「前年は順調に利益が出て確定申告を乗り越えたのに、今年に入って売上が急減。それなのに、前年実績ベースの予定納税の通知が届いてしまった——」。創業期のスタートアップや個人事業主にとって、こうした資金繰りの二重苦は珍しくありません。本記事では、予定納税の減額承認申請と欠損金の繰戻し還付という二つの制度を時系列で組み合わせ、手元資金を最大限守る実務フローを解説します。

01前年黒字→当期赤字で起こる「二重の資金流出」とは

所得税の予定納税は、前年の申告納税額が15万円以上の場合に発生します。具体的には、前年の所得税額をもとに計算された「予定納税基準額」の3分の1ずつを、7月(第1期)と11月(第2期)に前払いする仕組みです。

法人の場合も同様に、前事業年度の法人税額が20万円を超えると中間申告が必要となり、前年実績の2分の1を納付します。

ここで問題になるのが、当期の業績が悪化して赤字に転落しているケースです。手元資金が減っているにもかかわらず、前年の好業績を基準とした税金を先払いしなければならず、さらに年度末の確定申告まで還付を待つことになります。創業2〜3年目のキャッシュが薄い時期には、この数か月のタイムラグが致命傷になりかねません。

02制度の全体像——減額申請と繰戻し還付を正しく理解する

予定納税の減額承認申請とは

その年の6月30日時点の業績見込みで、年間の所得税額が予定納税基準額を下回ると見込まれる場合に、所轄税務署長に対して予定納税額の減額を申請できる制度です(所得税法第111条)。承認されれば、第1期・第2期の予定納税額を減額でき、不要な資金流出を防げます。

欠損金の繰戻し還付とは

青色申告を行っている場合、当期に生じた欠損金(赤字)を前年の黒字と相殺し、前年に納付済みの税金の一部を還付請求できる制度です(所得税法第140条、法人税法第80条)。個人・法人いずれも利用可能ですが、法人については資本金1億円以下の中小法人等に限定されています。

ポイント:減額申請は「これから払う税金を減らす」制度、繰戻し還付は「すでに払った税金を取り戻す」制度です。この二つを組み合わせることで、年間を通じたキャッシュアウトを最小化できます。

03時系列で見る実務スケジュール——2026年の個人事業主を例に

以下では、2025年分の確定申告で所得税30万円を納付した個人事業主が、2026年に入って業績が悪化し赤字に転落するケースを想定します。予定納税基準額は30万円、第1期・第2期それぞれ10万円ずつの予定納税が発生する前提です。

ステップ1:6月15日頃——予定納税の通知書が届く

税務署から「予定納税額の通知書」が届きます。第1期分(7月末納付期限)として10万円が記載されています。ここで、当期の業績見込みを確認しましょう。

ステップ2:7月1日〜7月15日——第1期分の減額承認申請

6月30日時点の現況で年間所得を見積もり、予定納税基準額を下回ると判断できれば「予定納税額の減額承認申請書」を7月15日までに提出します。必要書類は以下のとおりです。

  • 予定納税額の減額承認申請書(税務署備え付け・e-Taxでも提出可)
  • 申告納税見積額の計算の基礎となる事実を記載した書類(損益計算書の写しなど)

申請が承認されれば、第1期の予定納税額が減額(場合によってはゼロ)となり、7月末の資金流出を防げます。

ステップ3:11月1日〜11月15日——第2期分の減額承認申請

10月31日時点の現況で、改めて第2期分の減額承認申請が可能です。申請期限は11月15日です。第1期の申請を行っていなかった場合や、第1期後にさらに業績が悪化した場合にも活用できます。

ステップ4:翌年2月16日〜3月15日——確定申告と繰戻し還付請求

2026年分の確定申告で赤字(純損失)が確定したら、確定申告書と同時に「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を提出します。これにより、2025年分で納付した所得税のうち、2026年分の赤字に対応する部分が還付されます。

たとえば、2025年の課税所得が300万円(所得税30万円)で、2026年の純損失が150万円の場合、計算式は次のとおりです。

還付金額 = 前年の所得税額 × (純損失の金額 ÷ 前年の課税所得金額)
= 30万円 ×(150万円 ÷ 300万円)= 15万円

注意:繰戻し還付を請求すると、税務署による調査(いわゆる「還付のための調査」)が行われることがあります。帳簿書類を整備し、赤字の根拠を明確に説明できる状態にしておくことが重要です。また、繰戻し還付は青色申告であることが前提条件ですので、青色申告承認申請書の提出漏れがないか事前に確認してください。

04法人の場合の留意点

法人(資本金1億円以下の中小法人等)の場合も、基本的な考え方は同じです。ただし、以下の点が異なります。

  • 中間申告の期限は事業年度開始から6か月を経過した日から2か月以内。3月決算法人であれば11月末が期限です。
  • 中間申告では「仮決算による中間申告」を選択でき、実績ベースで税額を計算して納付額を抑えることが可能です(個人の減額申請に相当)。
  • 繰戻し還付の請求は、確定申告書の提出期限までに「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出します。
  • 繰戻し還付の対象は前1年以内に開始した事業年度に限られます。

05組み合わせによるキャッシュフロー効果を数字で確認

先ほどの個人事業主の例で、何も対策しなかった場合と、二つの制度を組み合わせた場合のキャッシュフロー差を比較します。

対策なしの場合

  1. 7月:予定納税第1期 ▲10万円
  2. 11月:予定納税第2期 ▲10万円
  3. 翌年3月:確定申告で還付 +20万円(赤字のため年税額ゼロ、予定納税分が全額還付)

この場合、7月から翌年3〜4月の還付入金まで約8〜9か月間、最大20万円の資金が拘束されます。

対策ありの場合

  1. 7月:減額申請で予定納税ゼロ → 資金流出なし
  2. 11月:減額申請で予定納税ゼロ → 資金流出なし
  3. 翌年3月:繰戻し還付請求 → 前年納付済の所得税から15万円が還付

予定納税による20万円の資金拘束を回避したうえで、さらに前年の納付済税額から15万円のキャッシュインを得られます。合計で35万円分のキャッシュフロー改善効果となります。

06手続きの失敗を防ぐ3つのチェックポイント

  • 申請期限の厳守:減額申請は第1期分が7月15日、第2期分が11月15日と期限が厳格です。1日でも遅れると受け付けられません。
  • 青色申告の要件確認:繰戻し還付は青色申告者に限定されます。創業初年度に青色申告承認申請書を提出していない場合は利用できません。
  • 繰戻し還付と繰越控除の選択:繰戻し還付を利用した欠損金は、翌年以降の繰越控除には使えません。今後の事業見通しと合わせて、どちらが有利か検討が必要です。
この記事のまとめ
  • 前年黒字・当期赤字の場合、予定納税の減額申請で「これから払う税金」を減らし、繰戻し還付で「すでに払った税金」を取り戻す二段構えが有効
  • 個人の減額申請期限は第1期分7月15日・第2期分11月15日。法人は仮決算による中間申告で対応可能
  • 繰戻し還付は青色申告が前提条件。繰越控除との選択は将来の業績見込みとあわせて判断する
  • 二つの制度の組み合わせにより、数十万円規模のキャッシュフロー改善効果が期待できる
  • 期限管理と帳簿整備を徹底し、税務調査にも対応できる準備を整えておくことが重要