「本業のフリーランス収入に加えて、保有していた暗号資産やNFTの売却益が出た。確定申告ではどう書けばいいのだろう?」――創業期の経営者や個人事業主の方から、毎年このようなご相談をいただきます。事業所得と暗号資産の利益では所得区分が異なるため、損益通算の可否や税率計算に大きな違いが生じます。2026年8月現在の税制を踏まえ、実務で迷いやすいポイントを整理しました。
01暗号資産・NFTの利益は「雑所得」が原則
所得区分の判定基準
国税庁は「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」において、個人が暗号資産の売却や交換で得た利益は原則として雑所得(総合課税)に区分されるとしています。NFTについても、暗号資産と同様に雑所得として扱うのが基本です。
ただし、暗号資産の取引を事業として行っている場合には例外的に事業所得に該当する余地があります。判定のポイントは以下のとおりです。
- 暗号資産の売買を反復継続し、それが主たる収入源であること
- 取引の規模・頻度・設備投資の状況から「事業」と認められること
- 帳簿を備え、事業として管理していること
創業期の経営者で、本業が別にあり暗号資産は投資目的で保有している場合、暗号資産の利益はほぼ確実に雑所得になります。「開業届に暗号資産取引と書いたから事業所得だ」という解釈は認められませんのでご注意ください。
ポイント:2025年度税制改正大綱では暗号資産への申告分離課税(20.315%)の導入が検討事項として示されましたが、2026年8月時点では法改正に至っておらず、引き続き総合課税(最大税率45%+住民税10%)が適用されます。今後の動向に注意が必要です。
02事業所得と雑所得で異なる損益通算のルール
損益通算できるケースとできないケース
所得税法では、損益通算が認められるのは不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の赤字に限られます(所得税法第69条)。雑所得の赤字は他の所得と損益通算できません。
これを具体的な数字で見てみましょう。
【ケースA】本業の事業所得が300万円の黒字、暗号資産の雑所得が100万円の赤字
→ 雑所得の赤字は損益通算不可。課税対象は事業所得300万円のまま。暗号資産の損失100万円は切り捨てとなります。
【ケースB】本業の事業所得が50万円の赤字、暗号資産の雑所得が200万円の黒字
→ 事業所得の赤字50万円は暗号資産の雑所得200万円と損益通算可能。課税対象は150万円となります。
つまり、事業所得の赤字は雑所得の黒字から差し引けますが、雑所得の赤字は事業所得の黒字から差し引けないという一方通行の関係です。創業期で事業が赤字の場合は損益通算のメリットを受けられますが、逆のパターンでは恩恵がありません。
雑所得内での内部通算
なお、雑所得同士であれば内部通算は可能です。たとえば暗号資産Aで50万円の利益、暗号資産Bで30万円の損失がある場合、雑所得は差引20万円として申告できます。
03取引所の年間取引報告書の取得とDeFi・ステーキング報酬の計上
年間取引報告書の入手方法
国内の主要取引所(bitFlyer、Coincheck、GMOコイン、bitbankなど)は、毎年1月中旬から2月にかけて前年分の年間取引報告書をマイページ上で提供します。2026年分の確定申告(2027年2月16日~3月15日に申告)に備え、2027年1月以降に各取引所からダウンロードしてください。
- 取引所のマイページにログイン
- 「税務関連」「年間取引報告書」などのメニューを選択
- 対象年を「2026年」に指定してPDFまたはCSVをダウンロード
- 複数取引所を利用している場合は全取引所分を取得
DeFi・ステーキング報酬の計上タイミング
DeFiのイールドファーミングやステーキング報酬は、報酬を受け取った時点(ウォレットに着金した時点)の時価で雑所得として計上します。年末にまとめて計上するのではなく、各受取時の時価を記録しておく必要があります。
対象となる取引は多岐にわたります。
- ステーキング報酬(ETHのステーキングなど)
- レンディング利息
- エアドロップで受け取ったトークン
- 流動性提供の報酬トークン
オンチェーン取引は取引所の報告書に載らないため、EtherscanやSnowtraceなどのブロックチェーンエクスプローラーで履歴を確認し、受取時のレートを記録しておきましょう。Gtaxやクリプタクトなどの暗号資産損益計算ツールを活用すると、DeFi取引の集計が格段に楽になります。
注意:海外取引所やDeFiプロトコルを利用した取引でも、日本居住者である限り申告義務があります。また、年末時点で5,000万円超の国外財産を保有している場合は「国外財産調書」の提出も必要です。無申告は加算税・延滞税の対象となるため、必ず適正に申告してください。
04確定申告書への記載手順(第一表・第二表)
第一表の記載
- 事業所得の欄(ア):青色申告決算書または収支内訳書で算出した事業所得の金額を記入
- 雑所得の欄(ク):暗号資産・NFTの売却益やステーキング報酬など雑所得の合計額を記入
- 所得金額の合計:事業所得+雑所得+その他の所得を合算。事業所得が赤字の場合は損益通算を反映
- 所得控除:基礎控除48万円、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除(iDeCoなど)を記入
- 税額計算:課税所得に対して超過累進税率(5%~45%)を適用
第二表の記載
- 所得の内訳欄:事業所得の取引先情報に加え、暗号資産の雑所得について「種目:雑」「名称:暗号資産売却益」「収入金額」「源泉徴収税額:0円」と記入
- 取引所が複数ある場合は主要な取引所名を記載するか、「暗号資産取引」と一括記載
添付・保存すべき書類
- 各取引所の年間取引報告書(e-Taxの場合は提出不要だが5年間保存)
- 暗号資産の損益計算の明細(取得価額の算出根拠を含む)
- DeFi取引の履歴・計算根拠
- 青色申告決算書(事業所得を青色申告する場合)
05総合課税での税率シミュレーション
具体的な税負担を把握するため、簡易シミュレーションを示します。
前提条件:事業所得400万円(青色申告特別控除65万円適用後)+暗号資産の雑所得200万円。所得控除は基礎控除48万円+社会保険料控除60万円=108万円とします。
- 合計所得金額:400万円+200万円=600万円
- 課税所得金額:600万円-108万円=492万円
- 所得税額:492万円×20%-42万7,500円=55万6,500円
- 復興特別所得税:55万6,500円×2.1%=約1万1,687円
- 住民税(概算):492万円×10%=約49万2,000円
- 合計税負担(概算):約106万円
暗号資産の利益200万円がなければ課税所得は292万円(税率10%の範囲)であり、所得税は約19万5,000円。暗号資産の利益が加わることで税率のブラケットが上がり、税負担が大きく増加する点にご留意ください。
- 個人の暗号資産・NFT売却益は原則「雑所得(総合課税)」。事業所得になるのは暗号資産取引自体を事業として行っている場合に限られる
- 雑所得の赤字は事業所得と損益通算できないが、事業所得の赤字は雑所得と損益通算できる
- DeFi・ステーキング報酬は受取時の時価で雑所得として計上。取引所の年間取引報告書に載らないオンチェーン取引の記録管理が重要
- 確定申告書第一表では事業所得欄と雑所得欄にそれぞれ記入し、合算して総合課税の超過累進税率で計算する
- 暗号資産の利益が加わると税率ブラケットが上がり、想定以上の税負担になることがある。事前のシミュレーションが大切
