「創業したばかりで、売上の大半が1〜2社の取引先に集中している」──これは多くのスタートアップ経営者や個人事業主が経験する状況です。目の前の売上を確保するのに精一杯で、取引先の分散まで手が回らない。しかし、この偏りは事業継続のリスクであると同時に、金融機関の融資審査でもしっかりチェックされるポイントです。本記事では、売上構成比の偏りを数値で把握する方法、融資面談での説明の仕方、そして現実的に取引先を増やしていくアクションプランを解説します。
01なぜ売上の偏りが問題になるのか
経営リスクとしての側面
売上の50%以上を特定の1社に依存している場合、その取引先が倒産したり、契約を打ち切ったりした瞬間に、自社の売上は一気に半減します。創業期は手元資金も限られているため、売上の急減は即座に資金ショートにつながりかねません。
実際に、創業2年目のあるWeb制作会社では、売上の約70%を占めていた元請企業が内製化に方針転換したことで、わずか3か月で月商が100万円から30万円に落ち込んだというケースがあります。こうした事態は業種を問わず起こり得ます。
融資審査での評価への影響
金融機関は融資審査において「返済能力の安定性」を重視します。売上が少数の取引先に集中している企業は、取引先の動向次第で売上が大きく変動する可能性があるため、返済の確実性に疑問符がつきやすくなります。
日本政策金融公庫や信用保証協会を利用した融資でも、決算書や試算表の提出時に「主要取引先別の売上内訳」を求められることがあります。ここで上位1社の構成比が50%を超えていると、審査担当者から追加の説明を求められるケースが少なくありません。
ポイント:融資審査では、売上の安定性を「取引先の分散度合い」から判断することがあります。一般的に、上位1社の売上構成比が30%以下に収まっていると、リスク分散ができている企業として評価されやすい傾向があります。
02自社の売上構成比を数値で把握する方法
まずは現状を正確に把握することが出発点です。以下の手順で、自社の売上構成比を見える化しましょう。
- 取引先別の売上を集計する:会計ソフトの補助科目や得意先別集計機能を使い、直近12か月の取引先別売上を一覧にします。
- 構成比を算出する:各取引先の売上額を総売上で割り、パーセンテージを出します。
- 上位集中度を確認する:上位1社、上位3社の合計構成比をそれぞれ算出します。
チェックすべき数値の目安
- 上位1社の構成比が50%以上:高リスク。早急に分散を検討すべき水準
- 上位1社の構成比が30〜50%:注意ゾーン。新規開拓を意識的に進める段階
- 上位1社の構成比が30%未満:比較的分散できている状態
- 上位3社の合計が80%以上:少数依存の状態。取引先の幅を広げる余地がある
2026年6月時点で使われている主要なクラウド会計ソフト(freee、マネーフォワードクラウド、弥生会計オンラインなど)には、得意先別の売上レポートを出力する機能が備わっています。まずは月次で確認する習慣をつけましょう。
03融資面談で売上の偏りを指摘されたときの対応法
融資面談で「売上が特定の取引先に偏っていますが、大丈夫ですか」と聞かれた場合、ただ「大丈夫です」と答えるだけでは不十分です。以下の3つの観点から説明を準備しておきましょう。
1. 偏りの理由を論理的に説明する
創業期に売上が集中するのには理由があります。たとえば「創業前からの人脈で最初の大口案件を受注できた」「業界特性として案件単価が大きく、少数の取引先で売上が構成される」といった背景を、事実に基づいて説明できるようにしておきます。
2. リスクへの認識と対策を示す
審査担当者が知りたいのは「この経営者はリスクを把握しているか」「対策を講じているか」という点です。具体的には、次のような情報を用意します。
- 取引先との契約期間や契約更新の見通し
- 新規取引先の開拓状況(商談中の案件数、見込み時期など)
- 売上が減少した場合に備えた固定費の見直し計画
3. 数字で改善計画を示す
「来期末までに上位1社の構成比を現在の60%から40%以下にする計画です」というように、具体的な数値目標とスケジュールを提示できると、審査担当者の安心感は大きく変わります。事業計画書に取引先別の売上見通しを盛り込んでおくと効果的です。
注意:融資面談で「取引先を増やす予定です」と口頭で伝えるだけでは説得力に欠けます。必ず書面(事業計画書や資金繰り表)に落とし込み、具体的な行動計画として提示しましょう。計画に裏付けがあるかどうかで、審査担当者の評価は大きく異なります。
04現実的に取引先を分散させる5つのアクションプラン
「取引先を増やしましょう」と言うのは簡単ですが、創業期はリソースが限られています。以下の5つのステップは、本業を圧迫せずに段階的に取引先を分散させるための現実的なアクションプランです。
- 既存顧客からの紹介を仕組み化する:満足度の高い既存顧客に、同業種・関連業種の知人を紹介してもらう仕組みを作ります。紹介カードの作成や、納品時に「お知り合いでお困りの方はいませんか」と一言添えるだけでも効果があります。
- 小口案件を意図的に受ける:大口案件だけを追うのではなく、月額5万〜10万円程度の小口案件を複数持つことで、売上の安定性が増します。単価は低くても、取引先数が増えることで融資審査上の評価は改善します。
- 異なる業種・チャネルにアプローチする:同一業種の取引先ばかりだと、業界全体の不況時に連鎖的に売上が落ちるリスクがあります。可能な範囲で異業種への提案を検討しましょう。
- 自社サービス・商品のラインナップを増やす:既存サービスの派生商品や、低価格帯のエントリーサービスを用意することで、新しい顧客層にリーチしやすくなります。
- 四半期ごとに構成比を見直す:アクションプランは立てて終わりではありません。3か月ごとに取引先別の売上構成比を確認し、計画どおりに分散が進んでいるかをチェックします。
05売上構成比の改善は「経営の質」を高める
売上構成比の分散に取り組むことは、融資審査対策という側面だけでなく、経営の質そのものを高めることにつながります。取引先が増えれば、業界の情報が多角的に入ってきますし、特定の取引先との力関係に縛られにくくなり、価格交渉力も向上します。
創業期は目の前の売上を追うことに集中しがちですが、2026年度の事業計画を立てるこのタイミングで、一度立ち止まって自社の売上構成比を確認してみてください。現状を数字で把握し、改善計画を立てることが、安定した事業成長への第一歩です。
- 売上が特定の1〜2社に集中している状態は、経営リスクだけでなく金融機関の融資審査でもマイナス評価につながる
- 上位1社の売上構成比は30%以下が理想的な目安。まずは会計ソフトで現状を数値化する
- 融資面談では偏りの理由・リスク認識・具体的な改善計画の3点をセットで説明する
- 紹介の仕組み化、小口案件の獲得、異業種へのアプローチなど、段階的に取引先を分散させる
- 四半期ごとに構成比を見直し、計画どおりに改善が進んでいるかを確認する習慣をつける
