「7月に入って上半期の数字を振り返ったら、売上目標に全然届いていない――」。9月決算の創業期法人にとって、この時期の焦りは想像以上に大きいものです。しかし、決算まで残り約2か月半。やみくもに動くのではなく、売上の上積み・コスト圧縮・着地予測の3つを同時に回すことで、最終利益を最大化する道はまだ残されています。本記事では、税理士の視点から、2026年9月決算に向けて今すぐ着手すべき具体的なアクションプランを整理します。

01まず現状を数字で把握する——「あといくら足りないのか」を明確にする

リカバリーの第一歩は、感覚ではなく数字で現在地を確認することです。2026年7月17日時点であれば、10か月分(2025年10月~2026年7月)の実績はほぼ固まっています。次の3つの数字を洗い出しましょう。

  1. 売上のギャップ:年間売上目標と10か月実績の差額。残り2か月(8月・9月)で埋めるべき金額を確定させます。
  2. 粗利のギャップ:売上だけでなく粗利(売上総利益)ベースで見ること。薄利の売上を無理に積んでも資金繰りを悪化させるだけです。
  3. 固定費の残り消化額:家賃・人件費・リース料など、8月・9月に確定する固定費を積み上げ、損益分岐点売上を再計算します。

たとえば、年間売上目標3,000万円に対して10か月実績が2,200万円の場合、残り2か月で800万円が必要です。月平均220万円だった売上を一気に400万円に引き上げるのは現実的でしょうか。この「現実チェック」が、次に打つ手の優先順位を決めます。

02残り2か月半で打てる売上上積み施策

既存顧客へのアップセル・クロスセルが最速

新規開拓はリードタイムがかかります。創業期で顧客基盤が小さいからこそ、既存顧客への追加提案が最も確度の高い売上施策です。具体的には以下のようなアプローチが考えられます。

  • 納品済み案件の保守・サポート契約の提案
  • 関連サービスのセット販売(バンドル割引)
  • 年間契約への切り替えによる前受金の確保

短期回収が見込める案件に集中する

9月末までに「売上計上」できなければ今期の数字には反映されません。売上の計上基準(検収基準・役務完了基準など)を確認し、9月中に検収・納品が完了する案件だけに営業リソースを集中しましょう。受注しても納品が10月にずれ込めば翌期の売上になってしまいます。

値引きよりも「付加価値の上乗せ」

売上を取りに行くために安易な値引きをすると、粗利率が下がり、結局キャッシュが残りません。値引きの代わりに、無料のアフターサポート期間を付けるなど「原価の増えにくい付加価値」で成約率を高める工夫が有効です。

ポイント:売上を「計上」するためには、自社の会計処理上の売上計上基準を再確認することが不可欠です。出荷基準・検収基準・役務完了基準のいずれを採用しているかで、9月末の着地数字は大きく変わります。基準が曖昧な場合は、今のうちに顧問税理士と整理しておきましょう。

03コスト圧縮——変動費と「やめる判断」

変動費の見直しリスト

利益を残すもう一つのレバーは支出の削減です。特に変動費は即効性があります。以下の項目を今週中にチェックしてみてください。

  • 外注費:内製化できる作業はないか。短期的に社内工数を振り替えられるものを洗い出す。
  • 広告宣伝費:費用対効果(ROAS)の低い広告チャネルを停止し、効果の高いチャネルに予算を寄せる。
  • 交通費・交際費:オンライン商談への切り替えで削減可能な部分を見極める。
  • サブスクリプション:使っていないSaaSツールの解約。月額数千円でも年間では数万円の差になります。

固定費は「来期に向けた仕込み」として判断する

家賃や正社員の人件費は今期中に大幅に削ることは難しいのが現実です。ただし、来期の固定費を下げるためのアクション(オフィスの縮小移転の検討、業務委託への切り替え計画など)は今から着手できます。

04決算前の費用計上タイミングを最適化する

9月決算法人の場合、決算日(2026年9月30日)までに「債務が確定」した費用は今期の損金に算入できます。以下のような費用を前倒しで計上することで、課税所得を適正にコントロールできます。

  • 消耗品・備品の購入:取得価額30万円未満の減価償却資産は、中小企業者等の少額減価償却資産の特例を活用すれば全額損金算入が可能です(年間合計300万円まで)。
  • 短期前払費用の特例:翌期分の保険料やサーバー費用など、1年以内のサービスに対する前払いは、支払日に一括で損金処理できる場合があります。
  • 未払費用の計上:9月末までに役務提供を受けているが支払いが翌月になるもの(社会保険料の会社負担分など)は、未払計上で今期の費用にできます。

注意:費用の前倒し計上は節税の常套手段ですが、「必要のないものを買う」のは本末転倒です。あくまで事業に必要な支出を、計上タイミングの面で最適化するという考え方で行いましょう。また、短期前払費用の特例は継続適用が要件ですので、来期以降も同じ処理を続ける前提で判断してください。

05着地予測シミュレーションの作り方

3パターンで着地を描く

残り2か月の業績は不確実です。だからこそ「楽観」「標準」「悲観」の3シナリオで着地予測を作りましょう。

  1. 楽観シナリオ:進行中の商談がすべて受注でき、既存顧客のアップセルも成功した場合。
  2. 標準シナリオ:商談の成約率を過去の平均値で計算し、コスト削減も一部実行できた場合。
  3. 悲観シナリオ:新規受注がゼロで、既存契約の売上のみで着地した場合。

エクセルでもできるシンプルな着地予測表

複雑なツールは不要です。以下の項目を横軸に3シナリオ、縦軸に並べるだけで十分です。

  • 10か月実績売上+残り2か月の見込み売上=年間売上着地
  • 10か月実績原価+残り2か月の見込み原価=年間原価着地
  • 年間売上着地-年間原価着地=粗利着地
  • 粗利着地-販管費着地=営業利益着地
  • 営業利益着地から法人税等の概算額を差し引き=税引後利益の目安

このシミュレーションを毎週アップデートし、標準シナリオが悲観側に振れ始めたら追加施策を打つ、という判断サイクルを回すことが重要です。

06創業期だからこそ「利益」と「資金繰り」を分けて考える

最後に見落としがちなポイントを一つ。利益が出ても、手元にキャッシュがなければ事業は続きません。売掛金の回収サイトが長い場合、9月に売上を積んでも入金は11月以降になることがあります。

決算後には法人税・消費税の納付(原則として決算日から2か月以内)が控えています。2026年9月決算であれば、2026年11月末が申告・納付期限です。着地利益から概算の納税額を見積もり、納付資金を確保しておくことまでがリカバリー計画の範囲です。

利益のシミュレーションと並行して、月次の資金繰り表も必ず更新してください。売上が増えるほど運転資金が必要になるのが創業期の特徴です。

この記事のまとめ
  • 7月時点で売上未達の9月決算法人は、まず数字で「ギャップの大きさ」を正確に把握する。
  • 売上施策は新規開拓よりも既存顧客へのアップセル・クロスセルが最速。9月末までに計上できる案件かどうかを基準に優先順位をつける。
  • 変動費の見直し(外注費・広告費・サブスク)は即効性が高い。固定費は来期の削減に向けた仕込みを今から始める。
  • 少額減価償却資産の特例や短期前払費用の特例など、決算前の費用計上タイミングの最適化で課税所得を適正に調整する。
  • 楽観・標準・悲観の3シナリオで着地予測を作り、毎週アップデートする。
  • 利益だけでなく資金繰り(特に決算後の納税資金)まで見据えた計画を立てる。