「去年の確定申告で計上した減価償却費と、今年の計算が合わない――」創業2年目以降のスタートアップ経営者や個人事業主の方から、こうしたご相談をいただくことが増えています。原因の多くは、減価償却の方法を正しく理解しないまま申告してしまったこと。届出の有無や個人・法人の違いで適用されるルールは異なり、選び方ひとつで年間の税額に数万円以上の差が生じることもあります。本記事では、定額法と定率法の基本から計算シミュレーション、届出書の提出期限、少額資産の特例まで、2026年度の確定申告に向けて押さえておきたいポイントを網羅的に解説します。
01定額法と定率法――まず違いを正確に押さえよう
定額法とは
定額法は、取得価額から残存価額を差し引いた金額を、耐用年数にわたり毎年均等に費用化する方法です。計算がシンプルで、毎期の減価償却費が一定になるため、損益計画を立てやすいのが特長です。
定率法とは
定率法は、期首の未償却残高(帳簿価額)に一定の償却率を掛けて計算する方法です。取得初期に多額の費用を計上でき、年が経つほど費用は逓減していきます。創業期に利益が出やすいビジネスでは、早期に節税効果を得やすい手法です。
ポイント:個人事業主が届出を出さなかった場合の法定償却方法は「定額法」、法人(2012年4月1日以後取得の建物以外の有形減価償却資産)が届出を出さなかった場合は「定率法」です。つまり届出の有無によって、知らないうちに意図しない方法で申告してしまうリスクがあります。
02計算シミュレーション――40万円のPCを例に税額差を比較
ここでは、2025年(令和7年)1月に購入した40万円のノートPC(耐用年数4年)を例に、定額法と定率法の減価償却費を比較します。
前提条件
- 取得価額:400,000円
- 耐用年数:4年
- 定額法の償却率:0.250
- 定率法の償却率:0.500(改定償却率0.500、保証率0.12499)
- 事業専用割合:100%
定額法の場合(毎年同額)
- 1年目~4年目:各100,000円(400,000円 × 0.250)
- ただし最終年は備忘価額1円を残すため、4年目は99,999円
定率法の場合(初年度に大きく計上)
- 1年目:200,000円(400,000円 × 0.500)
- 2年目:100,000円(200,000円 × 0.500)
- 3年目:50,000円(100,000円 × 0.500)→ 償却保証額49,996円(400,000円 × 0.12499)を上回るためそのまま計上
- 4年目:49,999円(残額50,000円 − 備忘価額1円)
税額への影響
所得税率20%(復興特別所得税を含まない概算)の個人事業主を想定すると、1年目の減価償却費の差額は100,000円です。これにより1年目だけで約20,000円の税額差が生まれます。住民税(約10%)を含めると、約30,000円の差です。PC1台でこの差額ですから、設備投資が重なる創業期には、方法の選択が資金繰りに直結します。
03届出書の提出期限を見落とさない
個人事業主の場合
定率法を選択したい個人事業主は、「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」を、その年の確定申告期限(翌年3月15日)までに所轄税務署へ提出する必要があります。新たに事業を開始した場合も同様に、開業した年の確定申告期限が届出期限です。届出を出さなければ自動的に定額法が適用されます。
法人の場合
法人が定額法を選択したい場合は、「減価償却資産の償却方法の届出書」を、設立第1期の確定申告書の提出期限までに提出します。届出がなければ、建物・建物附属設備・構築物・無形固定資産等を除く有形減価償却資産については定率法が法定償却方法となります。
注意:一度届け出た償却方法を変更するには「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」を、変更しようとする事業年度開始の日の前日までに提出し、税務署長の承認を受ける必要があります。変更は「正当な理由」が求められ、単なる節税目的では認められにくい点にご注意ください。
04少額資産の特例も賢く使い分ける
10万円未満の少額減価償却資産
取得価額が10万円未満の資産は、全額をその年の経費として一括計上できます。個人・法人を問わず利用でき、届出も不要です。
一括償却資産(20万円未満)
取得価額が10万円以上20万円未満の資産は、3年間で均等に償却する「一括償却資産」の特例を選択できます。耐用年数に関係なく3年で償却でき、償却資産税の対象外になるメリットもあります。
中小企業者の少額減価償却資産の特例(30万円未満)
青色申告を行う中小企業者・個人事業主は、取得価額30万円未満の資産を全額即時償却できます。ただし年間の合計額は300万円が上限です。この特例は適用期限が設けられており、2026年4月時点では令和8年(2026年)3月31日までの取得分が対象です。延長の有無は最新の税制改正情報を確認してください。
たとえば25万円のPCを購入した場合、通常の減価償却(定額法・4年)では1年目の経費は62,500円ですが、この特例を使えば25万円全額を初年度に経費計上できます。税率20%+住民税10%なら、初年度の節税効果は約56,250円の差になります。
052回目以降の確定申告で「計算が合わない」を防ぐチェックリスト
創業2年目以降にありがちなミスを防ぐためのポイントを整理します。
- 前年の申告控え・固定資産台帳を必ず確認する:期首帳簿価額が前年末の未償却残高と一致しているか照合します。
- 届出した償却方法を再確認する:届出を出していなければ法定償却方法(個人=定額法、法人=原則定率法)が適用されます。意図しない方法で前年を申告していた場合、修正申告が必要になることもあります。
- 年の途中で取得した資産は月割計算を忘れない:個人事業主の場合、事業の用に供した月から12月までの月数で按分します。法人は事業年度の月数で按分します。
- 事業専用割合の変動に注意する:自宅兼事務所で使用するPCの事業使用割合が変わった場合、償却費の按分も変わります。
- 少額特例の適用要件を毎年確認する:特例の適用期限切れや年間上限額の超過がないか確認しましょう。
06個人と法人で異なる「デフォルト」を意識した選択を
最後に、定額法・定率法の選択指針をまとめます。
創業期で利益が出ており、早期に費用を大きく計上したい場合は定率法が有利に働きます。一方、毎年安定した利益を見込み、損益のブレを抑えたい場合は定額法が適しています。ただし個人事業主はデフォルトが定額法、法人はデフォルトが定率法(建物等を除く)という違いがあるため、「届出を出す必要があるかどうか」を最初に確認することが重要です。
また、30万円未満の資産が多い創業期は、少額減価償却資産の特例を最大限活用するほうが、定額法・定率法の選択以上にインパクトが大きいケースもあります。資産ごとに最適な処理を選ぶことが、正しい節税への第一歩です。
- 定額法は毎年均等に、定率法は初期に大きく費用計上できる方法。40万円のPCでも1年目に約3万円の税額差が生じうる。
- 個人事業主のデフォルトは定額法、法人(建物等を除く)のデフォルトは定率法。届出の有無で適用方法が変わるため要確認。
- 届出書の提出期限は確定申告期限と連動。変更には税務署長の承認が必要で、安易な変更は認められにくい。
- 30万円未満の少額減価償却資産の特例は、創業期の節税に特に有効。適用期限と年間上限額に注意。
- 2回目以降の申告では、前年の固定資産台帳との照合・月割計算・事業専用割合の確認が必須。
