「賃上げ促進税制って大企業向けの話でしょ?」「うちは従業員2〜3人の創業まもない会社だから関係ない」――そう思ってスルーしていませんか。2026年度税制改正では中小企業向けの賃上げ促進税制がさらに拡充され、創業期の小規模法人でも税額控除を受けられるケースが増えています。知らないまま確定申告を終えてしまうと、数十万円単位の節税チャンスを逃すことも。本記事では、スタートアップ経営者・小規模法人の方に向けて、適用判定の流れから具体的な計算シミュレーション、申告時の手続きまでわかりやすく解説します。
01賃上げ促進税制とは?2026年度改正のポイント
制度の概要
賃上げ促進税制(正式名称:給与等の支給額が増加した場合の税額控除)は、前年度と比べて従業員への給与支給総額を一定以上増やした企業に対し、増加額の一部を法人税(または所得税)から控除できる制度です。もともと大企業向け・中小企業向けの2本立てで運用されてきましたが、2026年度税制改正により中小企業向けの枠組みが大幅に見直されました。
2026年度改正の主な変更点
- 基本控除率の引き上げ:雇用者給与等支給額の対前年度増加率が1.5%以上の場合、増加額の15%を税額控除(従来どおり)。増加率2.5%以上で控除率が30%に引き上げ。
- 上乗せ措置の拡充:教育訓練費の増加要件(対前年度比10%以上増加)を満たすとさらに10%上乗せ。加えて、くるみん・えるぼし等の認定取得で5%上乗せ。
- 繰越控除の導入:控除しきれなかった金額を最大5年間繰り越せる措置が新設。赤字期が続く創業期の法人にとって大きなメリットです。
- 適用期限の延長:2027年3月31日までに開始する事業年度が対象。
ポイント:繰越控除の新設は創業期の法人にとって特に重要です。従来は「せっかく賃上げしても赤字で法人税がゼロだから控除を使えない」というケースが多くありましたが、繰越控除によって黒字化した年度にまとめて控除できるようになりました。
02創業期の小規模法人でも使えるのか?適用判定フローチャート
「中小企業向け」の対象は、資本金1億円以下(または出資金1億円以下)の法人で、一定の大規模法人に支配されていないことが要件です。スタートアップやひとり社長の法人も十分に該当します。以下のフローで適用可否を確認してみましょう。
適用判定の流れ
- 法人の規模要件を確認:資本金1億円以下かつ、常時使用する従業員数が1,000人以下であること。
- 比較対象となる前事業年度があるか確認:設立初年度は「前年度の給与支給額」がゼロとなるため、原則として給与支給額の増加額=当年度の支給額全額が対象になります。
- 雇用者給与等支給額の増加率を計算:(当年度の支給額 − 前年度の支給額)÷ 前年度の支給額 で算出。設立2期目以降は1.5%以上の増加が必要です。
- 上乗せ要件の該当有無を確認:増加率2.5%以上か、教育訓練費の増加やくるみん等認定があるかを確認。
- 税額控除限度額を計算:控除額は法人税額の20%が上限。超える部分は繰越控除の対象に。
注意:「雇用者給与等支給額」には役員報酬や役員の親族である特殊関係使用人への給与は含まれません。社長ひとりだけの法人では適用できないケースがほとんどです。最低でも役員以外の従業員が1名以上いることが実質的な前提になります。
03具体的な計算シミュレーション
ケース:設立2期目の小規模法人(従業員3名)
以下の前提で税額控除額をシミュレーションしてみます。
- 前期(1期目)の雇用者給与等支給額:1,200万円(従業員3名、月額平均約33万円)
- 当期(2期目)の雇用者給与等支給額:1,320万円(昇給により月額平均約37万円)
- 増加額:120万円(増加率10%)
- 当期の法人税額:80万円
- 教育訓練費の上乗せ要件:該当なし
計算ステップ
- 増加率の判定:120万円 ÷ 1,200万円 = 10% → 2.5%以上のため控除率30%が適用
- 税額控除額の算出:増加額120万円 × 30% = 36万円
- 控除上限額の確認:法人税額80万円 × 20% = 16万円
- 当期控除額:16万円(上限に達するため)
- 繰越控除額:36万円 − 16万円 = 20万円を翌期以降に繰越可能
このケースでは当期だけで16万円の法人税が減額され、さらに20万円分が翌期以降に繰り越せます。従業員3名の小さな会社でも、しっかり賃上げを行えば大きな節税効果が得られることがわかります。
04申告手続きの流れと必要書類
賃上げ促進税制は「申告時に所定の明細書を添付する」ことが適用の要件です。確定申告書を提出した後から遡って適用を受けることは原則できませんので、申告前の準備が重要です。
必要な手続き
- 別表六(三十一)の作成:「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を作成し、確定申告書に添付します。
- 雇用者給与等支給額の集計:給与台帳をもとに、役員報酬を除いた雇用者への給与・賞与等を前期・当期それぞれ正確に集計します。
- 教育訓練費の集計(上乗せ適用の場合):外部研修費用やeラーニング費用等を集計し、前期比10%以上の増加を証明できる資料を整えます。
- 繰越控除を利用する場合:控除余裕額の繰越に関する明細書も併せて添付します。適用初年度から継続して書類を提出する必要があります。
申告書作成ソフトを使っている場合でも、別表の自動計算に対応していないケースがあります。判断に迷う場合は、決算前の段階で税理士に相談しておくと安心です。
05創業期の法人が押さえておきたい実務上の注意点
設立初年度の取扱い
設立初年度については、前事業年度が存在しないため「雇用者給与等支給額の増加」という比較計算ができません。ただし、税制改正の経過措置や個別通達により、設立事業年度の取扱いは年度ごとに異なることがあります。2026年度改正後の取扱いについては、顧問税理士に必ず確認してください。
給与計算のタイミングに注意
期末ギリギリの昇給や賞与支給で要件を満たそうとする場合、「未払計上」が認められるかどうかが問題になります。原則として、その事業年度中に実際に支給した(または支給が確定した)金額が対象です。形式的な操作とみなされないよう、昇給の合理的な理由と社内決裁の記録を残しておきましょう。
他の税額控除との併用
賃上げ促進税制は、中小企業投資促進税制や所得拡大促進税制の後継制度との併用が可能ですが、法人税額の20%という控除上限は複数の税額控除で共有されるケースがあるため、どの制度を優先的に適用するかの検討も重要です。
- 2026年度税制改正で賃上げ促進税制の控除率・上乗せ要件・繰越控除が拡充され、中小企業にとって使いやすくなった。
- 資本金1億円以下で役員以外の従業員がいれば、創業期の小規模法人でも適用対象になり得る。
- 設立2期目・従業員3名の法人でも、10%の賃上げで36万円の税額控除(うち16万円を当期控除、20万円を繰越)が可能なケースがある。
- 繰越控除の新設により、赤字期が続く創業期でも将来の黒字時に控除を活用できる。
- 申告書への別表添付が必須要件のため、確定申告前の準備と税理士への相談が重要。
