賃金以上の支払いが必要ですので、契約形態を安易に決めないようにしましょう。
02源泉徴収の甲欄・乙欄・日額表丙欄——判定フローを整理する
短期アルバイトやインターンに給与を支払う場合、源泉徴収税額は「給与所得の源泉徴収税額表」を使って計算します。ここで間違いやすいのが、甲欄・乙欄・丙欄のどれを適用するかです。
判定のポイント
- 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらったか?
提出あり → 甲欄を適用(税額が低い)
提出なし → 乙欄を適用(税額が高い) - 日雇い(日々雇い入れられる者)に該当するか?
雇用契約の期間があらかじめ2か月以内と定められており、かつ日々の労働に対して日ごとに給与が計算される場合は、日額表の丙欄が使える可能性があります。
具体例で比較:日給1万円の場合(2026年分源泉徴収税額表)
- 甲欄(扶養控除等申告書の提出あり・扶養親族0人):源泉徴収税額は0円(日額が課税最低限以下のため)
- 乙欄(扶養控除等申告書の提出なし):日給1万円に対し約3.063%相当、概算で約306円の源泉徴収が必要
- 丙欄(日雇賃金に該当):日額9,300円超の部分に対して課税。日給1万円なら約24円程度
ポイント:扶養控除等申告書は「主たる給与の支払者」1か所にしか提出できません。大学生のインターンが他にメインのアルバイト先を持っている場合、御社には提出できないため乙欄適用となります。受け入れ初日に必ず確認しましょう。なお、丙欄は日雇いの要件を満たす場合に限られ、継続2か月を超える雇用では適用できません。
03日雇賃金の源泉徴収——丙欄が使えるケース・使えないケース
丙欄は税額が最も低くなるため「できれば丙欄を使いたい」と考える方が多いですが、適用条件は厳格です。
丙欄が使える条件
- 労働した日ごとに給与が支払われる、または労働した時間によって給与が算定される
- あらかじめ定められた雇用期間が2か月以内である
- 日々雇い入れる形態である(継続雇用の予定がない)
丙欄が使えないケース
- 「夏休みの8月1日から9月30日まで」のように期間を定めて週3日以上シフトに入れる → 継続的雇用であり、甲欄または乙欄
- 月額で給与をまとめて支払う → 日額表ではなく月額表を使用
たとえば、イベント準備で「7月20日の1日だけ」日給1万2,000円で手伝ってもらい、その日に現金で支払うようなケースであれば、丙欄を適用して源泉徴収額を計算できます。一方、夏休み期間中に週3日・2か月間のインターンとして受け入れる場合は、甲欄または乙欄で月額表を使うことになります。
04労災保険——1日だけの勤務でも適用は必須
「たった1日のアルバイトなのに労災保険が必要なの?」という質問をよくいただきますが、答えは「必要」です。労災保険(労働者災害補償保険)は、雇用形態や勤務日数にかかわらず、1人でも労働者を使用する事業所に適用されます。
創業期に見落としやすいポイント
- 労災保険の加入手続き:初めて人を雇う場合、雇用開始日から10日以内に「保険関係成立届」を労働基準監督署に、50日以内に「概算保険料申告書」を提出する必要があります。
- 保険料の負担:労災保険料は全額事業主負担です。一般の事業であれば賃金総額の1,000分の3前後(業種により異なる)が目安です。
- 雇用保険との違い:雇用保険は「1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込み」が加入要件のため、1日限りの日雇いバイトであれば不要な場合が多いです。ただし労災保険は1日でも必須です。
注意:労災保険の適用がない状態で労働者がケガをした場合、治療費や休業補償を事業主が全額自己負担するだけでなく、費用徴収制度により労災保険給付額の100%または40%が追加徴収される可能性があります。1日だけの受け入れでも、必ず保険関係を成立させてから業務を開始してください。
05実務チェックリスト——受け入れ前にやるべき5つのこと
最後に、夏のインターン・短期アルバイトを受け入れる前にチェックすべき項目をまとめます。
- 雇用契約書(労働条件通知書)の作成:勤務期間、勤務時間、賃金、業務内容を明記。2024年4月以降の法改正により、就業場所・業務の変更の範囲の明示も必要です。
- 扶養控除等申告書の提出確認:受け入れ初日までに回収。他社に提出済みかどうかを本人に確認し、提出の有無に応じて甲欄・乙欄を判定。
- マイナンバーの取得:給与支払報告書の作成に必要なため、本人確認とあわせて番号を取得。短期であっても省略不可。
- 労災保険の加入確認:初めて人を雇う場合は保険関係成立届を提出。すでに加入済みであれば、年度更新時の賃金総額にアルバイト分を含めることを忘れない。
- 給与支払事務所等の開設届出書の提出:初めて給与を支払う場合は、支払事務所の開設から1か月以内に税務署へ届出が必要。
これらの手続きを怠ると、税務調査や労基署の調査で指摘を受ける原因になります。特に創業初期は「まだ人を雇ったことがない」という前提で諸届出が未提出のケースが多いため、受け入れが決まった段階で早めに準備を進めましょう。
- インターンであっても指揮命令下で働く場合は「雇用」にあたり、源泉徴収と労災保険の適用が必要
- 扶養控除等申告書の提出有無で甲欄・乙欄が決まる。他社に提出済みの学生は乙欄適用となり、税額が高くなる
- 丙欄(日雇賃金の税額表)は、日々雇い入れで2か月以内の雇用期間の場合にのみ適用可能
- 労災保険は1日だけの勤務であっても加入必須。未加入時の事故は事業主に重い負担が生じる
- 初めて人を雇う場合は、保険関係成立届・給与支払事務所等の開設届出書など、事前の届出を忘れずに
