「初めて従業員を雇ったけれど、年末調整って何から手をつければいいの?」——創業期の経営者からよくいただくご相談です。従業員が1〜3人の小規模事業者であれば、税理士に丸投げしなくても自力で対応することは十分に可能です。ただし、手順を間違えると源泉所得税の過不足額の精算ミスや、法定調書の提出漏れによるペナルティにつながることもあります。本記事では、2026年(令和8年)の年末調整を見据え、月別の準備スケジュールと実務チェックリストをまとめました。

01そもそも年末調整とは?——創業期に知っておくべき基本

年末調整とは、毎月の給与から天引き(源泉徴収)してきた所得税の合計額と、その年の給与総額に基づいて計算した正しい税額との差額を精算する手続きです。会社(または個人事業主)が従業員に代わって行い、多くの場合は12月最後の給与支給時に過不足額を調整します。

年末調整の対象になる人・ならない人

  • 対象になる人:その年の最後まで在籍し、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員
  • 対象にならない人:年間の給与収入が2,000万円を超える人、年の途中で退職して再就職していない人(一定の例外あり)、日雇い労働者など

従業員が1〜3人であっても、パート・アルバイトを含め、扶養控除等申告書を提出していれば年末調整が必要です。「少人数だからやらなくていい」ということはありません。

02月別準備スケジュール——2026年版

年末調整は12月に一気にやるイメージがありますが、実際には秋口から準備を始めることでミスを大幅に減らせます。以下は従業員3人以下を想定した、2026年(令和8年)のスケジュールです。

9月〜10月:情報収集と書類の入手

  1. 国税庁のウェブサイトで最新の「年末調整のしかた」冊子(令和8年分)を確認する
  2. 各種申告書の様式(扶養控除等申告書、基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書、保険料控除申告書など)をダウンロードまたは入手する
  3. 従業員に「生命保険料や地震保険料の控除証明書が届き始める時期なので、捨てずに保管してください」と声をかける

11月上旬〜中旬:申告書の配布と回収

  1. 従業員へ各種申告書を配布し、記入・提出を依頼する(回収期限は11月下旬を目安に設定)
  2. 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の適用がある従業員には、税務署発行の「住宅借入金等特別控除申告書」と金融機関の「残高証明書」の提出も依頼する
  3. 前職がある中途入社の従業員には、前職の源泉徴収票を回収する

12月上旬〜中旬:計算と精算

  1. 回収した申告書と控除証明書の内容を確認し、不備があれば従業員に差し戻す
  2. その年の給与総額・賞与総額を確定させ、年税額を計算する
  3. 毎月の源泉徴収税額の合計と年税額を比較し、過不足額を算出する
  4. 12月(または1月)の給与で過不足額を精算する

翌年1月:法定調書の作成・提出

  1. 従業員へ「令和8年分 給与所得の源泉徴収票」を交付する(2027年1月31日まで)
  2. 税務署へ「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」を提出する(同じく1月31日まで)
  3. 市区町村へ「給与支払報告書」を提出する(同じく1月31日まで)

ポイント:従業員が常時10人未満の事業者は、「源泉所得税の納期の特例」の届出を出すことで、源泉所得税の納付を年2回(7月と翌年1月)にまとめることができます。この特例を適用している場合、年末調整で精算した後の税額は翌年1月20日までに納付します。創業期の少人数事業者はこの特例を利用しているケースが多いので、自社の届出状況を確認しておきましょう。

03実務チェックリスト——抜け漏れゼロで乗り切る

以下のチェックリストを印刷またはスプレッドシートにコピーして活用してください。従業員ごとにチェックを入れていけば、抜け漏れを防げます。

書類回収チェック

  • 扶養控除等(異動)申告書の回収(全従業員必須)
  • 基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書の回収
  • 保険料控除申告書+控除証明書の回収
  • 住宅ローン控除申告書+残高証明書の回収(該当者のみ)
  • 中途入社者の前職源泉徴収票の回収

計算・精算チェック

  • 年間の給与・賞与の総支給額の集計が正しいか
  • 社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料)の年間控除額の集計が正しいか
  • 各種所得控除(基礎控除・配偶者控除・扶養控除・保険料控除など)の適用判定と金額が正しいか
  • 算出された年税額と源泉徴収税額の累計との差額が正しいか
  • 過不足額を12月給与(または1月給与)で正しく精算したか

書類作成・提出チェック

  • 源泉徴収票を従業員へ交付したか
  • 法定調書合計表を税務署へ提出したか(期限:翌年1月31日)
  • 給与支払報告書を各従業員の住所地の市区町村へ提出したか(期限:翌年1月31日)
  • 源泉所得税の納付を行ったか(納期の特例適用の場合は翌年1月20日期限)

注意:法定調書合計表や給与支払報告書の提出期限(翌年1月31日)を過ぎると、税務署や市区町村から問い合わせが来たり、住民税の計算に影響が出たりします。また、源泉所得税の納付が遅れると不納付加算税(原則10%、自主的に納付した場合は5%)と延滞税が課される可能性があります。期限管理は厳格に行いましょう。

04少人数だからこそ気をつけたい3つの落とし穴

1. 経営者自身の年末調整を忘れる

法人の場合、代表取締役も「役員報酬」という形で給与を受け取っているため、年末調整の対象になります。自分自身の分を忘れてしまうケースは意外と多いので注意してください。なお、個人事業主本人は年末調整の対象外であり、確定申告で対応します。

2. 扶養控除等申告書の回収漏れ

扶養控除等申告書は、扶養親族がいない独身の従業員でも提出が必要です。この書類が未提出だと「乙欄」適用となり、源泉徴収税額が高くなるうえ、年末調整の対象から外れてしまいます。入社時に回収する運用を徹底しましょう。

3. 前職の源泉徴収票が届かない

中途入社の従業員について、前職の会社から源泉徴収票が届かないことがあります。この場合、年末調整で前職分を合算できず、従業員本人が確定申告をする必要が出てきます。早めに従業員へ前職への催促を促すことが重要です。

05無料で使えるツールと情報源

少人数の年末調整であれば、以下のツール・情報源を活用することで自力対応のハードルがぐっと下がります。

  • 国税庁「年末調整のしかた」:毎年秋に公開される冊子で、計算手順が網羅されています
  • 国税庁「年末調整計算シート(Excel)」:給与総額や控除額を入力すれば自動計算してくれます
  • e-Tax(電子申告):法定調書合計表の電子提出が可能で、郵送の手間が省けます
  • eLTAX(地方税ポータル):給与支払報告書の電子提出が可能です

クラウド給与計算ソフト(freee人事労務、マネーフォワードクラウド給与など)を導入していれば、年末調整の計算から源泉徴収票の作成まで自動化できるため、従業員1〜3人規模でも十分に投資対効果があります。

この記事のまとめ
  • 年末調整は従業員が1人でも必要。「少人数だから不要」ではない
  • 9〜10月に書類準備、11月に申告書回収、12月に計算・精算、翌年1月に法定調書提出というスケジュールで進める
  • 扶養控除等申告書は扶養親族がいなくても全従業員から回収が必須
  • 法人の代表取締役自身の年末調整も忘れずに行う
  • 法定調書合計表・給与支払報告書の提出期限は翌年1月31日、源泉所得税の納付遅れには不納付加算税・延滞税のリスクがある
  • 国税庁の無料ツールやクラウド給与ソフトを活用すれば、少人数なら自力対応は十分可能