「7月に届いた算定基礎届の決定通知書を見たら、標準報酬月額が上がっていた……。これって9月以降の人件費にどれくらい影響するのだろう?」——創業1〜2年目の小規模法人にとって、社会保険料の変動は資金繰りを直撃する大きな問題です。しかし、具体的にいくら増えるのか、下半期全体でどう計画に反映すればよいのか、計算方法がわからないまま放置してしまう経営者も少なくありません。本記事では、2026年7月の算定基礎届の結果を踏まえ、9月から翌2027年3月までの人件費総額を正確にシミュレーションする手順を、具体的な数字を交えながら解説します。
01算定基礎届とは?——なぜ9月から社会保険料が変わるのか
算定基礎届(定時決定)とは、毎年7月に届け出る社会保険の手続きで、4月・5月・6月に支払った報酬の平均額をもとに「標準報酬月額」を改定する仕組みです。この届出結果に基づき、原則として9月分の社会保険料から新しい標準報酬月額が適用されます(実際の控除は10月支給の給与から、という会社が多いです)。
標準報酬月額が変わるとどうなる?
健康保険料・厚生年金保険料は「標準報酬月額 × 保険料率」で計算されます。標準報酬月額が1等級上がるだけでも、会社負担・本人負担の合計で月額数千円〜1万円以上の差が出ることがあります。創業期の少人数法人であっても、役員と従業員を合わせた下半期7か月分のインパクトは無視できません。
ポイント:2026年度の算定基礎届は2026年7月1日〜10日に届出を行い、8月頃に「標準報酬決定通知書」が届きます。届いた通知書をもとに9月分(多くの法人では10月給与から控除)の保険料を再計算しましょう。届出前でも4〜6月の報酬額がわかっていれば、おおよその標準報酬月額は予測できます。
02シミュレーションの前提条件を整理する
まず、再計算に必要な情報を整理しましょう。以下の項目を手元に用意してください。
- 新しい標準報酬月額(決定通知書で確認、または4〜6月報酬から仮算出)
- 適用される保険料率(協会けんぽの場合は都道府県別の健康保険料率+厚生年金保険料率18.300%)
- 役員報酬・従業員給与の月額(期中の変更予定があれば反映)
- 賞与支給の予定額と時期(賞与にかかる社会保険料も計算に含める)
- 雇用保険料率・労災保険料率(従業員がいる場合)
モデルケースの設定
ここでは、2025年4月に法人を設立した創業2年目の小規模法人を想定します。
- 代表取締役A:役員報酬 月額40万円
- 従業員B:月給25万円(通勤手当1万円含む)
- 所在地:東京都(2026年度の協会けんぽ健康保険料率 9.98%と仮定)
- 厚生年金保険料率:18.300%
- 賞与:従業員Bに12月支給で30万円を予定
Aの4〜6月報酬は毎月40万円なので標準報酬月額は41万円(変動なしと仮定)。Bは4月に昇給があり、4〜6月の平均報酬が26万円となった結果、標準報酬月額が24万円から26万円に改定されたとします。
039月〜3月の社会保険料を再計算する——具体的な手順
ステップ1:月額社会保険料の計算
標準報酬月額に保険料率を掛け、会社負担分(折半)を算出します。
代表取締役A(標準報酬月額41万円)
- 健康保険料(会社負担):410,000 × 9.98% × 1/2 = 20,459円
- 厚生年金保険料(会社負担):410,000 × 18.300% × 1/2 = 37,515円
- 会社負担合計:月額 57,974円
従業員B(標準報酬月額 24万円 → 26万円に改定)
- 改定前・会社負担合計:240,000 ×(9.98% + 18.300%)× 1/2 = 33,936円
- 改定後・会社負担合計:260,000 ×(9.98% + 18.300%)× 1/2 = 36,764円
- 月額差額:+2,828円
Bの改定により、9月〜翌3月の7か月間で会社負担だけでも約19,796円(2,828円 × 7か月)の増加となります。小さな金額に見えるかもしれませんが、従業員が3人、5人と増えれば影響は倍増します。
ステップ2:賞与にかかる社会保険料の計算
賞与には「標準賞与額」に対して同じ保険料率が適用されます(標準賞与額は千円未満切捨て)。
- 従業員B・12月賞与30万円の場合
- 健康保険料(会社負担):300,000 × 9.98% × 1/2 = 14,970円
- 厚生年金保険料(会社負担):300,000 × 18.300% × 1/2 = 27,450円
- 賞与に伴う会社負担合計:42,420円
ステップ3:下半期の人件費総額を一覧化する
9月〜翌3月(7か月間)の人件費を表形式で整理すると、全体像が見えてきます。
代表取締役A(7か月分)
- 役員報酬総額:400,000 × 7 = 2,800,000円
- 社会保険料(会社負担):57,974 × 7 = 405,818円
- 小計:3,205,818円
従業員B(7か月分+賞与)
- 給与総額:250,000 × 7 = 1,750,000円
- 社会保険料(会社負担・改定後):36,764 × 7 = 257,348円
- 賞与:300,000円
- 賞与にかかる社会保険料(会社負担):42,420円
- 雇用保険料(会社負担 0.95%と仮定):(1,750,000 + 300,000)× 0.95% = 19,475円
- 小計:2,369,243円
下半期人件費総コスト(会社負担の合計):約5,575,061円
これを月平均に直すと約79.6万円です。売上予測と見比べたとき「思ったより重い」と感じたら、早めに対策を検討する必要があります。
04シミュレーション結果を踏まえた見直し判断ポイント
役員報酬の見直しは慎重に
役員報酬は原則として「事業年度開始から3か月以内」に決定し、期中の変更は損金不算入となるリスクがあります(定期同額給与のルール)。ただし、業績悪化改定事由に該当する場合は例外的に減額が認められることもあります。安易な変更は避け、必ず税理士に相談してください。
従業員給与・賞与の調整
- 賞与額の調整:資金繰りが厳しい場合、賞与額を見直すことで社会保険料を含めたコストを圧縮できます。ただし、従業員のモチベーションへの影響も考慮しましょう。
- 採用計画の再検討:下半期に採用を予定している場合、新規採用者分の社会保険料も上乗せして試算しておくことが重要です。
- 残業時間の管理:残業代の増加は翌年の算定基礎届にも影響します。4〜6月の残業を意識的にコントロールすることも長期的な対策になります。
注意:標準報酬月額には「随時改定(月額変更届)」という仕組みもあります。固定的賃金の変動があり、変動後3か月の平均報酬が2等級以上変わった場合は、定時決定を待たずに標準報酬月額が改定されます。昇給・降給を行った際は随時改定の該当有無も必ず確認してください。
05資金繰り計画に反映する3つのコツ
- 月次キャッシュフロー表に社会保険料の改定を即反映する:9月分からの変動を10月支給分(翌月徴収の場合)として織り込み、口座残高の推移を更新しましょう。
- 社会保険料の納付スケジュールを把握する:社会保険料は翌月末日が納付期限です。資金がタイトな月に大きな支出が重ならないよう、賞与月の前後は特に注意してください。
- 年間の人件費予算をスプレッドシートで管理する:上半期の実績と下半期のシミュレーション結果を一つの表にまとめておくと、融資の相談や事業計画の更新にもすぐ活用できます。
- 算定基礎届の結果により、9月分から標準報酬月額が改定され社会保険料が変動する。決定通知書が届いたら速やかに下半期の人件費を再計算すること。
- 社会保険料の再計算は「月額保険料 × 残り月数」+「賞与の保険料」で算出。雇用保険料も忘れずに含める。
- 役員報酬の期中変更は定期同額給与のルールに注意。見直し判断は必ず税理士と相談する。
- 再計算結果はすぐに月次キャッシュフロー表に反映し、資金ショートを防ぐ。賞与月や納付期限の集中に注意。
- 従業員の採用計画や残業管理も含め、人件費を「年間トータルコスト」で把握する習慣をつける。
