「SNS用にストックフォトを何枚か買ったけど、これは全部経費でいいの?」「会社紹介の動画制作を外注したら50万円かかった。一括で落とせる?」――創業期はWebサイトやSNSの整備にともない、写真・動画素材への出費が意外とかさむものです。しかし、金額や利用目的によっては一括経費ではなく資産計上が必要なケースもあります。本記事では、2026年8月現在の税務上の取り扱いを、仕訳例を交えてわかりやすく整理します。
01まず押さえたい「経費か資産か」の基本ルール
写真や動画の素材費用が経費(損金)になるか、資産計上して減価償却すべきかは、大きく次の2つの基準で判断します。
- 取得価額が10万円未満かどうか
1点(1セット)あたりの取得価額が10万円未満であれば、「少額減価償却資産」として取得した事業年度に全額を経費処理できます(法人税法施行令133条、所得税法施行令138条)。 - 使用期間が1年未満かどうか
期間限定キャンペーン用など、使用可能期間が1年未満のものも同様に全額経費にできます。
逆に言えば、1点あたりの取得価額が10万円以上で、かつ1年を超えて繰り返し使用する素材は、原則として資産計上が必要です。なお、青色申告の中小企業者・個人事業主であれば、30万円未満の資産について「少額減価償却資産の特例」を適用し、年間合計300万円まで即時経費にできます(租税特別措置法28条の2、67条の5)。
ポイント:ストックフォト1枚5,000円を20枚購入して合計10万円になった場合でも、1点あたりの取得価額は5,000円です。「合計額」ではなく「1点ごとの単価」で判断するのが原則です。ただし、複数枚をセットで初めて機能する素材パック(テンプレートセットなど)は、セット全体を1単位として判定します。
02ストックフォト・素材ライセンスの種類別の処理
サブスクリプション型(月額・年額プラン)
Adobe StockやShutterstockなどの月額・年額プランで素材をダウンロードする場合、支払い額は利用期間に対応する費用として処理します。勘定科目は「広告宣伝費」または「支払手数料」が一般的です。
- 月額3,000円のプラン → 毎月3,000円を経費計上
- 年額30,000円のプラン → 期間按分(決算をまたぐ場合は前払費用を計上)
仕訳例(年額プランを7月に購入、12月決算法人の場合):
支払時:(借方)前払費用 30,000円 /(貸方)普通預金 30,000円
決算時に6か月分を費用化:(借方)広告宣伝費 15,000円 /(貸方)前払費用 15,000円
単品購入型(ロイヤリティフリー素材)
1枚数百円~数千円のロイヤリティフリー素材を単品購入する場合は、1点あたりの金額が10万円を超えることはほぼありません。購入時に「広告宣伝費」として全額経費処理して問題ありません。
ライツマネージド(RM)素材・独占ライセンス
高品質な素材や独占使用権付きの素材は、1点あたりの取得価額が10万円以上になることがあります。この場合、使用期間が1年を超えるのであれば、無形減価償却資産として計上を検討する必要があります。
03撮影費・動画制作費の取り扱いと按分の考え方
プロカメラマンへの撮影外注費
商品撮影やプロフィール撮影をカメラマンに依頼した場合、その費用は通常「外注費」または「広告宣伝費」として処理します。撮影費用が10万円未満であれば全額経費です。
ただし、撮影費に加え、スタジオレンタル代・スタイリスト代・モデル代などが含まれる場合、それぞれの内訳を確認しましょう。一般的には、「一つの撮影プロジェクト」として合計額で1単位と判定されるケースが多いですが、明確に分離可能な費用(例:スタジオ代は場所の賃借料)は個別に処理できます。
動画制作費の判断が分かれるポイント
動画制作は特に注意が必要です。会社紹介動画やブランドムービーなど、長期間にわたって使用する映像コンテンツは、取得価額が10万円以上であれば資産計上が原則です。
税務上、自社制作の映像コンテンツは「ソフトウェアに類するもの」として無形減価償却資産に分類される場合があります。この場合の耐用年数は、利用目的に応じて次のように判断します。
- 自社利用目的のソフトウェア(社内研修動画など):耐用年数5年
- 複写して販売する原本(販売用の映像コンテンツ):耐用年数3年
一方、広告宣伝目的で制作した動画(Web CM、SNS広告用動画など)は、広告としての効果が比較的短期間で薄れるため、「繰延資産」の開業費や広告宣伝費として処理できる余地もあります。税務署との見解が分かれやすい領域ですので、金額が大きい場合は税理士に相談されることをおすすめします。
仕訳例(会社紹介動画を80万円で外注制作、耐用年数5年で償却する場合):
制作完了・納品時:(借方)ソフトウェア 800,000円 /(貸方)普通預金 800,000円
決算時の減価償却:(借方)減価償却費 160,000円 /(貸方)ソフトウェア 160,000円
※定額法で計算した場合(800,000円 ÷ 5年 = 160,000円/年)
注意:青色申告の中小企業者・個人事業主であれば、取得価額30万円未満の動画制作費は少額減価償却資産の特例により即時償却が可能です。ただし、年間の合計取得価額が300万円を超える部分は適用できません。創業期は開業費やPC購入なども重なりやすいため、年間枠の残りを確認してから判断しましょう。
04無形減価償却資産として計上すべきケースの具体例
以下のようなケースでは、取得価額が10万円以上(中小企業者の特例を使わない場合)であれば、資産計上して減価償却を行います。
- 会社紹介動画・ブランドムービーの制作費(50万円~数百万円規模)
- ECサイト用の大量商品撮影をパッケージで外注(合計20万円以上で、1プロジェクト1セットと判定される場合)
- 独占ライセンス付きの写真素材(1点10万円以上)
- オリジナルのイラスト・キャラクターデザインの制作費(著作権の取得を伴うもの)
なお、著作権そのものを取得する場合の耐用年数は、税務上は原則として「無形減価償却資産――その他」に該当し、耐用年数省令別表第三により判定します。
05勘定科目の選び方まとめ
実務では以下の勘定科目を使い分けると、帳簿が整理しやすくなります。
- 広告宣伝費:SNS投稿用・Webサイト掲載用のストックフォト購入費(少額)、広告用動画の制作費(10万円未満)
- 外注費:カメラマンやデザイナーへの撮影・編集の業務委託費
- 支払手数料:ストックフォトのサブスクリプション利用料
- ソフトウェア(無形固定資産):10万円以上の動画制作費、独占ライセンス素材
- 消耗品費:自社撮影用の小物・背景紙など(10万円未満の物品)
勘定科目自体は法律で厳密に決まっているわけではありませんが、同じ種類の支出は同じ科目に統一することが大切です。一度決めたら、期中で変更しないようにしましょう。
- 1点あたりの取得価額が10万円未満、または使用期間が1年未満の写真・動画素材は、全額を経費(広告宣伝費・外注費など)として処理できる
- 青色申告の中小企業者・個人事業主は、30万円未満の素材・制作費について少額減価償却資産の特例で即時経費化が可能(年間合計300万円まで)
- 会社紹介動画やブランドムービーなど、10万円以上かつ長期利用する映像コンテンツは、無形減価償却資産(ソフトウェア等)として計上し、耐用年数3年または5年で減価償却する
- ストックフォトのサブスクリプション料金は利用期間に応じて費用化し、決算をまたぐ場合は前払費用を計上する
- 金額が大きい動画制作費や著作権の取得をともなう案件は、経費と資産の判断が分かれやすいため、早めに税理士に相談するのがおすすめ
